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ゆく年くる年

あっという間に年の瀬ですね。(トップ画像は私の住むPori市の旧市庁舎です)

日本の皆さまは学生さんなら冬休み、社会人の方は仕事納めとともに、年賀状宛名印刷(or手書き)に追われていらっしゃるでしょうか。

 こちらフィンランドでは、12月24日のイブがクリスマス本番。つまり準備する側は一番力が入る日なので、日本より一週間前に忙しさのピークがやってくるといえば分かりやすいかもしれません。

 コロナ禍も丸二年が経とうとしている今、完全にコロナ前に戻るということは無く、制限を緩めては引き締め、状況を見ながら気を付けて生活をしていく時期がこちらでもまだ半年は続きそうな様子です。今回は個人的に、一年の後半を振り返り思う事などを綴ってみようと思います。

 2020年はパンデミックとなって、ロンドンを皮切りに、ヨーテボリ、フランクフルト、フィンランドでも書籍見本市が軒並みキャンセル、またはバーチャル開催となり、ある意味寂しい年でした。今年、2021年秋は、上山美保子さんが書かれたように(https://note.com/nordiclanguages/n/nb0e413eaa75e)実質二年ぶりの書籍業界対面イベントで久しぶりに業界が盛り上がったようです。

私も10月にフィンランド文学輸出をやっている組織の知人と話した所、「もうすぐ皆と会えるなんてまだ信じられない!」と喜びもひとしおの様子でした。

丁度その後、11月1日に、前回の記事で書かせて頂きました、祥伝社さんよりの『マリメッコの救世主 ~キルスティ・パーッカネンの物語~』が刊行となり、2年前のサステナブルなコーヒーの本『世界からコーヒーがなくなるまえに』(青土社)以来の訳書を出すことができました。 

原書 ”Loputtomat loiset”(2018LIKE)と邦訳『寄生生物の果てしなき進化』(草思社2021)

そして、上と並行して翻訳を進めていたポピュラーサイエンス本、『寄生生物の果てしなき進化』(草思社)が12月10日刊行となりました。原題は「終わりなきパラサイト(寄生生物)」という意味で作者はサイエンスブログ「”Kaiken takana on loinen” (すべての背後にパラサイトがいる)」というタイトルでかなりの人気を誇っています。
2020年9月に実施した翻訳者の会のプレゼン会(スウェーデン大使館にて実施)でご紹介した作品でしたが、やっと日本の方に読んでいただけることになり本当にほっとしています。
あの時決まった他の作品も、全部ではありませんがだいぶ出揃って来たようです。

こちらの作品は版元、草思社さんの新刊ツィートで印象的なジャケット(表紙)のおかげで1500件を超える「いいね」、500件を超えるRTがあり嬉しい驚きでした。

また、レジュメを作る際、参考にさせて頂いた類書のなかでも『寄生蟲図鑑』や『えげつないいきもの図鑑』他多くの著書をお持ちの大谷智通さん(スタジオ大四畳半代表)がツィッターで本書を好意的に紹介して下さり、エルンスト・ヘッケルによる絵にも画集リンク付きで反応され、感無量でした。 

 監修は目黒寄生虫館の館長である倉持さんがして下さり、それ自体鳥肌ものなのですが、こちらのロゴにはフタゴムシが入っています。なんだかあるべきところに収まったというか…(原書の表紙はフタゴムシが取り除かれたスペースにタイトルが入っていたのですが、邦訳表紙でトサカデザインさんが復活させて下さっていて、目黒寄生虫館館長が監修して下さるという収まり、いやこれ、私のこじつけですか?)

目黒寄生虫館さんサイト、スクリーンショットです。青い線で囲んだ部分のロゴ、
交差してる子がフタゴムシ。ちなみに入館無料、寄付Welcomeだそうです!

はい、訳書の表紙もう一度出しますね。帯の下に奥ゆかしく隠れている部分です。

左の原書では真ん中の一番下がタイトル文字で、フタゴムシが消えているのです。邦訳で復活。

あっ「じゃあ日本語版で消えた、原書左下の可哀そうな子はなんなん?」って聞いたらダメ、絶対。(ヘッケルの画集ご覧になったどなたかこっそり教えてください)

余談ですが、大谷さんのプロフィール画像はハナビルが鼻から出ている一度見たら忘れられないインパクトのあるもので、これは『寄生蟲図鑑』の挿絵を担当された、佐藤大介さんの同書最初の方に出てくるファンキーなイラストです。別のご本人写真はこういうものはぶら下げてはおられません。(誰も聞いてない) 


えー、ここでちょっとえせ関西弁にチェンジしていいですか? 

…ほないくで?
<スイッチオン>

でもな、表紙だけちゃうねん、これほんまにめっちゃええ本やねん!どんなんかって?

それがな、絵だけ見たら寄生虫のキモい話なんかなって思うやろ?全然ちゃうねん。写真もイラストもゼロやから。文字オンリー。嘘やないって!だからキモイの苦手な人もオッケーやから!たこ焼き賭けてもええわ。

あとな、寄生虫だけちゃうねん。なんて言うたらええかな。作者がな、俯瞰してて言うてること大きいねん。私、自分が読んでて蟻んこより小さい、いやミクロレベルで心も視野もせまいんがよう分かったわ。なんや生態系、エコシステムて壮大なロマンやで。…え?いやマロンは栗やん。

まず地球上で生物の歴史があるやろ、そのあと霊長類、ほらサルやら人間やらになってくるやろ、その頃からパラサイトてうちらと一緒におんねん。えらい長い付き合いやん?それやのに私らパラサイトのこと全然分かってへんやろ?そこではいこれ。感染症だけじゃなく、細菌だけじゃなく、ウイルスだけでもなく。結局全体の絡みってどないなってんの?っていう入口に丁度ええ入門書やで!…知らんけど。
税込みで2420円とお安くしとくさかい、お年玉とかポケットマネーで買うといてな、頼んだで!(百歩譲って図書館でもええわ)電子も来年には出るしな。

あ、そろそろ梅田着くやんな、京都線乗り換えな。ほなまたね!
<スイッチオフ>

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 えへん、失礼しました。なんでですかね、気持ちが出るんですよ、えせ関西弁の方が。 

「訳者あとがき」も初めて真面目路線から少しばかり外れました。関西弁ちゃうで、いや違います。そもそも、監修者がおられるので訳者あとがきは予定になかったのですが、編集の吉田さんにダメだったら諦めますが書きたいです!って恫かts..いえ、つまりごねました。

読後、くすって笑ってくださった方は前述大谷さん含め、既に数名ゲットしております。ぐふふ、狙い通りです。

 …という訳で、なんとか他の仕事と同時進行で2冊出すことができました。

私の場合は、まだ合わせて4冊と訳書数は少ないですが(+靴家さちこさんとの共著が一冊)、来年節目の年齢を迎えること、周囲の50代の先輩たちが終活という言葉をぽつぽつと口にされることが増え、年齢問わず世のために何ができるかを考えておられる志の高い方も周りに何人もいらっしゃいます。改めて、「翻訳であれば、体力があるうちにあと何冊世に送り出せるんだろう?」と考えるようになりました。

 折しもコロナ禍で、あちこち仕事で家を空けていた生活と打って変わって、少しは立ち止まって考える事ができたのもあるかもしれません。「風の時代」という言葉も良く耳にしましたし、本来の自分に立ち返り、大切なものは何かを思い出したといいましょうか。私よりずっと深く考察されている方が多いように感じます。そんな中、これからはより心から訳してみたい本とじっくり向き合っていこうという気持ちが固まりつつあります。

 そういえば『世界からコーヒーがなくなるまえに』(原題 ”Kahvivallankumous”で「コーヒー革命」という意味)と出会った時、これからサステナブルを軸にぶれない自分で行こうと思わせてくれた本でした。

 

キルスティさんは折しも邦訳が発売された直後に他界。楽しみにして下さっていましたが、手に取っていただく事は叶わず…本作品の映画化がフィンランドで進んでおり、完成が楽しみです。

『マリメッコの救世主』は人目を気にせず夢に進むこと、愛と感謝が大切であることを教えてくれました。女性の社会進出という点でも。

 

パラサイトと人間の関わりに気づかせてくれる本

『寄生生物の果てしなき進化』は、私たちが生きる宇宙船地球号には人間が頂点にいるわけではなく、数百万年の付き合いのパラサイトも無数に体内外にいること、すべてが平等に生態系を成していること、環境の変化で、小さな細菌やウイルスが簡単に世の中を激変させること、地球全体のワンヘルスという考え方、改めて謙虚に自然と折り合いをつけなくてはならないと学びました。

 小さいころから本に夢中ではありましたが、人生の色々な場面で自分にない物の見方や新しい世界を垣間見せてくれ、想像力を掻き立ててくれる存在であり続けてくれています。そして未読の本が世界中にあふれています。

コロナ禍で、改めて古典や名作にはまる人が増えたのも素敵な事だと思います。イベント会場が閉まっていてもWiFiが不調でも本は読めるのですから。ちなみにマンガも大好きです、いやもう最高ですね。そして積読はどんどん増えますが、この現象に名前をつけたい!要は 
         読む < 買う 
の不均衡ですので左項を加速すれば等式に近づいていくのですが。

 来年は、大切な作品との出会いがあり、それにがっぷり四つに組んで(さながら相撲)付き合って下さる方と一年かけて取り組む予定でいます。また時期が来たら、この場やSNS等でご報告させて下さい。

 そして皆様、来年もどうぞ我らが「北欧語翻訳者の会」を宜しくお願い致します。

オンラインや対面でのプログラムも企画していきますし、2021年と同様にそれぞれの会員がそれぞれの軸で選び、心を込めて取り組んだ訳書も豊作の予定ですのでお楽しみに!

 皆様にとって、来る年が健やかで幸せなものでありますよう願っています。

 (セルボ貴子@フィンランド)

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