Nora kalejs

2021年の11月に27年間連れ添った妻の順子を亡くしました。あの日から僕のすべてが変…

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2021年の11月に27年間連れ添った妻の順子を亡くしました。あの日から僕のすべてが変わってしまったように思います。それまで長く続けていたブログをやめたのは彼女と共に歩んだ人生が終わったから。それ以後の僕は「余生」を生きているように思えます。これはその「余生」の記録です。

記事一覧

かつて自分がいた場所へ

このところなんだか家の修理ばかりしている。電気温水器が壊れて、インターホンが壊れて、腐ったウッドデッキが崩壊してきて、庭の隅にある物置小屋の屋根に穴が開いてきた…

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4日前
46

縁みたいなもの

一昨日の5月12日で僕は東京を離れて13年が過ぎた。それでこの伊豆の家に住むことになった「縁」みたいなものについて考えていたのだけれど、昔ブログに書いた記事のことを…

Nora kalejs
1か月前
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清く倹しく美しく

家に設えた何十万円もする薪ストーブが自慢の夫婦がいる。都会からやって来て田舎暮らしを演出するには、何はなくとも薪ストーブなんだそうな。その家に招待されると、パチ…

Nora kalejs
6か月前
31

ひでじのこと

ひでじの様子がちょっとおかしいな? と最初に気づいたのは、たしか10月の初め頃だったと思う。うちの猫たちは外から帰って来ると「ただいまー」って挨拶をする。僕はそれ…

Nora kalejs
7か月前
61

四十年前の町から

9月の終わり頃に「四十年前の町へ」という記事を書いた。ホームベーカリーで出来損ないのパンを焼いた日に、ふと順子が学生時代にアルバイトをしていたパン屋さんのことを…

Nora kalejs
8か月前
81

赤に別れを

車の塗装が臨界点に達しつつある。 赤はホントに駄目だよね。新しい時はきれいなのに劣化が激しい。車を楽しみと思わない人は赤なんて買っちゃダメだ。と言わなくても赤な…

Nora kalejs
8か月前
38

バナナはどこへ行ったかな ♪

田舎のスーパーには珍しく普通より小さいバナナを見つけたので買って来た。小さいといってもモンキーバナナほど小さくなくて1本が12~3センチ。でも味はどこかモンキーに似…

Nora kalejs
8か月前
19

星の降る夜

午前1時半。こんな時間だからそろそろ寝るか? という人はいっぱいいても、こんな時間から一日が始まる人はあんまりいないと思う。僕が一日中座っている机の前には大きな…

Nora kalejs
8か月前
51

いつか書いた日記

僕は毎朝散歩をする、という優雅な習慣を持っている。今朝いつもの道をいつものように歩いていたら、枯れて枝ばかりになった銀杏並木の下でウグイスの声が聴こえてきた。ホ…

Nora kalejs
8か月前
32

書かなくなり考えなくなり

運営側から「一定期間更新がないと云々」みたいな通知が来たのでブログを閉じました。昨年の12月31日に「もう書きません」と告知してから9か月。みなさんありがとうござい…

Nora kalejs
8か月前
41

浮世から遠く離れて

一昨日の夜に熱海へ行って、行った理由はともかく夜の熱海なんて車で通過することはあっても街を歩いたのなんて一体何年、いや何十年振りなんだろうかと思った。平日だった…

Nora kalejs
9か月前
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四十年前の町へ

何日か前にパンを焼いた。 焼いたといっても僕は材料をホームベーカリーに放り込んでスイッチを押しただけ。だから焼いたのは僕ではなく機械だ。2年前の小麦粉。2年前のド…

Nora kalejs
9か月前
41

夢を見て思い出したあの子のこと

昨夜のことだけど僕の娘が訪ねて来る夢を見た。 もちろん僕には子供なんていない。それなのに夢の中では父娘であることが当たり前で、「これからどうするの?」みたいなこ…

Nora kalejs
1年前
45

廃別荘の崩れた物置の中で

とらじは先週の土曜日に折れてしまっていた下の犬歯2本を抜歯した。歯というのは表面を固いエナメル質に覆われているけれど、ポキッと折れたら中の象牙質や歯髄が露わにな…

Nora kalejs
1年前
50

希望という名の

6月になると思い出すことがある。 いまから9年前の6月に僕は36年間嗜んだ煙草をやめた。なぜやめたかというと、東京から移り住んだ国東での暮らしを終わりにしてまた東日本…

Nora kalejs
1年前
36

てきぱきとすぱすぱと迷いなく

うちの車を診てもらっている整備工場は、おいちゃんとおばちゃん2人でやってる昔ながらの小っちゃな修理屋さん。おいちゃんは若いころ草レースをやってた人で、今も工場の…

Nora kalejs
1年前
40
かつて自分がいた場所へ

かつて自分がいた場所へ

このところなんだか家の修理ばかりしている。電気温水器が壊れて、インターホンが壊れて、腐ったウッドデッキが崩壊してきて、庭の隅にある物置小屋の屋根に穴が開いてきた。そんなのを出来もしないのに四苦八苦していると草は伸び、木は枝を広げ、切っても切ってもキリがない。一体俺は何をやっとるんじゃ? と専門業者に頼めないお財布状況を嘆いていた昨夜、あることを思い出した。

今から35年前、僕は初めて日本を出て異

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縁みたいなもの

縁みたいなもの

一昨日の5月12日で僕は東京を離れて13年が過ぎた。それでこの伊豆の家に住むことになった「縁」みたいなものについて考えていたのだけれど、昔ブログに書いた記事のことを想い出したので時系列をリライトしてみました。

今から22年前の2002年。僕は東京の大森に住んでいてホンダのシティという車に乗っていた。当時でさえ相当に型遅れの大古車だったけれど、走行距離が少なくて程度のいいタマだった。惜しむらくは屋

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清く倹しく美しく

清く倹しく美しく

家に設えた何十万円もする薪ストーブが自慢の夫婦がいる。都会からやって来て田舎暮らしを演出するには、何はなくとも薪ストーブなんだそうな。その家に招待されると、パチパチと燃える火の前で誰もが延々と薪ストーブに関する蘊蓄を聞かされる。そういえば僕も一度うんざりするほど聞かされたっけ。確かに薪ストーブは暖かい。そりゃ暖かいよ、家の中でばんばん火を焚くんだから。

でも薪は買うととても高価なのでひと冬運用す

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ひでじのこと

ひでじのこと

ひでじの様子がちょっとおかしいな? と最初に気づいたのは、たしか10月の初め頃だったと思う。うちの猫たちは外から帰って来ると「ただいまー」って挨拶をする。僕はそれに応えて「どこ行って来た?」「何して遊んできた?」って尋ねながら身体を撫で回してあげる。
ひでじが帰って来たときの「ただいまー」って声が妙に大きい声だな、と思ったのが始まりだった。庭で会ったときも猫たちは挨拶をしながら寄ってくる。そんなと

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四十年前の町から

四十年前の町から

9月の終わり頃に「四十年前の町へ」という記事を書いた。ホームベーカリーで出来損ないのパンを焼いた日に、ふと順子が学生時代にアルバイトをしていたパン屋さんのことを思い出し、彼女の大学時代の友人にそのパン屋さんの所在を教えてもらったという話。それはつくばにある老舗のパン屋さんで屋号は「モルゲン」さん。でもそのモルゲンさんは8月から休業していて何度電話してみても繋がらなかった。それで僕はお店の店主さん宛

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赤に別れを

赤に別れを

車の塗装が臨界点に達しつつある。
赤はホントに駄目だよね。新しい時はきれいなのに劣化が激しい。車を楽しみと思わない人は赤なんて買っちゃダメだ。と言わなくても赤なんて買わないか。だって日本の道路を走ってる車の7割くらいは白と黒と銀だもんな。
僕は昔から赤い車は好きだったし、このフィットは順子も「赤だとかわいいね」って言ったんで買った。うちへ来て今年で5年。初年度登録からは15年。まあ15年も紫外線に

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バナナはどこへ行ったかな ♪

バナナはどこへ行ったかな ♪

田舎のスーパーには珍しく普通より小さいバナナを見つけたので買って来た。小さいといってもモンキーバナナほど小さくなくて1本が12~3センチ。でも味はどこかモンキーに似て濃密だった。こりゃうまいや。

タイのバンコクから夜行列車で一晩走ると、翌朝マレー半島のほぼ中央部にあるスーラターニという小さな町に着く。駅から港までソンテウ(乗り合いバス)で30分。そこからオンボロ船に揺られて小1時間。半島東側のシ

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星の降る夜

星の降る夜

午前1時半。こんな時間だからそろそろ寝るか? という人はいっぱいいても、こんな時間から一日が始まる人はあんまりいないと思う。僕が一日中座っている机の前には大きな窓があって、こんな時間に部屋の灯りを点けずにいると満天の星空が見える。夏の間はデッキに日除けをつけていたので見えなかったけれど、一昨日それを外したから机に座ったままでも部屋の灯りやパソコンを消せば星が見えるようになった。

高校生の頃、月に

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いつか書いた日記

いつか書いた日記

僕は毎朝散歩をする、という優雅な習慣を持っている。今朝いつもの道をいつものように歩いていたら、枯れて枝ばかりになった銀杏並木の下でウグイスの声が聴こえてきた。ホーホケキョ、とそれは美しい声が。
どこにいるんだろうと見上げても、冬枯れの銀杏にはカラスぐらいしかとまっていない。そもそもこんな冬にウグイスが鳴くのか?
だけどその声は絶え間なく聴こえてくる。ホーホケキョ。歩道の隅に皺くちゃの紙袋をぶら下げ

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書かなくなり考えなくなり

書かなくなり考えなくなり

運営側から「一定期間更新がないと云々」みたいな通知が来たのでブログを閉じました。昨年の12月31日に「もう書きません」と告知してから9か月。みなさんありがとうございました。
仕事もやめ、ブログもやめ、僕はめっきり文章を書かなくなった。ものを書くことは考えることでもある。だから書かなくなるということは考えなくなること。考えなければ頭はどんどん退化していく。この数年僕は自分の頭の退化をしみじみと実感し

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浮世から遠く離れて

浮世から遠く離れて

一昨日の夜に熱海へ行って、行った理由はともかく夜の熱海なんて車で通過することはあっても街を歩いたのなんて一体何年、いや何十年振りなんだろうかと思った。平日だったからそれほど混んではいなかったけど、それでも夜7時の熱海は浴衣姿やカップルで賑わっていた。
僕は毎日の暮らしの中で夜7時にベッドへ入る。その時間になるとわが家の周りはしんと静まり返って、月のきれいな夜には銀色の月光がしんしんと庭に降り注いで

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四十年前の町へ

四十年前の町へ

何日か前にパンを焼いた。

焼いたといっても僕は材料をホームベーカリーに放り込んでスイッチを押しただけ。だから焼いたのは僕ではなく機械だ。2年前の小麦粉。2年前のドライイースト。2年前のケーキマーガリン。そして2年前の砂糖と塩。さすがに牛乳だけは2年前ではなく最近買ったものを使った。
焼きあがったパンはパンの体を成していなかった。まったく膨らまずに鏡餅みたいな形のパンになった。やっぱりそれだけ古い

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夢を見て思い出したあの子のこと

夢を見て思い出したあの子のこと

昨夜のことだけど僕の娘が訪ねて来る夢を見た。

もちろん僕には子供なんていない。それなのに夢の中では父娘であることが当たり前で、「これからどうするの?」みたいなことを心配する娘と会話している自分がいた。何を話していたのかも、その娘がどんな顔をして幾つだったのかも思い出せないけど。

僕は32歳から45歳までの13年間、タイの民間団体がやっている里子支援のプログラムに参加したことがある。タイにはこう

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廃別荘の崩れた物置の中で

廃別荘の崩れた物置の中で

とらじは先週の土曜日に折れてしまっていた下の犬歯2本を抜歯した。歯というのは表面を固いエナメル質に覆われているけれど、ポキッと折れたら中の象牙質や歯髄が露わになってしまう。たぶん外暮らしの間の喧嘩で折れたんだろうが、レントゲンで見ると神経の部分が腐ってしまい、そこから歯根にかけて深く慢性的な炎症を起こして下顎の骨にまで影響が出ていた。うちで保護した時から時折口臭がひどかったのもそのせいだったんだな

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希望という名の

希望という名の

6月になると思い出すことがある。
いまから9年前の6月に僕は36年間嗜んだ煙草をやめた。なぜやめたかというと、東京から移り住んだ国東での暮らしを終わりにしてまた東日本へ戻ることが決まったから。といってもなんのことやら分からないだろうなあ。

2011年の5月に僕と順子は東京の家を引き払い、彼女の故郷である大分県の国東へ移り住んだ。彼女と出会った当初から、いつかは都会暮らしをやめて国東へ移住しようと

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てきぱきとすぱすぱと迷いなく

てきぱきとすぱすぱと迷いなく

うちの車を診てもらっている整備工場は、おいちゃんとおばちゃん2人でやってる昔ながらの小っちゃな修理屋さん。おいちゃんは若いころ草レースをやってた人で、今も工場の裏にセリカのリフトバック2000GTがレストア待ちになってたりするし、そこいらにトヨタの古いツインカムエンジンなんかが無造作に転がっていたりする。ここへ引っ越して来たときそんな景色を通りがかりに見て、「ああここなら自分と波長が合いそうだなあ

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