映画「サプライズ」、毒親育ちの無双劇

大学時代の同級生がホラー映画好きなので、よく映画会と称して洋画ホラーを見る。
ジャパニーズホラーと違って洋画ホラーは、人が襲ってくるだけなので怖くない、とよく言われるが、何もしていないのに人が襲ってくるのは充分怖い。
どちらかと言えば、その恐怖に対して、登場人物が比較的強いから怖くない、とか、スプラッタ表現が血糊ばかりで現実離れしているから怖くない、という方が近い。

Amazonプライムで放映されている「サプライズ」もそのひとつ。
両親の35周年の結婚記念日に別荘に集まった子供たちとその恋人たち。しかし、突然トラ、ヒツジ、オオカミの仮面を被った男たちにボウガンで襲撃される。
外部と連絡をとろうにも、妨害電波を出されていて電話は通じない。
1人また1人と殺されていく中、次男の彼女だけが、キビキビと窓のロックをかけたり、対抗するための罠を仕掛けたりと応戦。
次男をして「別人みたい」と言わしめる程の無双っぷり。
どこでそんな訓練を受けたのか、と三男の彼女が聞いてみると、あと数年で資源が枯渇し戦争が始まるという妄想に取り憑かれた父親に連れられて、サバイバルキャンプの経験がある、と答える次男の彼女。そんな彼女はなんやかんやで、物の見事に仮面男を撲殺。
実は、三男とその彼女、次男がグルで黒幕。遺産目当てに両親と長男カップルを殺そうと人を雇っていたことが発覚。
最終的には次男の彼女に黒幕含めた犯人一味は皆殺しにされる。
そんな次男の彼女も駆けつけた警察官に撃たれ、警察官は彼女のしかけた罠に引っかかり頭上から斧が落ちてくる。

出演者全員死亡の、あんまり頭を使わないで見るのに最適なR-12映画で、次男の彼女の無双っぷりは、むしろスカッとするくらい。

とはいえ、ふと考えてしまうのは彼女の生い立ち。

第一次世界大戦中、兵士たちは中々敵兵を撃つことができなかった。それは同胞殺しへの忌避感から起こるもので、戦時中の死因も、直接狙った銃弾によるものは少なく、流れ弾や大砲によるものが多かったという。
その事実から、ベトナム戦争において、兵士は徹底的に何も考えずに反射的に相手を殺すことができるように教育されたという。

次男の彼女は、あまりにもごく自然に相手を(しかも急所を狙って)殺害しており、父親から求められたサバイバルキャンプが、いわゆる「テントも寝袋も何も無いところでキャンプをする」というものではなく「戦争に特化した人殺し養成合宿」だったことが伺える。
それが父の妄想から来るものだったのなら、それは若き女性にとってどんなに辛かったものだろう。
そして、彼女は大学に行くのに奨学金を借り、からにバーでバイトまでして生活している。
彼女の両親は金銭的にも彼女を支援しなかったのだろう。

そんな彼女を憐れんでくれる人も助けてくれる人もいないまま、強い彼女は敵を皆殺しにしていく。

ふと、彼女が本当に殺したかったのは誰なんだろう、と思いながら、彼女が自分を裏切った自らの彼氏を屠る場面を、1番スカッとしながら見ていた。

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