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「ドグラ・マグラ」(夢野久作著)に目を通してみた【ゆるい読書感想文】

奇書と名高い「ドグラ・マグラ」。
電子書籍を借りて目を通してみました。

「ドグラ・マグラ」とは

夢野久作様著の推理小説(?)。
構想・執筆に10年以上をかけた超大作。
上下巻合わせて総字数45万字超えと、ボリュームの意味でも超大作です。

そして同時に「日本探偵小説三大奇書」のうちの一つとされている、「精神に異常をきたす」なんて噂もある一作です。

今となっては実用書や漫画ばかり読むようになってしまいましたが、中学時代までは図書室に通い、よく小説を読んでいました。

職を無くして時間を持て余している今、せっかくだから久々小説を読んでみよう…と思ったところ。
何を思ってか、YouTubeか何かで紹介されていた「ドグラ・マグラ」を、
無謀にも手に取ってしまったわけです。

まず、あらかじめことわっておきますと
「読破」と言わないのは、圧倒的なボリュームにより読み込みきれなかったからです。

先程「45万字超え」とお伝えしましたが
それは小説の中に「論文・推理小説・長編詩・レポート・新聞記事」が丸々盛り込まれているからです。
しかもレポートや新聞記事に至っては複数。
論文、推理小説、長編詩に至っては、個別でも冊子が作れるレベルです。

小説の中に別の作品が何冊も入っている…。
まるでアンソロジーのようだ…と思いましたが、アンソロジーでもこんなボリュームは有りませんね。

それを読み切る集中力がなかったので、大変失礼ながら「目を通し」ながら進みました。
大体14時から読みはじめて、「目を通し」終わったのが21時…。
丁寧に読み込んでいたら、きっと24時間あっても足りないでしょう。

ちなみに内容も超難解でした。
私の国語レベルでは難しい。
話の展開の都合上、時系列を把握するのも難しかったです。
(読み終わった今でも間違って認識してるかも)。

ざっくりあらすじ(導入部分) 

ブーンンン…という時計の音で目覚めた主人公は、見知らぬ部屋にいる。
しかも自分に関する記憶もない。

そこへ「若林」という法医学者が現れ
・ここは九州帝国大学の精神病棟であること
・主人公は「正木」という精神学者の実験に関わる、精神病患者だということ
・主人公はある殺人事件に関わっており、それに関する記憶を取り戻すことが、実験の成功であること
・殺人事件の内容は「結婚式前夜の男が、夢遊病を発症し婚約者を絞殺した」というもの
・正木博士は先月に身を投げてしまい、若林博士が実験を引き継いだこと

を伝えられる。

記憶を取り戻すため、自身の姿を鏡で見たり、
主人公と関連する人物と対面したり、
精神病棟の患者の創作物を鑑賞したりと、
あらゆる方法を試すが、依然記憶はもどらない。
そこで若林博士から、正木博士の遺した論文や遺書を手渡され、それを読むことになるが…。

野乃なりのあらすじ

以上が、ざっくりとした導入です。
本当は結末まで書きたかったのですが、読解力に不安があり、間違った内容をお伝えしかねなかったので断念しました…。

結末まで気になる方は、ぜひご自身でご拝読ください。
読む自信がない方は、「ドグラ・マグラ」で検索すればより詳細に記述されているサイトを見つけられますので、ぜひそちらを…。


ゆるい感想 (ちょっとネタバレ有)

難しい考察はできないので、本当に率直な感想のみ。

①フィクションと分かりつつ引き込まれる、正木博士の理論

主人公が読んでいる、正木博士の遺した文書。
実はこれが物語の大半を占めています。

どれも正木博士の思想を色濃く表したもので
各文書の主題も「地球表面は狂人の一大解放治療場」や「脳髄は物を考える処にあらず」など、インパクト大。

そんな正木博士の理論のなかで、特に面白かったものがありました。

まず、正木博士の卒業論文「胎児の夢」の内容。
正木博士曰く、胎児は胎内の10ヶ月間で、細菌類から人類までの生物進化を経験し、その夢を見ているのだそうです。
親の代までの記憶を経験し終えた頃がちょうど10ヶ月で、全て見終えてようやくこの世に誕生。
赤ちゃんが生まれた時から人らしい姿、言動をできるのはその潜在的な記憶があるためなんだそうです。

もう一つが、正木博士の遺書で語られる
「ドグラ・マグラ」の要にもなる「心理遺伝」の理論。
「心理遺伝」とは先祖の経験や記憶が細胞レベルで遺伝する事象です。
今まで全くその傾向がなくても、特定の刺激(きっかけ)があることで突然先祖の言動を行うんだそうです。
例えば、今まで全く農業経験の無かったはずの患者が、突然慣れた手つきで鍬で耕し始める。先祖を辿ったところ、その患者の家系は昔農業を営んでいた…というもの。
突発的な行動の発現は、「心理発作」とも言われています。
主人公もこの「心理発作」により、事件を起こしたんだそうです。

以上の理論は、もちろん小説上のフィクションです。
現代では遺伝と環境両方の要因によって人格を形成していると言われていますし、赤ちゃんが社会性を身に着けるのも、周囲とのコミュニケーションがあってこそですし。
全くコミュニケーションを取らないまま栄養だけを与え続けても、いつしか衰弱して亡くなってしまう…という実験結果もあったと思います。
(昔とはいえ、惨い実験ですね…)

心理遺伝の理論についても、もしこれが実在する事象であるならば
プロファイリングの際に、その人の家族や生育環境だけでなく
家系や歴史を遡っていく必要が出てきます。
「歴史」となれば100年、1000年前の情報も含まれますが、流石にそれは現実的ではないですね…。

一応腐っても心理学科卒なので、学生時代に学んだ古い記憶と照らし合わせて「フィクションだ」と判断することはできたのです。
「ドグラ・マグラ」の物語の中でも「胎児の夢」の論文は正木博士の恩師の鶴の一声がなければ受理されなかったもので、「心理遺伝」も正木博士独自の理論のため一般的なものではありませんでした。

…しかしなぜでしょう。
「ドグラ・マグラ」で正木博士の理論を読んでいる最中は
「なるほど、確かに言われてみればそうだな」
「面白い理論だなぁ…」とついつい引き込まれてしまうのです。
ちょうど教科書で新しい理論を学んでいるような気分になりました。

それだけ正木博士の主張に説得力があったのかもしれません。
難しい言い回しを使っているため、完全に理解できるとか、分かりやすいということは決してありません。
でも、絶妙に納得できる事例を持ってきているといいますか…。
空想上の理論をこれだけ理路整然と、説得力を持って説明できる正木博士、もとい著者の夢野久作様の文章力は、凄まじいものだと感じました…。

②時系列・場面把握が難解。ラストシーンも謎が残るまま。

「ドグラ・マグラ」で難解なのは文言だけではありません。
この物語の流れを把握することも、結構苦戦しました。

難しくしている要因の一つは、主人公です。
あらすじで軽く触れた通り、主人公には「夢遊病」の症状を持っています。
そのため突如場面が切り替わるシーンがあるのですが、読んでいる身からすると「あれ、今って結局いつなんだろう?」と困惑してしまいます。
(読解力の問題もあるかもしれませんが…)
主人公が経験したことは今なのか、過去なのか、夢なのか…。
ラストシーンになってもその曖昧さが残り続け、読み終わった後もしばらく考えさせられましたね。答えは出ませんでしたが…。

さらに、
・「ドグラ・マグラ」の物語の中に「ドグラ・マグラ」という作品が登場し、それも全く同じプロローグで始まる。
・主人公にとって唯一の情報源である若林博士や正木博士の言動が、必ずしも真実ばかりではない。

なんて仕掛けもあったりして。
主人公と共に「何が真実なんだ!?」と悩まざるを得ませんでした。
こんなに頭を使わないと読めない小説は初めてです。

③舞台は福岡。親近感。

難しい話は先ほどでおしまいにして、最後はちょっとした感想を。
「ドグラ・マグラ」の舞台は「九州帝国大学」の精神病棟。
「九州帝国大学」とは現代の「九州大学」。つまり舞台は福岡県です。

地元民なため、前知識なく読み始めた時は、親近感が湧いて嬉しくなってしまいました(笑)
諦めずに最後まで読み進められたのは、愛着が湧いたからなのかもしれません。

九州(帝国)大学の他にも、福岡高等学校、福岡大学。
地名であれば、姪浜、筥崎、博多、直方など。
地元民ゆえ「ああ、あの辺りか…」と身近に感じてしまうのです。
まぁ、内容が殺人事件なので是非100%フィクションであってほしいものですが…。
調べたところ、やはり夢野久作様も福岡市出身の方でした。
地元一の進学校卒業されてました。流石…。


以上、「ドグラ・マグラ」読書感想文でした。

数年ぶりの小説読書にしては、ヘビー級すぎましたね…。
実際分量が多すぎて目を滑らせただけの箇所もありましたが、それでも読了感満点でした。

また、半ニートで時間が有り余っている今だからこそ、読めた作品だったと思います。働いていた頃は、「小説を読もう」とすら考えたことなかったのだから…。


初めての読書感想文でしたが、少しでもご興味を持っていただけたら幸いです。ご精読ありがとうございました。


野乃

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