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鮭颪は恋し温和な海波の近くで


雪国からとても遠くへ引越しをした。少しずつ違うところがあるからか、パラレルワールドにでも来たみたいで、不思議な感覚に日々囚われながら過ごしている。
灼熱のビビットカラーな景色を横目に、涼しい部屋での読書は非常に捗った。お供の珈琲は後味が軽やかだったり爽やかなものを。珈琲氷を作ってみたりとアイスコーヒーが絶品すぎる夏だった。

随分前のことだけれど、毎日図書室に通う学生だった。学校の書庫は常に静謐でひんやりとしていた。小さな窓の脇の椅子が好きだった。網戸からぶわっと涼やかな風が入り込んできて昔のことを少し思い出したりした。



𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧



◎桃を煮るひと - くどうれいん

くどうれいんさんの紡ぐ言葉が好きだ。天気のいい日に、人気の少ない土手で時々くるくるとターンしながら散歩をしているかのような気持ちよさがある。

たくさんの食べものが描かれているが、特に瓶ウニがとてつもなく美味しそうでときめいた。特段ウニが好きな訳ではなかったが、喉がごきゅりと音を鳴らした。くどうれいんさんのごはんの描写の美味しそうなこと。

わたしの暮らす岩手県の沿岸地方には「くるみあじ」という方言がある。食べものを食べたときに、「なんともしみじみおいしい」という意味で使う。まったくくるみの味でないものでも、しみじみおいしければそれは「くるみあじ」と呼ばれるのだ。不思議でかわいらしい、わたしのとても好きな方言のひとつだ。

くるみ餅 より

表紙に描かれたぷりぷりとした桃はコンポートのようで、つるつると舌の上で蕩かすように読んでしまった。



◎踊るように寝て、眠るように食べる - ひらいめぐみ

頬が綻ぶタイトルと花原史樹さんのねこのイラストが、とても愛らしくて一目惚れしてしまった日記本。

日記本は何故こんなにも魅力的なんだろう?と思う。本の中でもエッセイを読むことが好きだから、より筆者の方との距離が身近に感じられてしっくりと来るのだろうか。これからも様々な方の日記本を読み様々な感覚に触れたいと紙の触り心地を楽しむ。

本屋さんはいつも幸福を味あわせてくれる。足を踏み入れる度に恋をした感覚になる。特に京都にある誠光社さんは初恋のときのように大きく激しく胸が高鳴った。
ひらいめぐみさんが本を納品する際に本を購入するという文書を見掛ける度、オンラインを含めた様々な本屋さんでまた本とたくさん出逢いたい、そう強く思った。

前作の「おいしいが聞こえる」も購入して、読んでいる。



◎たゆたう - 長濱ねる

セブンルールという番組に出ていて、笑顔が素敵だなと気になっていた長濱ねるさんの著書。

本屋さんになるのが夢という共通点を紹介文で早速見付けてほっこりとする。様々な形態の書店での勤務のことを思い出す。仕事終わり本を購入する度、何だか嬉しそうに接客をしてくれた店長のことを思い出す。その勤めていたお店はもうない。

アイスランドにいる羊たちはもこもこすぎて、一度転んでひっくりかえってしまうと、自力で起き上がることができないらしい。そのまま餓死してしまうか、他の動物に食べられてしまうらしいのだ。ふかわさんは今やその羊たちを助けるのがアイスランドに行く目的になっているという。

愛しのアイスランド より

あちらこちらに足を伸ばし、たくさんの感情に溢れる、まろやかさのある優しいエッセイだった。ふかわりょうさんのアイスランド関連の著書らも読んでみよう。



𖡼.𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧



豚汁を作ると夫と遠距離恋愛をしていた頃を思い出す。
その日、仕事先の人の何気ない言葉に心を抉られてしまった。それを悟られたくないわたしは無理矢理に作った笑顔でアパートに帰宅した。白い扉を開くと野菜の甘い香りが漂う、ミルクガラスでふわりと灯された部屋。そして笑顔の彼が居る安心感。ぷつりと弦が切れたように、わたしはわんわんと泣いた。失礼なことをされたら怒ってもいいのだと、悲しいときは泣いてもいいのだと、気付かせてくれた二十一の夜。彼は豚汁を作るのをやめる?と今でも優しく聞いてくれるけれど、わたしにとってみたらとてつもなく好きなエピソードなのだ。



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