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上手な権力の使い方 − 岩竹美加子『PTAという国家装置』青弓社、2017

 政治理論における「権力」とは「他人の望まない行為を強制する力」のことである。それは例えば「我々に従わないと攻撃するぞ」という脅しというかたちで発揮される。しかし、そういうあからさまな権力の行使は、権力者に対する反感を招き、やがて反撃される危険性を帯びる。
 その点において、上手な権力の使い方をする「賢い権力者」は、あからさまに姿を表して権力を行使したりはしないだろう。著者は、PTAを国家の権力装置とみなし、その権力作用を分析する。

 そもそもPTAとは何か。おそらく誰もが知っている組織でありながら、その全体像や位置づけをわかっている人は少ない。まず、PTAとは学校教育法に基づいて設置される学校に付随する組織であることを確認しよう。

<PTAは巨大な組織である。「全国的にみても最大の社会教育関係団体」であり、「わが国で最大 の地域組織」でもある。つまり、社会教育組織としても地域組織としても、日本最大の規模を持つ。 「しかし、その大きさに比べて外側からは見えにくい組織でもある。PTAという名前を知っている」人は多いだろうが、「何をする組織なのか?」と聞かれて答えられる人は多くないだろう。>(P9)

<多くのPTA会員はその組織の全貌を知らず、自分が全国的組織の末端に位置していることは認識していない。つまり、日本最大の組織とされる半面、それが外側からも内側からも見えにくいとい う矛盾した構造を持つ。 「PTAは私立・公立・国立別に組織化されていて、幼稚園の高校まで、また盲学校、ろう学校、養護学校にもPTAは置かれている。幼稚園は、一九四七年に学校教育法によって学校教育体系の 一環に位置づけられた学校であり、文部科学省が管轄している。一方、保育園は厚生労働省の管轄 であり、児童福祉法に基づく児童福祉施設である。保育園の保護者組織は、PTAとは呼ばれず父 母会などの名称を持つ。また、働く親を持つ小学生が、夕方までの時間を過ごす学童クラブも厚生 労働省の管轄下にある。現在の正式名称は放課後児童クラブだが、学童クラブは、九八年に児童福 祉法と社会福祉事業法のもとに位置づけられた。そこに設置されている保護者組織は、父母会など と呼ばれるが、PTAではない。 つまり、PTAは学校教育法第一章第一条で「学校とは、小学校、中学校、高等学校、中等教育 学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校養護学校及び幼稚園とする」と規定される学校のうち、 大学と高等専門学校を除いた機関に付随する組織と考えることができるだろう。>(P10)

 この組織は、しばしば、あたかも地域のまちづくり活動、すなわち「まちの人なら誰でも使える財を供給する活動」を行う組織であるかのように理解される場合がある。しかし、それは実態と異なるようだ。

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