休みが終わってしまうとしても
長かった夫の休みが終わってしまう。
「終わってしまう」と少し感傷的に書いてみたけれど、実際のところはあまり寂しくも悲しくもない。
むしろ、少しうれしい。
夫が休みのほうが、もちろん楽しいのだけれど。
休みが終わっても、夫と一緒にいられる。
ただそのことがうれしいのだ。
遠距離で暮らしていた間は、休みが終わるということは、しばらく夫と会えなくなることを意味していた。
夫と会う休みの日は、特別で、非日常だった。
非日常が、日常になっていく。
それは、特別感が薄れていくことだと、夫と暮らす前は思っていた。
日常が、こんなにも愛おしいものだとは知らなかった。
ゴールデンウィークは、遠くへは出かけなかった。
非日常を愛していた、以前の私だったら、タイムラインに流れる旅先の写真を羨ましく思ったかもしれない。
けれど、いまの私は、大事にしたい日常があるのだと気づいたから、私は非日常に焦がれなくなった。
他の人にしてみれば、つまらないかもしれない、平凡きわまりない日記だけど。
私が大事にしたい日常の話をしてみようと思う。
今回の休みは、夫のワクチン接種から始まった。
ワクチン接種を終えた夫ぺこりんは、まだ副反応が出るまえから昼寝しはじめる。
「ワクチン接種って、オフィシャルにたくさんお昼寝できるってことかな?」と言いながら。
「ももも、こっちでころんてしたら?」とふわふわのタオルケットにくるまれたぺこりんに誘われる。断れるわけがない。
休みの始まりは、寒い日が続いた。
夕方、スーパーに向かうと、寒さのせいで客足が遠のいたからか、魚介類が安く売っていた。イワシ、エビ、メカジキ、ブリ、アサリを買った。
エビは、半分をオリーブオイルと白ワインで蒸し焼きにし、半分を夫がマリネにしてくれた。イワシは、パン粉をつけて揚げ焼きに。
久しぶりにバリッラのジェノベーゼソースを買う。留学中は、バリッラのリコッタソースをよく買っていたが日本では見たことがない。
夫が、突然「またたびカフェをしたい」と言い出す。
「またたびカフェ」とは、旅先で料理を学び、”また、旅”に出るカフェらしい。
いつか、そんなカフェが開けたらいいね、と言いながら、その日はカナダに旅に出ることにした。
「くらしのきほん」に載っていた「バンクーバーのクラムチャウダー」をつくる、食卓カナダ旅行へ。
よく晴れた日、図書館に予約していた本を取りに自転車で向かう。
鮭のおにぎりと、みそ焼きおにぎりをつくって弁当箱に詰め、夫と公園で食べる。おにぎりだけでは、足りないから、ローソンでLチキとイカのから揚げを買う。大葉を巻いた焼きおにぎりがおいしかった。
図書館にいったあとは、映画館へ。「コーダ あいのうた」を観る。
いい映画だったね、と言い合いながら、帰路につく。
簡単に食べられるものにしよう、とその日の夜は、手巻き寿司にした。
酢飯をつくり終えたぺこりんは、「へい、お待ち!」と威勢よく言ったあとで少し照れくさそうにしていた。
朝、フレンチトーストを焼いていると、「お砂糖入れたの?」とぺこりんが心配そうに聞いてくる。入れたよ、最後にはちみつもかけるよ、と言うと、ぺこりんは安心した様子でコーヒーを淹れはじめた。
ぺこりんが、ピザを焼いてくれた日もあった。
オーブンにピザを入れながら、オーブンに向かって、ぺこりんは投げキッスをしていた。ぺこりんの思い描くイタリア人らしい。
食卓沖縄旅行に出かけた日もあった。
私は、ソーキそばを、ぺこりんはサーターアンダギーをつくる。
ぺこりんはスイーツ男子だね、と私が言うと、「スイーツ男子」という言葉がぺこりんは気にいらないという。スイーツだけが好きなわけではないし、「男子」というとやんちゃなイメージになるらしい。
どんな言葉だったらいいのか尋ねると、「グルメ貴族」がいいとぺこりんは言う。
沖縄から、そのままタイへ出発。
最近、ナンプラーにハマっている私。
電車で近くの街へ出かけた日もあった。
出かける日の朝、ぺこりんの髪をふわふわにして、とお願いされた。ぺこりんの髪はやわらかいから、いつも後ろがぺたっとしてしまう。ふわふわの髪にしたぺこりんはひよこさんみたいだった。
爽やかな風が吹いていて、お散歩日和だった。
ぺこりんは、電車でずっとすやすや寝ていた。お昼寝日和でもあった。
この日訪れた街は、パスタが有名な街らしく、お昼はパスタ店へ向かう。
私は、カルボナーラを、ぺこりんは、わさびクリームのパスタを注文。私ひとりだったら、わさびのパスタなんて頼むことはないけれど、このわさびのパスタがとてもおいしかった。
店に入る前は、「パスタならおうちでもおいしく作れるけどね」と二人で話していたけれど、「はじめての味に出会うのも楽しいね」と言いながら店を出た。
帰りの電車で、またぺこりんはすやすやと寝ていた。
おでかけするのも楽しいけれど、一緒に家に帰って来られるのが楽しいな、と私は思いながら、ぺこりんの寝顔を見ていた。
休みは、もうすぐ終わってしまう。
けれど、私たちの日常はつづいていく。
ただそれだけのことが、愛おしくて、うれしくて、しかたない。