ノンマリ連載短編小説 - 「Letters. 君と詠む歌」 第三首 (全12回)
前回までのあらすじ:前世占いをきっかけに、一緒に短歌を始めることにした玉緒と天津。若い後輩との年齢差に戸惑う玉緒だったが、「今度デートしましょう」と天津からデートの誘いを受ける。
第三首
味気ないハートより リンゴを送る
あとはあなたの 視力に任せる
「別に私、天津くんと付き合う気ありません」
人気の少ない会社の喫煙室で会った瞬間に、そう言ってくる玉緒さんの声は今日も相変わらず氷点下である。
「それは残念です」
「ところで最近の若い子って、ハートの絵文字よく使うんですか?」
「残念、あれはリンゴでした」
それは残念ですね、と言いながら長い前髪を鬱陶しそうに耳にかける。
「玉緒さんって、いま恋人いるんですか?」
「いませんけど」
ちょうどいいじゃないですか、と持っていたライターを渡すと、煙草の味を知らなそうな彼女は妙に手慣れた仕草で火をつけた。
「それに付き合ってなくても、デートはしますよ」
「天津くんは私とデートしたいんですか?」
「ほら、短歌も作ってみたいし」
俺のよりも幾分か軽い紫雲が、プカプカと浮かんで柔らかく広がった。
「じゃあとりあえず、また一緒に帰ってみます?」
—第四首につづく
Letters.君と詠む歌 / 玉舘(たまだて)
前世占いで「ふたりの前世は平安時代の歌人」と告げられた玉緒と後輩の天津。ひとりで生きることに慣れきっていた玉緒は、親しげに距離を詰めようとする天津の若さを暑苦しく感じながらも、彼と二人で"ひと夏の思い出"をつくろうと考える。正反対な二人がおもしろ半分で詠んだ12首の短歌と、その歌が生まれた12の瞬間の物語。
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