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IoT/AI/データで進化する契約スキーム

いわゆるモラハラ問題

「モラル・ハザード」は誰もが聞いたことがある言葉ではないでしょうか。

日本では「モラハラ」と略され、「倫理観が欠如していること」という意味で用いられることも多いのですが、リーガルや情報経済学の観点からは、

契約を締結した者は契約の相手方に対して不利な行動を取るインセンティブを抱きやすいという現象

を指します(ハウェル・ジャクソン「数理法務概論」)。

例えば、保険業界においては、保険をかけることにより保険の対象となる損害の発生リスクが高まるという事実が指摘されています。これは、保険加入者が「どうせ保険でカバーされるし」と考えてリスク回避措置をサボるようになってしまうことが原因であるとされています。

このような現象の背景には、サボる者(例えば保険加入者)の行動に関する情報を、相手方当事者(例えば保険会社)が十分に持ち合わせていないという状況(=情報の非対称性)が存在します。つまり、「いくらサボっても、どうせバレないし、保険でカバーされるし。だからサボってしまおう!」という発想が許容されてしまう状況が存在するのです。

しかし、高まった分の損害発生リスクは保険加入者の保険料負担として跳ね返ってくるにすぎず、結局のところ契約当事者双方に不利益となってしまっているのです。

では、こういった問題は解決できないものなのでしょうか。

情報の非対称性の解消

先ほども指摘したとおり、問題の本質は「情報の非対称性」にあります。

そうだとすれば、「情報の非対称性」の解消の手段があれば問題は解決されるといえます。すなわち、一方契約当事者の行動ないし状況についての情報を他方当事者が十分に入手する手段があれば、ある一定の行動をトリガーとした条項を契約の中に含めておくことによって「モラル・ハザード」に対処することが可能となるのです。

ここで課題となるのは、役立つ情報を入手するには相応のコストがかかるという点です。つまり、相手方の情報を入手するための監視コスト(設備の開発と導入、調査員の人件費等)の負担が、ビジネス全体から得られる収益に対して過大となってしまい、結局は情報入手を諦めてしまうということです。

テクノロジーの可能性

しかし、近年登場してきたIoT、ドローン、AIなどのテクノロジーでこれらの情報入手コストが一気に低下する可能性があります。例えば、契約当事者の情報をこれらのテクノロジーを活用して自動的に収集し、トリガーとなっている契約条件に即して情報を加工し、契約の他方当事者にフィードすることで、情報の非対称性が解消される契約スキームが実現されます。

プライバシーをどのように守るのかという課題も残りますが、情報の非対称性が解消される契約では「モラル・ハザード」リカバリーコストも低下することが想定されますので、上記テクノロジーを活用した契約の対価は低く、それ以外の従来型の契約での対価は高く設定し、契約当事者に選択権を与えるところからはじめることも可能なのではないでしょうか。テレマティクス保険もその一種といえるでしょう。

今回は保険を具体例としましたが、モラル・ハザードは雇用契約、委任契約、代理店契約でも問題になります。既存の法令(特に労働者保護法制)との整合性には留意が必要となりますが、契約当事者のwin-winの関係を実現するため、テクノロジー×契約の活用が期待されます。

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