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【思い出】小学生のときに外国人にありがとうを言いたかった話

小学生だったぼくは自転車にまたがったまま、友達の小山(仮)と駅近くの地下通路の入口で何やら険しい顔をしてたたずんでいた。
駅の向こう側に行きたいのだが踏切が一向に鳴ることを止めず、諦めて地下通路を通ろうとしてその入口に向かった矢先のことである。
地下通路を通るためには下に降りなければならず、そこには当然階段がある。

立ちはだかる壁。階段。

小学生にとってそれはそれは長い階段であったので、ここを自転車で降りようという発想には至らず、ぼくは眉間にしわを寄せながら小山のほうを振り向いた。

「どうするぅ」
「どうするぅ」

小山も解決策が思いついていないようだったので、ひとまずぼくの問いかけにオウム返しをした。
そのまま地下通路の入口付近で自転車にまたがったまま右往左往していると、そんなぼくらを見かけて二人のグラサンをかけてスポーティなリュックを背負った外国人カップルがやってきた。

「Heeeeey Boooy!!!!!!! What's up???
へーいがきんちょ、どうしたんだーーーーい?
おーう、もしかして、自転車でここをとおりたいのかーーい?
おーけーおーけーーなら手伝ってあげようではないかーーーー↗↗」
(知らんけど多分こんなことを言っていたのだろう)

とにかく英語で何かしゃべっててよくわからないまま、急にぼくらの自転車を持ち上げて階段を下りていくではないですか。
その後ろをついていくとそのまま地下通路を通って行きたかった駅の向こう側にわたって、階段を上がって出口にぽんっと自転車を置いてくれた。

晴れてぼくらはたどり着くことができたわけだが、わざわざあの重たい自転車を持ち上げてあの長い階段を上り下りしてぼくらを向こう岸まで届けてくれた大変優しくて力持ちな外国人カップルに、ぼくらはなんとかしてお礼を言わなければならない。

そう。お礼を!なんとしてでも!!

でも、言葉が分からない!!!

外国人カップルは、自転車を置いた後、じゃあねっと今にも行ってしまいそうである。
何か言わねば!
そこで、ぼくの口から咄嗟に出た言葉がこれである。


「えーびーえーびー、えーえーびーびー!!!」


おそらく小学生だったぼくの頭の中のほとんど真っ白な英語辞典を検索して一番に出てきたのが、スペルのAとBだったのだろう。そしてそれは、当時持っていたゲーム機のボタンがAボタンとBボタンだったのでそこから得たに違いない。

とにかく、ありがとうの想いをスペルのAとBにのせて、叫び続けた。



外国人カップルが去った後、一通り叫び終えたぼくに向かって小山がこう言った。

「あういうときって、ふつう、Thank youとかじゃね?」


Thank youとかじゃね、とかじゃね、とかじゃね、かじゃね…(ぐるぐる)

そうか、Thank youって、そういう意味か。

おい、知ってるんなら言えよ小山。


圧倒的敗北感とともに、記憶に残ったひと時でした。


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