しおと、ひかり

ノラ(@nola_info)主宰/脚本/演出

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なるべく背筋を伸ばして、高い位置で息をする。この世界で沈んでいくのは容易なことだから。

私があなたに歩みきれなかったのは、完全に私の中だけでの幸福だった。
あなたが花でなくて良かった。もしも本当に花だったなら、私はあなたを摘み取らんとするこの手を切り落としていただろうし、いずれあなたを枯らしてしまうこの大地を呪って負け戦の中を泥々と生き続けてしまうだろうから。

さようなら、可愛い可愛い私の星。
涼やかな夜の風におやすみ。
あと何度朝が来たって決して醒めない微睡を、貴方の中に灯してあげるから。

車窓を水平に直走る雨粒が流星群みたいで、これに願えばあと何回の明日を手に入れられるんだろうと思ったんだ

揺れて

生活というものの傲慢さが、不躾に死を蹴り倒していくから嫌いなのだ。 私たちは常に生きていて、生きているということは死と隣り合わせになっていて、明日あなたの目を見…

酩酊

思い立って、最寄りの駅を通過して、虹へ向かう。 ふわふわの脳みそで。それ以外の全てを捨てて。 生きていれば一度は手に入れる思い切りの良さ。 願っても手に入らないそ…

1

忘れじ

過ったのは、季節も忘れた満月の夜。 「月下美人が咲くんだよ」と言われて少し無理をして夜更かしして、植物園みたいになった庭であの人の手を見ていた。 大人になってから…

知っている。
幼き日のくるくるとした心は大人になって無くなるのではなく、生活の中に押し流され擦り潰されているだけだということ。
悲しい大人が時々取り出して、ぽろぽろ泣きながらお日様にかざしたりしていること。

2

瞬く

緑色の魚が花壇の隙間を縫って泳いでいる ぴちぴちと鱗を煌めかせながら忙しなく進む姿を眺めていたら、放課後の君を思い出した 淡く桃色に染まっていたのは第二教室から…

木陰の海の中を鳩が渡っていく。
渡り鳥になれなかった夢を、ここで叶えているのね。

コウ

人生というものは、ゆくゆくと幾つもの流れが打ち合って運ばれていくものであるが、まるでそんな境などないかのように軽々と泳いでいく金の鱗。二十歳を越えればそのエラは…

1

すっきりとした幸福は少しだけ寂しい、ということを、春が来るたびに思い出す。
日差しが滑らかさを帯びて、音がほんのり遠くなる夕暮れ。
スパイスの香りが鼻をくすぐる街並みに、誰かの母国を愛したくなる。
行き交うものに嬲られて自らを忘れそうになる日々を、なんとか踏みとどまるために。

こがるゝ

寂しい寂しい夜の停車場を、骸骨の汽車が踊り抜ける。カタコトと軽やかな音色を弾ませて。 僕たちの中に吹き抜ける空っ風がまろやかな桃色に光って、どんな夜も幸せに縁取…

1

野良猫に餌を与えない道理は分かっても、合わせた視線を引きちぎる痛みはどうしたって整理がつかない

噴水の側に煌めく粒子
・・・・・・・・・・
隙を見た店員のあくび
・・・・・・・・・・
少し耳がいたい高架下
・・・・・・・・・・
遅れても良い待ち合せ


君が彩る春を切り取る。

鰐の夜

深く押し込めた心が つわり、つわりと光っている。 自らの醜さに反して 生々しくも脈打つ衝動。 他では満たせないのだ。 早く吐出してしまえば良いのに ミソッカスの理性が…

1

なるべく背筋を伸ばして、高い位置で息をする。この世界で沈んでいくのは容易なことだから。

私があなたに歩みきれなかったのは、完全に私の中だけでの幸福だった。
あなたが花でなくて良かった。もしも本当に花だったなら、私はあなたを摘み取らんとするこの手を切り落としていただろうし、いずれあなたを枯らしてしまうこの大地を呪って負け戦の中を泥々と生き続けてしまうだろうから。

さようなら、可愛い可愛い私の星。
涼やかな夜の風におやすみ。
あと何度朝が来たって決して醒めない微睡を、貴方の中に灯してあげるから。

車窓を水平に直走る雨粒が流星群みたいで、これに願えばあと何回の明日を手に入れられるんだろうと思ったんだ

揺れて

揺れて

生活というものの傲慢さが、不躾に死を蹴り倒していくから嫌いなのだ。
私たちは常に生きていて、生きているということは死と隣り合わせになっていて、明日あなたの目を見れない確率なんて容易くそこいらに転がっているのに、大切な人の頬を撫でる時間さえ蝕んでくるのが鬱陶しい。

全部と全部に負けないパワーが欲しい。

あの人の鼓動みたく跳ね回って言葉みたくキラキラ輝いて呼吸みたく永遠なこの一瞬を生き抜きたい。

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酩酊

酩酊

思い立って、最寄りの駅を通過して、虹へ向かう。
ふわふわの脳みそで。それ以外の全てを捨てて。
生きていれば一度は手に入れる思い切りの良さ。
願っても手に入らないそれが突如転がり落ちてきて、僕はひたすらに明日を見て、鳴り響く期待の渦に飲み込まれていく。
大きな大きな意志で、置いていかれる全ての人にイタズラな笑みを渡して、自分だけの心を渡っていく。
全部忘れていいよ。僕のこともお母さんのことも。全部忘

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忘れじ

忘れじ

過ったのは、季節も忘れた満月の夜。
「月下美人が咲くんだよ」と言われて少し無理をして夜更かしして、植物園みたいになった庭であの人の手を見ていた。
大人になってから、一年に一度しか咲かないという逸話が単なる俗説に過ぎないと知ったけど、それでもあの花は私に取って神秘的なままだ。
これまで何千何万と花に触れてきたあの人の手が、ほろりと花弁を摘み取る。
器に入れられお酢を添えて差し出されたそれは食べ物と認

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知っている。
幼き日のくるくるとした心は大人になって無くなるのではなく、生活の中に押し流され擦り潰されているだけだということ。
悲しい大人が時々取り出して、ぽろぽろ泣きながらお日様にかざしたりしていること。

瞬く

瞬く

緑色の魚が花壇の隙間を縫って泳いでいる

ぴちぴちと鱗を煌めかせながら忙しなく進む姿を眺めていたら、放課後の君を思い出した

淡く桃色に染まっていたのは第二教室から流れるトランペットの音色

私たちはまだ深い記憶の底で眠たげな瞼を擦りながら懸命に未来を見つめている

なぜか悲しい君の鼓動に密かに気づいて手を当てながら

木陰の海の中を鳩が渡っていく。
渡り鳥になれなかった夢を、ここで叶えているのね。

コウ

コウ

人生というものは、ゆくゆくと幾つもの流れが打ち合って運ばれていくものであるが、まるでそんな境などないかのように軽々と泳いでいく金の鱗。二十歳を越えればそのエラは抜かれてしまうけれど、いつか挫折に行き着くことなど素知らぬ顔で新鮮な希望の日々を貪っている。その脈打つ内臓を、じんわりと握り捻り、滴り落ちる香りに頭が膨張していく。「もっと遠くまで行ってみようか」。まるで私を操れているかのように傲慢な男のシ

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すっきりとした幸福は少しだけ寂しい、ということを、春が来るたびに思い出す。
日差しが滑らかさを帯びて、音がほんのり遠くなる夕暮れ。
スパイスの香りが鼻をくすぐる街並みに、誰かの母国を愛したくなる。
行き交うものに嬲られて自らを忘れそうになる日々を、なんとか踏みとどまるために。

こがるゝ

こがるゝ

寂しい寂しい夜の停車場を、骸骨の汽車が踊り抜ける。カタコトと軽やかな音色を弾ませて。
僕たちの中に吹き抜ける空っ風がまろやかな桃色に光って、どんな夜も幸せに縁取られるみたい。
ずっとずっと、憂いを帯びた眼を湛えたまま、彼女は春の底に転落していく。
僕はその白魚のような指だけを見つめて、微かな疼きに身を捩って、また今日も彼女を失ってしまった。
気付けば今日は後ろになり、視線の先から彼女が向かってくる

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野良猫に餌を与えない道理は分かっても、合わせた視線を引きちぎる痛みはどうしたって整理がつかない

噴水の側に煌めく粒子
・・・・・・・・・・
隙を見た店員のあくび
・・・・・・・・・・
少し耳がいたい高架下
・・・・・・・・・・
遅れても良い待ち合せ


君が彩る春を切り取る。

鰐の夜

鰐の夜

深く押し込めた心が
つわり、つわりと光っている。
自らの醜さに反して
生々しくも脈打つ衝動。
他では満たせないのだ。
早く吐出してしまえば良いのに
ミソッカスの理性がそれを許さない。
どうしても好きだ、などというマヤカシが
世界に蔓延する夜。
こんなにも狂っているのは妙薬のせいだろう。
誰もあなたを好きではないし
誰もあなたを愛さないけど
あなたは彼女を愛している。
私はそれを知っている。
見つめ

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