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コウ


人生というものは、ゆくゆくと幾つもの流れが打ち合って運ばれていくものであるが、まるでそんな境などないかのように軽々と泳いでいく金の鱗。二十歳を越えればそのエラは抜かれてしまうけれど、いつか挫折に行き着くことなど素知らぬ顔で新鮮な希望の日々を貪っている。その脈打つ内臓を、じんわりと握り捻り、滴り落ちる香りに頭が膨張していく。「もっと遠くまで行ってみようか」。まるで私を操れているかのように傲慢な男のシャッター音が知らないところで響いているけれど、横たわる私を満たしているのは少しだけ古びたポップミュージック。音だけだ。金の尾を引くこの音だけが、私の前に立つことを許される。一生懸命に語りかけてくるあの子も、穏やかに微笑んでいる彼も、一瞬で記憶の底に沈んでいく。まるで全てを殺しにいくかのように、それでいて一人寂しい世界に命が芽吹くことを全力で祈るかのように、相反し己の中に悶えながらそれでも掻き鳴らさざるを得ないこの音が好き。

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