登頂

先頭打者を四球で塁に出し、長い9回になると思われた次の瞬間、続く打者を併殺に打ち取った。それでもまだ安心には至らなかった。事実、昨日の侍ジャパンは似たような光景を迎えて、逆転をし、メキシコを下した。しかし、今日の9回のマウンドに立っていたのは大谷翔平であった。伝説の主人公は迷わずに翔け抜けた。豪腕は雄叫びを上げて唸った。マイク・トラウトのバットはただ宙を切った。私はその時になってようやく安心をした。差は僅か一点の、侍ジャパンの大勝利であった。

準決勝のメキシコ戦を終えた時とは全く違う、未だ体験のした事のない感覚で包まれている。思えばこの数週間程常にソワソワしていた。史上最強、絶対優勝、と報道され、そして何より選手や監督自身も自らのチームをそう表現していた中で、負けは許されなかった。相手がメキシコであろうと韓国であろうとアメリカであろうと関係ない。何が何でも勝たなくてはならなかった。私も、勝ち以外の未来は想像したくなかった。とは言うものの、ふと負けた先の事を考えてしまう瞬間は何度もあった。それはあまりにも辛い想像であった。しかし今この時は、もうそんな想像をする必要はない。何があっても揺らぐ事のない最高の結果が今はもうあるのである。

興奮の冷めない中、抱えていた用事を済ます為に外へ出た。すると、いつの間にやら高くなった気温が私を迎えた。道中のソメイヨシノはもう既に蕾を膨らませていて、もう既に開き始めている蕾も数多くあった。そして、帰宅をする直前に眺めたソメイヨシノの枝先には、今年初めて見る桜の花が、僅かな数ではあるが確かに、花びらを開かせていた。野球とベースボールの頂上決戦は終わり、野球は野球の、ベースボールはベースボールの季節が始まる。開幕はあと9日後である。野球の熱戦はこれからも続く。


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