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2月の献立|お預かりしたお客さまの大切な時間をもっと有意義に

日に日に暖かくなってきたとはいえ、昨日のように寒い日もあったりします。暦の上では春である2月ですが、まだまだ冬から春へと季節の変わり目の時期であることを感じさせられます。市場を見ても、春の食材と冬の食材が混在していますね。

乃木坂しん如月の献立も、まだまだ冬の食材の代名詞といえる松葉蟹や河豚などを使っていますし、根菜も海老芋や聖護院蕪もお出ししていますが、飯蛸など春を感じさせる食材や筍や芹などの野菜や山菜をご用意して、お客さまに季節の変わり目を感じていただけたらと思っています。

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お客さまの大切な時間をもっと有意義に

今回は、乃木坂しんとしては初めてお鍋を出させてもらっています

カウンターでは八寸をお出ししたあたりでお客さまの目の前で仕事をさせていただくのは終わり、以降はお肉料理やお食事になるのですが、もう少しお客さまの前で臨場感を出したいと思ったのがきっかけです。

お鍋をお出しすること自体は、目新しいことではないのですが、毎年、毎月違った献立を考えることで新しい挑戦を日々楽しんでおります。

乃木坂しん 2月のおまかせコース(18,000円)を紹介します

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松葉蟹の養老蒸し

山芋や長芋のすりおろしを、ほかの食材とともに蒸し上げた料理を「養老蒸し」といいます。滋養のある食材を食べて長生きしてくださいね、という意味が込められているようです。

先日、支配人の飛田(泰秀)宛に、岩手県の農家大久保さんから長芋をぜひ食べてほしいという連絡をいただきました。さっそく送っていただいて試食をしてみたところ、とてもおいしかったんです。

粘りや土の香りなどもあるしっかりとしたお味の長芋でしたので、食材もしっかりとしたものを合わせたいと考え、松葉蟹にしました。ですので、このお料理は長芋を食べていただきたいお料理ともいえますね。

上には松葉蟹の殻でとったお出汁に薄口醤油とみりんで作った銀餡をかけています。濃口醬油とみりんで作るべっ甲餡(写真はべっ甲餡)でも試作しみたのですが、松葉蟹の風味を生かす薄口醤油を使った銀餡が合うと感じ変更しています。

房から外し、薄皮をむかずにそのまま炭火焼きにした空豆を仕上げにのせてお召し上がりいただきます。意外と良い相性で、かつ良いアクセントになっています。

実は、今回の献立で最後まで決まらなかったのが付きだしのお料理でした。2月といってもまだ肌寒い季節ですので、まずは温かい料理をお出ししたいと思っていたのですが、茶碗蒸しやすり流しなどのお料理は今シーズンすべてやりつくしておりました。

最初のひと皿で、かつこれまでお出ししてこなかったお料理はないか、と考えたときに、これまでは後半のお食事の前にお出しすることが多かった蒸し物をもってきてもおもしろいんじゃないか、ということになり、ようやく決まったものです。

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飯蛸と春野菜の辛子味噌和え

飯蛸は、春の訪れを感じさせる大好きな食材です。

最初に頭と足を取ってそれぞれを片栗粉でぬめりをとっています。その後別々のタイミングでお湯にさっとくぐらせて霜降りをして、 表面の残ったぬめりをとったら、頭と足を別々に出汁で火を入れます。 

頭と足は、大きさが違うので火の入る時間が異なります。一緒に出汁で炊いてしまっては、どちらかの火入れに過不足がでてしまうか、逆に火が入りすぎてしまいます。今回はやわらかく炊きたいと思っているので、頭と足を別々に出汁で火を入れて両方ともちょうど良い食感の状態を目指します

飯蛸にやわらかく火が入ったら出汁から取り出し、残った出汁を冷ましてから頭と足を漬け込みます。これも、味を含ませるためと炊き続けて硬くなるのを防ぐため。ちょうどいいやわらかさに仕上げたらそれ以上火を入れないように出汁の味を入れるようにしています。

菜の花、ウルイ、コゴミ、タラの芽はそれぞれ湯がいておいて、八方地といって、お出汁に薄口醤油と塩で味付けたものに漬け込みます。

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飯蛸にだけ辛子柚子味噌をかけ、お野菜を盛り付けた上から三杯酢の酢ゼリーをかけています。辛子柚子味噌を全体にかけてしまうとお野菜に対してはちょっと味が強いんですね。また、飯蛸は酢ゼリーだけでも単調になってしまいます。酢ゼリーと辛子柚子味噌と合わせて食べていただくために、飯蛸にだけ辛子柚子味噌かけております。

1品目は温かくて旨味のあるお料理でした。ですので、2品目はさっぱりと。次のお椀にむけて、下をリセットしていただく意味もあります。

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お椀 筍真丈

筍真丈とワカメに、細く刻んだ針ウドと、叩いた木の芽を上に添えています。

筍真丈は、魚のすり身と卵黄に塩を入れて油をいれて攪拌したもので、つなぎになります玉素をベースにしています。そこに鰹節と昆布のお出汁で炊いた角切りの筍と、筍の下の少し固い部分をミキサーで攪拌してペーストにしたものをあわせています。ですので、筍がたっぷり入った真丈になっています。

筍もワカメの食感とは別にアクセントになる食感と香りがほしかったということもあって、針打ちしたウド、筍に合う木の芽を添えました。若竹煮にはウドと木の芽がピッタリだと思っていますので、今回のお椀でもその相性の良さを味わっていただきたいです。

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牡丹海老とアオリイカ、カラスミ

このお料理は、牡丹海老とアオリイカ、カラスミを一緒に食べていただき、その味わいや香り旨味の相乗効果を感じていただきたいと思っているお料理です。ネトっとした食感と旨味がしっかりある牡丹海老を少しだけ主役に押し上げたいと思い、ほんの少しだけある調味料をまとわせていますが、それはここでは内緒にさせてくださいね。

そして箸休めとして添えてあるリンゴ。少し驚きですよね。でもそれが合うのです! 写真では拍子切りになっていますが、食感にもっと変化をつけたいと思い、歯ごたえのあるリンゴ(今は津軽リンゴ)を選び、細く針打ちした仕立てに変えてあります。

牡丹海老とアオリイカ、カラスミは全体的にネットリとした食感ですから、針打ちしたことでシャキッとしてジューシーなリンゴの印象になり、全体のバランスとして、より良くなったと思っています。

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金目鯛 昆布締めの炙り

捌いた金目鯛に軽く昆布をあてて締めています。今回は、炙るために皮を残しているので、皮目を締める必要なく身の方だけを昆布締めにしています。

しっかりと塩をして昆布締めにしているのは、金目鯛の脂はときに強すぎると感じることもあるので、それを支えるだけの下味の塩をしないと、上味としての金目鯛の旨味を感じにくくなってしまいます。

油脂分はなんでもそうですが、魚の中では金目鯛もそうですし、鰤なんかも塩をせずに食べると脂っぽいだけで、そのなかにある旨味はあまり感じられないと思うんです。そこに塩や醤油で塩味をつけることで味の下支えになり、脂の旨味を感じるようになります。

実際、昆布締めにする前の塩を弱く打ってもみたりもしたのですが、金目鯛の脂の旨味を感じづらかったです。

昆布締めした金目鯛は、皮目に包丁を入れてから藁焼きにします。

火があがらないようにして藁の煙だけで軽く身の方を燻して香りをつけます。身につけた燻した香りは大事で、魚をおいしく食べるための調味料のようなものです。その後しっかり藁に火をおこし、炎のなかにくべるようにして皮目を藁焼きにします。

この時期に出始める花山葵をお浸しにして、スダチを添え、山葵を添えてお出しします。

この花山葵はゆですぎると苦味が出てしまう食材ですがちょっとしたコツで苦味が残らないようにします。花山葵を熱湯にさっとくぐらせてから、しっかりときつくしぼります。きつくしぼること花山葵の繊維が壊れ、余計な苦みや辛みを抜く効果があります。搾りきったら瓶やタッパーなどに入れて、半日ほど密閉して保存します。こうすると、出てきた辛み成分が花山葵にほどよくまとわりついて、きれいな辛みと香りだけが残るのです。

花山葵はその後、水に酒、みりん、濃口醬油などの調味料を合わせた地に漬け込んでいます。

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八寸

手前の河豚の唐揚げは、お酒と濃口醬油、おろし生姜で下味をつけ、片栗粉をまぶしてから揚げています。河豚のじょう身や、頭、お腹と尻びれの間にある「うぐいす」と呼ばれる部位など、いろいろと使っています。

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奥に梅の枝を支えている鳥松風は、鶏のひき肉に、クルミ、ひと晩ブランデーに漬け込んだレーズン、濃口醬油やたまり醤油、砂糖などの調味料を足して流し缶に流してオーブンで焼いています。焼き上がったら、表面に芥子の実を振りかけています。

さらに赤蕪の甘酢漬けと蜜煮にした金柑、黄ニラのお浸しの海苔和え、炊いた海老芋に白和えの衣をかけています。

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牛肉と聖護院蕪の白味噌仕立て

今月のお肉料理は、牛肉にしたいなと思っていました。

和食屋さんで牛肉というと薄切り肉をしゃぶしゃぶにしてぽん酢で食べたり、すき焼きにして甘辛くしたり、味をしっかりつけることが多いですよね。それよりも、鍋のような優しい牛肉のお皿にしたいと思っていたなかで、このお料理は去年からやり始めた冬の名残を感じていただける仕立ての料理だとおもいます。

お肉は白味噌ベースのお出汁にさっとくぐらせます。白味噌出汁は、二番出汁に、白の漉し味噌で味をつけたもの。お肉は、前足の肩肉部分のクリという部位を好んで使っています。サシと赤身の味わいのバランスがとても良い部位です。お肉は「ゆさか精肉店」さんにお願いしていて、好みの部位から厚さまでを何度もやり取りして知ってもらい、以降はそこだけをおまかせして送ってもらっています。だから、産地は全く気にしていません。私たちの好みをスペシャリストの湯阪さんに委ねて、送られてきたお肉を確認するだけです。当然お肉は火を入れすぎると硬くなってしまいますから、くぐらせる白味噌出汁の温度を60℃にして、本当にさっとだけ火を入れています。

写真の仕立てでは、聖護院蕪だけですが、もう一つ何かを合わせたいと思い、今は金時人参も加えています。聖護院蕪と金時人参は別々に出汁で炊いて、お肉とともに器に盛り付けます。葛粉を入れてすこしだけとろみをつけた白味噌出汁を、上から流しかけ、仕上げに細く刻んだサヤエンドウを上に添えてあります。

このサヤエンドウも、青い香りとシャキシャキの食感がアクセントになるので、今は写真よりもたっぷりとのせて、お出しするようになりました。

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河豚のしゃぶしゃぶ

河豚の骨でとった出汁を塩と薄口醤油で味を調え、ちょうど市場で見かけるようになった芹と壬生菜、鍋の王様・白菜を入れて鍋を作ります。そこに厚めに切った河豚のじょう身を加え火が入ったら鍋から取り分け、塩ぽん酢をかけてお召し上がりいただいております。

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河豚は当初、半生くらいでもいいかと思ったのですが、味や食感が中途半端で、それでは河豚のおいしさが伝わらないのではと思い、今回のお鍋ではしっかりと火を入れてお出しすることになりました。

先月も河豚をお出ししました。その時は塩もみにしたお造りをお出しさせていただきましたが、それとは違いしっかりと火が入った河豚もまた違った味わいを楽しめます。

河豚は「てっさ」以外の食べ方も美味しいってことを知っていただけるとうれしいですね。

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河豚の白子の雑炊

お食事は、お鍋で使った美味しいお出汁にぶつ切りにした白子を加えた雑炊です。

鍋の残った出汁(野菜はすくっておきます)に角切りにした白子を入れて火を入れてから、ご飯を入れて米の食感を残すように少し炊きます。溶き卵を加えて火を止めて、刻んだネギを加えてお出ししています。

鍋と雑炊を初めてやってみて思ったことは、手間暇をおしまないことです。献立の流れを考えるとお客様の前での仕事がいつもよりも長く続くので、お客さまにとっては良い物語になるのではないかと思っております。

お鍋自体は、当たり前の仕立てではあるのですが、それがかえって分かりやすい安心感にも繋がるからこそ、お楽しみいただけるのではないでしょうか。コロナ禍でお客さまの人数を制限している状況でこそ、手間暇をかけて挑戦してみて喜んでいただけることがあると思いました。

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リンゴの葛焼きとバニラアイス

生のリンゴをすりおろしたものと山形県産の100%リンゴジュースをあわせたものに葛粉を加えて練って冷やし固めておきます。

このままでは固くて食べられないぐらいに練り上げたものをご提供前に四角く切り出して、全面をフライパンでゆっくりと焼くことで、表面に軽く焼き色が付き、中もお餅のようにやわらかくなっていきます。

熱々の葛焼きと回したての自家製バニラアイスとともにお召し上がりください

ちなみにこちらの献立は翌月第一週ぐらいまでの献立となります。

今月も、さまざまな食材を取り揃えながら、みなさまのご来店を心よりお待ちしております。

乃木坂しん」店主 石田伸二

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎03-6721-0086
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、ランチは前日までの予約制)
 お昼の小会席 10,000円、おまかせ 15,000円、18,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
 おまかせ 15,000円、18,000円、28,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中は、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。

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次回のnote更新では店主の石田と支配人の飛田の「もったいない」をテーマにした対談をお送りします。アカウントのフォローもしていただけるとうれしいです!

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構成・文・撮影=江六前一郎

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