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先っぽ|乃木坂しんの5年間、そして次の5年に向けて

乃木坂しん」の店主・石田伸二と支配人の飛田泰秀が日々考えている日本料理への想いやこれからのことなどを、どのメディアよりも早くお伝えする「乃木坂しんの先っぽ」。乃木坂しんは、6月11日で開店から5周年を迎えました。ひとつの節目として、5年間を振り返ってもらいながら、次の5年についての思いを語り合ってもらいます。

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(開店当日にいただいた祝の花の数々)

お客様に支えられてきた5年間

――6月11日で5周年を迎えますね。おめでとうございます。

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ありがとうございます。2016年6月11日は土曜日でしたね。大安吉日。今から考えると2年目くらいまでは、すべてが混乱していて、なんとか乗り切ったきたというのが正直なところです。

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チームを作るのに時間がかかってしまって、ようやくまとまってきたのは3年目以降。最初の2年間までは、試行錯誤の時期でしたね。

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オープン当初は、開店祝もあってありがたく好調なスタートさせてもらえたわけですが、秋頃にはお客様の波もゆるやかになって、正直11月が一番辛かった。

そんな中、11月29日に発売された『東京最高のレストラン 2017』(ぴあ刊)への掲載と、12月2日に発売された『ミシュランガイド東京 2017』(日本ミシュランタイヤ刊)で一つ星をいただき、何とか持ちこたえたというのが正直なところです。

――とくに一つ星獲得は、オープン半年という速さもあって話題になりましたよね。オープンしてから5年間の思い出などありますか?

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そうでうすね、辛かった思い出はありますけど、それが嫌な思い出だったかといわれるとそうでもないかもしれないです。辛いことを忘れようとして忘れたのか、そのあたりはわからないところもありますが(笑)、お客様に「おいしいね」と褒めていただいたり、「味が変わって良くなったね」といっていただけたことの方が思い出に残っています。

じつは、5年間で何度か辞めようと思ったこともあるんですよ。それでも思いとどまることができたのは、お客様がいらっしゃったから。こんな僕でも「おいしい」と言って来てくださる常連さんのおかげです。「そんなの綺麗ごとだ」っていわれるかもしれないですけど、僕にとってはそれが一番の財産です。

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5年間で「乃木坂しん」としてのコンセプトは、変わってないんです。noteで最初に書いた通り「日本料理の入門編」でありたいというのと、お客様と一緒に時を重ねていきたいという想いのまま続けています。

ただ、やっぱり過去と今を比べてみると、僕自身も肩の力が入りすぎてしまっていたかなと思ってもいます。もちろん、今、力を抜いているというわけではないですよ(笑)。

それは、ありがたいことにオープン半年でミシュランの一つ星をいただいたり、オープンまでにたくさんのご協力をいただいたりして、それこそ僕も石田も働いてきたお店で指導していただいた方々もいらっしゃったりするので、どこかで「責任を果たさなきゃ」という気負いがあったんだと思います。

気負っていてもキャッシュフローはギリギリ。理想と現実の間で心が安定しない時期もあって、未熟な僕は、お客様のご意見に対してムキになってしまうこともありました。それでも、石田を含めて、店のスタッフがうまくフォローに入って僕をその場から外すように仕向けてくれ、頭を冷やす時間を作ってくれる。本当に感謝しています。

少しずつ自分たちの価値観を理解してくださるお客様に集まっていただけるようになって、本当に常連のお客様に支えられてきた5年間だったと思います。

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(開店に際し、書家の大塚幸代さんから贈られた書は、いまも入り口に)

料理人としての「自分らしさ」を探してきた

――料理の部分で大きく変わったようなことはありますか?

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全体的に味の感覚、考え方は変わってきていると思います。砂糖や醤油で甘さや旨さを足すのではなく、より食材を理解して、食材の個性をどう引き出すかということを大事にする。そのためには、塩や酸味といったものを、しっかりと食材に合わせていく。そんなことを、5年間やり続けてきました。

一方で、表現という点では随分と悩みました。「自分らしい料理」とはなんだろうということを考え続けた5年間のように感じます。僕自身、ずっと大将がいる店で料理を作ってきたこともあって、料理のなかで自己表現をすることをしてこなかったんですね。だから、何をしていいかわからない。

そのなかで、パートナーである飛田さんに意見をもらいながら試行錯誤してきました。そのなかで少しだけですが「自分らしさ」が見えてきたのが、2019年に鴻来有希さんとコラボレーションした食事会でした。

――どんな食事会だったんですか?

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コース料理のなかに鴻来さんの《心地よいズレ⦆という作品からインスピレーションを得た料理を1品入れるというものです。

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普段は2人でコースを考えていくんすけど、この時は「石田さんひとりで考えてみてもいいんじゃない?」って僕はまったく意見しなかったんですよ。

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作品名から、お客様のイメージと、口に入れたときの味のズレをどう表現するかということをすごく考えたんです。「ズレ」って何だろうと考えていくなかで、酸っぱく炊いた海老芋と漬けにした鰤を合わせた料理を作りました。

これまで一度も海老芋を酸っぱく炊いたことはなかったです。ですが、ただやったことのない仕事をやるのではなく、意図をもってズラしていくことを大事にしました。海老芋の好きな部分ってなんだろうと考えたときに、自分は、海老芋のねっとりとした食感が好きなので、その食感を活かした組み合わせは何かと考えたときに、鰤かなと。漬けにすることで全体的にねっとりとした食感に加えて更にうま味ものってくると思ったんです。

その料理に対して来てくれた方が評価してくださったのは自信になりましたし、今も冬の時期にはお出しする料理になっています。

――昨年の12月にも献立に入れていたお料理(下)ですよね。お寿司のような仕立てでしたよね。とてもおいしかったです。

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3年で乃木坂しんを離れる予定だった

――オープン当初、5年後はどうなっていたいとか、中長期の目標は設定されていたんでしょうか?

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乃木坂しん」は、僕と石田が共同オーナーという形でスタートしていますが、もう少し大きな視点でみたときには、僕の事業計画の一部でもあるんです。当初は、3年くらいで乃木坂しんを落ちつかせて運営から離れ、次の事業をスタートさせたいと思っていました。でも実際は5年かかってしまい、今、ようやく次の事業をスタートさせる準備をしているところです。

――そういう意味では、次の5年も楽しみですよね。どんな事業を考えているんですか?

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まだヒミツなんですけど(笑)、飲食に関わることすべてがビジネスチャンスだと思っています。それに飲食に対して自分ができること、人から依頼されたことでやれることは全力で向き合っていきたいです。あとは、チャンスがあれば世界にも行ってみたいです。

365日」(代々木八幡の人気ベーカリー)の杉窪さんが「世界平和を目指す」という話をよくされるんですけど、日本人の「和を持って尊しとなす」という精神をもってすれば世界も平和になるんじゃないかなと思っています。「食べる」ということ、「尊重し、ときには譲り合い、分け与えること」は、命をつないでいくうえで、大事なことなので。

もちろん現場から離れるというつもりは更々ないですし、「乃木坂しん」というお店を構えているからこそできる飲食の事業を始めようとしていますので、変わらず応援をしていただきたいです。

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飛田さんがいうように、3年を目標にしていたので、時間がかかってしまったということはあります。それは、チーム作りの難しさが大きかったですね。通常の営業を続けるのであれば十分なんですが、僕自身がお店の外に出て活動ができる、ある程度の時間的な自由をもてるまでにしていくのは、難しかったです。

ですが、それこそ2021年に入ってからは、チームに任せて余力を残した上で、定休日には産地に行けるようにもなってきました。更に意識的に食べ歩きも増やして、時間を言い訳にしてできていなかった読書も再開したいですね。

料理人としての技術はある程度あると自分でも思っているので、そこにもっと知識をつけていって太いものにしていきたい。誰になにを言われても揺るぎない心というか、そういうのを持ちたいです。

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チームには、若い人に入ってきてもらいたいですね。それは社会貢献だと思うんです。とくに独立支援はしてあげたいし。

オープン当初から、週休2日を目指して、福利厚生も整備された、「限りなくホワイトカラー」の飲食店にしたいと思っていました。達成できていないところがまだまだあって、経営者としての力不足は大きいのですが、それでもオープンのときから残業代などはフルで払っていますし、休日もまわしています。

一般企業からしたら当たり前のことですけど、飲食業の実態として、20年前に比べたらずいぶんと環境整備はできてきたのではないでしょうか。

これはもちろん、自分たちだけでできることではなく業界全体で取り組まないといけないことでもあるので、広がっていけばいいですよね。

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若い世代に技術を伝えるっていうことを意識して日々仕事していきたいです。これからの日本料理のことを考えると、僕らの年代って変わり目だと思うんですよね。技術にしろ、考え方にしろ、働き方にしろ、変わらないといけない。

日本料理って師弟関係が強いので、どうしても閉鎖的になってしまうんです。僕は、その世界を経験してきたからこそ変わらなくちゃいけない。次の世代に同じように押し付けるんじゃなくて、僕の世代で変えてよいことや変えなくちゃいけないことがあると思っています。

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心を豊かにする食文化を次の世代へ

――飲食業界の変化について感じることありますか?

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コロナ禍でDX化の波がさらに大きく押し寄せてきたのと、広告宣伝をうまく進めるレストランも増えてきてますし、SNSを上手に活用したり、PR会社を入れたりしてマーケティングを積極的にやるレストランが増えてきたように感じます。レストランが自ら伝えていく時代になってきたと思います。

あとは、いつの時代もその常があるんですけど、成功している業界の方が飲食を始めるという意味では、現在はIT関連の方の参入が多いと感じているので、IT技術をどうレストランに取り入れていていくのかは、気になりますね。まだまだ飲食店はブルーオーシャンなのか、成長の伸びしろがあるってことですから。

これだけ儲からない商売なのに(笑)、それを超える魅力があるんですね。飲食に参入される方は、食べるのが好きですよね。それは人間の欲求に通じるので、食は万人に通じる喜びだということ。人間は、必ず食事を摂取するので万人の共通項で、よりおいしいもの、より安全なもの、より安心なもの、より美しいものっていうのは自然にあるということです。

――多くの人が、食べることで豊かになると感じているんだと思います。

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心がやすらぐし、落ち着きますよね。争いごとも減るんじゃないですかね。

僕の祖父が「明るく、楽しく、心豊かに」という言葉を残しているんですよ。「明るく楽しく」って誰でもできるんですけど、「心豊かに」ってなかなか難しい時もありますよね。心豊かにしていく力が飲食の文化にあるということは、この世界で育ち生きてきて実感していることです。それを最大限に知って、感じてもらいたいと思っています。

――石田さんの次の5年はどう描いていますか?

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10年を一つの目標にしてきたので、折り返しですよね。料理人と名乗れるようにはなってきたかなと思うので、この先は自分の言葉を持って伝えていけるようになりたい。今までももちろん伝えようと努力をしてきましたが、今まで以上にということです。

あとは、その言葉を発信するツールがたくさんあります。まだお店に来てないお客様、これから来るお客様に向けても伝えなくては行けないですよね。このnoteやYouTubeなどもそのひとつですし、メディアの取材や、全日空さんの機内食の監修なども引き続き積極的に続けていきたいです。

それは乃木坂しんだけでなく、自分のためでもあると思っています。料理を通じて、日本の文化を伝えていくことも大事です。新しい人にも昔ながらの日本料理を分かってもらいながら、今だからこそできる日本料理を作ていきたいと思っています。

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎03-6721-0086
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、*前日までの予約制)
  おまかせ10,000円、15,000円、18,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
 おまかせ 15,000円、18,000円、28,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中は、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。

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次回のnote更新では5月の献立を紹介する予定ですのでお楽しみに! アカウントのフォローもしていただけるとうれしいです!

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編集・構成=江六前一郎
編集協力=吉川大智

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