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侠客鬼瓦興業 第39話「謎の女性と追島さんの涙」

幸せの余禄から一転して、僕の前にはひきつった顔の春菜先生、そしてその先には、『ツンパ、パイオツの余録』をなぜか知っている謎のスレンダーな女性・・・。

僕は緊張と動揺でカタカタ震えながら、その場にたたずんでいた。

「まったく呆れたもんだね、えらそうに純粋、純粋って、あんたみたいな男が、私に説教するんだから・・・、さあ、ユキ、来なさい!」

スレンダー女性は、そう言うと、無理やりユキちゃんの腕をつかんでその場から立ち去ろうとした。

「いやだー、ママー、ユキもっともっとここに居たいんだよー!おねがい、はなしてよー」

ユキちゃんは泣きながら、お母さんの手を振り払おうとしていた。僕はその光景を黙って見つめているしかなかった。

「ユキちゃんのお母さん!お願いです、もう少し、もう少しだけ、ユキちゃんの願いを聞いていただけませんか!」
春菜先生も訴えつづけたが
「あんたも、ずうずうしい人ね、これ以上そんなこと言うようなら、園長に訴えてくびにしてもらうわよ!」
お母さんはすごい剣幕で春菜先生にくってかかった。先生はそれでも一生懸命に涙を浮かべながら訴え続けた。

「私はどうなってもかまいません。でもユキちゃんは、ユキちゃんは、ずーっと前からこのお祭りの日を指折りまっていたんです!本当に心から楽しみにしていたんです!!」

僕はそんな春菜先生の純粋なやさしさを目の当たりにして、穴があったら入りたい、そんな気持でことの次第を見つめていた。

そのとき突然ユキちゃんがお母さんの手を振り払って、僕の方に走ってきた。

「あ!ユキー!」

「おじちゃん助けて!」
ユキちゃんは泣きながら僕の背中にしがみついてきた。

「ユキ!こっちに来なさい、そんなヤクザなんかに近寄るんじゃありません!」

「ヤ、ヤクザ!?」

それまで黙っていた僕は、その言葉に思わず興奮してしまった。

「ヤ、ヤクザとは何ですか!ヤクザとは!僕たちはれっきとした商売人です!」

「ヤクザだから、ヤクザって言ったんでしょ!それじゃ的屋はヤクザじゃないって言うの?」

「す、少なくとも、僕はそんな気持でこの仕事をしているつもりはありません!子供たちに夢と希望を・・・」
僕はそう言いかけて、はっとツンパパイオツの事を思い出し 
「と、とにかく、どうしてこの子がお祭りに来てはいけないか、理由を説明して下さい、理由をー!」
一生懸命背中のユキちゃんをかばいながら、お母さんに叫んだ。

「何で、あんたなんかに理由を話す必要があるの?バカバカしい、さあ、ユキ来なさい!」

お母さんは無理やり僕の後ろのユキちゃんを捕まえようとした。

「いやだー、パパに会えるまで絶対帰らないー!」

「パパ?」

僕は首をかしげながら後ろのユキちゃんを見た。

「ユキ・・・、お前!」 
振り返ると、お母さんは急に引きつった顔で、ユキちゃんを黙って見つめていた。

「パ、パパは・・・、あなたのパパはいないのよ。ユキ」

「パパはいるんだもん、お祭りにいるんだもん!」
ユキちゃんは、涙をいっぱいにためて泣き叫んだ。

「ユ、ユキ!いい加減にしなさい!」

「ママの嘘つきー!パパはいるもん、お祭りにいるってユキ知ってるんだもん!ユキ、パパに会いたいんだもん!」

「ユ、ユキちゃん・・・」
春菜先生は、悲しそうにユキちゃんを見つめていた。

「パパに会いたい・・・、パパに会いたい・・・」

「ユキちゃん、き、君は・・・」
ユキちゃんの悲しい泣き顔を見ていて、僕の脳裏にふっと子供のころの思い出がよみがえって来た。


「よしむねー、よしむねー、まってー!」
小さな土手づたいを、女の子が叫びながら走っていた。
女の子はぼろぼろに汚れた剣道着の男の子をみつけると、息を切らしながら近づいていった。

「待ちなさい、よしむね、どこに行くの、お母さん心配してるんだよ」

「お父ちゃんに会いに行くんだ!」

男の子は鼻水をいっぱいたらして泣きながら、追いかけてきた女の子に振り返った。

「お父ちゃんは、もういないんだよ・・・、よしむね」

「うそだー!おねえちゃんの嘘つき!お父ちゃんは帰ってくるって約束したんだ、帰ったら一緒に剣道してくれるって、僕と約束したんだ!」

「よしむね、お父ちゃんは、お父ちゃんは、天国にいっちゃったんだよ」

「嘘だー、お姉ちゃんの嘘つきー!、嘘つきーー!!」
男の子は大声で泣きながら、少女の胸にへばりついて泣きじゃくっていた…。


気がつくと僕の目の前には、悲しい顔で泣きじゃくるユキちゃんの姿があった。
「ユギじゃん、うぐぇ・・・」
僕は目、鼻、口から、たくさんの液体を流しながら、すさまじい顔で泣いていた。

「分かる、分かるよ、ユキちゃん、君の思い・・・」
僕は顔じゅうぐしゃぐしゃにして泣きながら、ユキちゃんを見つめた。そんな僕の姿を春菜先生は驚いた顔で見ていた。

「おかーしゃん!」

僕はぐしゃぐしゃにゆがんだ泣き顔で、ユキちゃんのお母さんに叫んだ。

「な、何よあなた、急に・・・」

「おかーしゃん、あなたは間違ってますのらー!!」

「何が間違ってるって言うのよ、あんたみたいな女のパンツ覗いて喜んでる男に、私のこと間違ってるなんて言う資格ないでしょ!」

「パンツは関係ないんらー!!これは子供の心の問題なのですらー!!」

僕は鼻水だらけのぐしゃぐしゃの顔を、ユキちゃんのお母さんに近づけながら言葉をつづけた。

「おかーしゃん、あなたにユキちゃんの本当の気持ちなんて分からないのれすらー!どれだけユキちゃんがお父さんに会いたいか、会いたくて会いたくてしかたないか、分からないのれすらー!」

「ちょっと、そんな汚い顔近づけないでよ、それに何をいってるのよ、訳のわからないことー」

「訳がわからないのでは、ないのれすらー!おかーしゃん、あなたこそ、訳がわからないのれすらー、おかーしゃん!!」
気がつくと僕の頭の中では、子供のころの悲しい思い出と、ユキちゃんの思いが、まるでビビンバの様に混ざり合い、あふれかえってしまっていた。

そして僕はそのビビンバ感情の赴くままに、ユキちゃんのお母さんに言葉を発していたのだった。

「おかーしゃん、お父さんに会いたいユキちゃんの気持ちなんて、あなたには解らないのれすらー!」 

その時、突然僕の背後から獣の遠吠えのようなうめき声が響いてきた。

「ぐうおーー!ぐうおーーー!!」

「なんらー!?」
僕達は遠吠えの聞こえる方に目を移した。

「ぐうおーー!ぐうおーーー!うぐえ・・・うぐえ・・・」
獣の声はさらに大きくあたりに鳴り響いた。

ガサガサ、ガサガサ、
突然僕達の前の植木が揺れると同時に、後ろにいた保育園児の健ちゃんが大声で叫んだ。

「ゴリラだーーーー!」

園児の指の先にはパンチパーマのゴリラ・・・?
じゃなかった、鬼瓦興業の鬼軍曹、追島さんが、グシャグシャに泣きくずれた顔で、植木の陰から顔をのぞかせていた。

「ほらー先生、僕の言ったとおりゴリラがいたでしょー!ほらほら」

叫んでいる健ちゃんの横で、ユキちゃんは急に目を輝かせると

「パパーー!!」

泣きながら追島さんの方へ向かって走り出した。

「あ、待ちなさい、ユキー!」

お母さんの制止も聞かず、ユキちゃんは追島さんの胸に飛び込んでいった。

「うぐおー、ユキー!ユキー!」

追島さんは、顔中ぐしゃぐしゃにしながら、その丸太のような腕でユキちゃんを抱きしめた。

「パパー、パパー」

春菜先生も涙をいっぱいにためながら、二人のことを見つめていた。

「な、なんらー? なんなんらーー?」

「ユキちゃんのパパは・・・、お、追島さん!?」
園庭でうれしそうにトカゲを見せていたユキちゃんと追島さん、僕は二人の愛と感動の熱いの包容を眺めながら、訳が分からず立ちつくしていたのだった・・・。

つづく

最後まで読んでいただきありがとうございます。
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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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