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侠客鬼瓦興業66話「イケメン三波の策略」

「好きになっても、いいですか?」

イケメン三波の突然の告白にめぐみちゃんは慌てて顔を後ろに引いた。
「ちょっと、じょ、冗談はやめてください」
「冗談なんかじゃありません、僕は真剣なんです」
「真剣って・・・」
三波の言葉にめぐみちゃんは目を吊り上げると
「真剣って何をいってるんですか?あなたは春奈先生が・・・」
「彼女は関係ない!」
「関係ないって、昼に言ってたじゃないですか好きだって・・・、それに子供達の前で軽薄すぎです」
「え?」
三波はハッとした顔で振り返った、そこにはニヤニヤしながら三波とめぐみちゃんを見ている保育園の子ども達の姿があった。
「あー!いけない、ついうっかり」
「うっかりじゃないでしょう」
「す、すいません」 
「今の言葉、聞かなかった事にしておきます」
「は、はあ・・・」
「はいそれじゃ金魚を選んでください」
「あ、はい」
めぐみちゃんに怒られ、三波は急に神妙な顔で金魚を選び始めた。
「じゃあこの子で」
「この出目金ちゃんですね」
めぐみちゃんは網で出目金をすくいお椀に移したあと、箱からビニール袋を取り出そうと後を振り返り
「うわー!?」
突然大声を出した。
彼女の目線の先には、ゾンビのような青い顔でじーっとしゃがんでいる僕の姿があったのだった。

「び、びっくりしたー!吉宗くん、いつの間にそんなところに?」
「あっ!あの、ちょっと前に・・・」
「ちょっと前ってたこ焼きは?」
「あっ!?」
慌ててたこ焼き売り場を見ると、お客さんに追われててんてこ舞いになっている銀二さんの姿があった。 
「こらー!吉宗ー、てめえ何やってんだー!!」
「あー、すいません!」
僕はめぐみちゃんを心配して飛び出したものの、何にも出来ないまま慌てて持ち場に走っていった。めぐみちゃんはそんな僕の姿を見ながら 
「おかしな吉宗君、ふふふ・・・」
うれしそうに微笑んだ。
そんな彼女の様子を、氷のような目でイケメン三波が見つめていた。

「あ?ご、ごめんなさい三波先生」
めぐみちゃんは慌てて箱からビニール袋を取り出し、三波にふりかえった。
「いえ、いいんですよ」
三波の目は瞬時に氷の目から、優しい保父さんのそれに戻っていた。
「めぐみさん、本当に好きなんですね、あの人のこと」
「え?」
「めぐみさんがあの人を見る目でわかりますよ」
「目で、ですか?」
めぐみちゃんは出目金を袋にうつしながらポッと頬を染めた。 
三波はたこ焼き三寸の中の僕をみながら
「めぐみさんがそこまで思ってるぐらいだから、春菜先生も好きになるわけだ・・・」 
突然、意外な言葉をつぶやいた。

「・・・春菜先生も?」 
めぐみちゃんは慌てて三波の顔を見た。
「あ、いや・・・、何でもないです」
「何でも無いって今、春菜先生も好きになったって?」
「あ、いやそれは、ひとり言ですから、気にしないでください・・・」
三波は慌てて手を振りながら横を向いた。しかしその瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「み、三波先生?」
めぐみちゃんは驚きの顔でじっと三波を見ていた。

そんなか境内の入り口から
「おーい、三波くーん!」
大きな声が響いてきた。 
「やっぱりここだったんですね、三波先生・・・」
そこには三波が口に出したばかりの春菜先生が、スーツ姿の男と近づいて来ていた。

「あ、あなたはさっきお会いした・・・めぐみさん?ですよね・・・、こんばんわー」
春菜先生はめぐみちゃんに気がつくと、うれしそうに頭をさげた。
「あっ、こ、こんばんわ」
めぐみちゃんは慌てて頭を下げたあと、じーっと春菜先生を見た。

「へえ、今日はめぐみさんが金魚すくいなんですね」
「は、はい」
「それじゃ昨日のお兄さんは、どちらにいらっしゃるんですか?」
「お兄さん・・・、吉宗君のことですか?」
「はい」
春菜先生は静かにうなずきながらあたりを見わたした。めぐみちゃんはそんな春菜先生に少しムッとした表情を浮かべると、僕のいるたこ焼き三寸を指差し
「吉宗君なら、あそこです。・・・吉宗くーん!」
角のある声で僕を呼んだ。
「・・・?」
僕はパックにたこ焼きを詰めながら、めぐみちゃんの事を見た。
「お客さんですよ!」
めぐみちゃんはそう言うと、プーッと頬を膨らませながら春菜先生を指差した。
「え?何?どうしたのめぐみちゃん、お客さんって?」 
「あっ、春菜先生!!」
僕は思わず頬を赤くして照れ笑いを浮かべてしまった。

「どうして吉宗くんが、赤くなってるのかなー?」
「え!?」
何時の間に来たのか、振り向くと僕の横にめぐみちゃんが腕組みをして、怖い顔で立っていた。
「え、あ、赤いって?そ、そんなこと・・・」
「真っ赤じゃん」
めぐみちゃんはそう言いながら、明らかに敵意にみちた目で春菜先生を見た。
「え?め、めぐみちゃん?え?え?」 
僕は訳がわからず、めぐみちゃんと春菜先生を交互に見た。

「へえ、今日はたこ焼き屋さんだったんですね、お兄さん」
春菜先生はめぐみちゃんの様子に気づかないまま、楽しそうに話しかけてきた。
「うわー美味しそうですね!」
「あ、美味しいですよ、は、はい」
僕は隣にめぐみちゃんの殺気を感じながら、作り笑顔で返事をした。 
「あ、そうそう、紹介しますね」
春菜先生はそういうと、彼女と一緒に現われたスーツ姿の男に声をかけた。
「副園長先生、この方がお話した優しいテキヤのお兄さんです」
スーツの男は僕の前に歩をすすめると、はっと驚きの表情を浮かべた。 
「あ、あなた方は!?」  
「あー!?銀二さん、銀二さん」
「ん?あっ!あんたは夕べの・・・」
銀二さんと僕は目を丸くしながらスーツの男を見た。

春菜先生の保育園の副園長、そのスーツ姿の男はお慶さんの婚約者、沢村研二そのひとだった。

つづく

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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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