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侠客鬼瓦興業64話「激突!吉宗vsイケメン三波」

「いやあ、またお会いしましたね」
沢村は得意のさめた目で僕たちに笑った。
「副園長も、ご存知の方だったんですか?」
「ああ春菜君、実は夕べ知り合いのお店でね」
「知り合い?」
「君も知ってるだろ、私の婚約者の・・・」
沢村は意味深な笑い顔で春菜先生を見たあと、僕に振り返り
「いやあ春菜君から聞いたテキヤのお兄さんって、君だったんですか」
「はあ・・・」
「うちの園児がお世話になったそうで、とくにユキがね・・・」
「ユキちゃん!?」
「ええ、昨日いろいろあったそうですね」 
「いろいろって?あっ!」 
僕は昨日起こった、ユキちゃんと追島さんの一件を思い出した。

(そうだ、この男、ユキちゃんの新しいお父さんになる人だった・・・)

「慶からも、いろいろ聞かされましてね」
沢村は少し怒った顔で春菜先生を見た。 
「あっ!す、すいません、昨日は私が勝手なことを」
「いやいや春菜君、きみが悪いんじゃないよ、ははは」
沢村は冷たい目で春菜先生を見た後、急にあたりをきょろきょろと見渡し始めた。
(この男、昨日のことを怒って)
僕は春菜先生のしゅんとした顔を見て思わず
「あの・・・」
と話しかけたその時だった。 
「たしか沢村さんって言ったっけ、あんた追島の兄いさがしてんのかい?」 
それまで、たこ焼きを返していた銀二さんが、突然ぶっきらぼうにつぶやいた。
「あ、いや・・・」
「追島の兄いなら向こうでイカ焼きやってるぜ、婚約者の元旦那がどんな面か見てえんだろ?あんた・・・」
「そ、そんなことはありませんよ」
沢村はあわてて首をふった。
「そうかねー、俺があんただったら間近によってどんな馬の骨野郎かよーく拝みてーけどな、ははは」
銀二さんは笑いながらも鋭い目で沢村を見据えた。

「ねえ吉宗君、この方がお慶さんの?」
「うん」
僕はめぐみちゃんの問いかけにうなずきながら、銀二さんと沢村のことを見た。

「ぼ、僕はね、前のご主人がどうだとかで無く、純粋に慶さんの事を愛して、それで婚約したんですよ・・・」
「ふーん、純粋に愛してねー、プーッ!、」
銀二さんは突然吹き出しながら僕を見た。
「おい聞いたか吉宗、このおっさん純粋に愛しちゃってんだってよ」
「え?あ、はあ」
突然のふりに、僕は慌てて返事をかえした。そんな僕達に沢村は真っ赤な顔で
「き、きみ・・・、ちょっと失礼じゃないか僕の真剣な言葉を」
「真剣ね、ああ、わかったわかった」
「君ー!」
「真剣とか純粋とかどうでも良いけどよ、そんなとこボーっと突っ立ってられたんじゃ商売の邪魔なんだよオッサン」

「オッサン!?」 
「こちとら、オッサンの訳のわからねえ話し聞いてる暇ねえんだよ、たこ焼き買う気がねーなら、店の前からどいてくんねえかな」
銀二さんはムッとした顔でそう告げると、再びたこ焼きを返しはじめた。
「し、失礼な!」
沢村は銀二さんの言葉に顔を真っ赤にして震えていた。

その時だった、二人の様子を離れてみていたイケメン三波が
「副園長、この方の言うとおりですよ、ハハハ・・・、商売の邪魔しちゃまずいですからね」
不敵な笑みを浮かべながら近付いて来た。 
そして僕の目の前で立ち止まると
「いやー良く見ると美味しそうなタコ焼きですね、せっかくだから一つ買って行こうかな、いくらですか?」
そう言いながらポケットから財布をとりだした。
「あ、500円です」
僕が答えると、三波は財布から小銭を取り出し
「それじゃ、これで・・・」
500円玉を差し出した。
お金を受け取ろうとしたその瞬間、三波は僕の手の前でお金を放した。 
「あ!?」
チャリン!
500円玉は三波の足元に転がり落ちた。

「あー、悪い悪い・・・」
「あ、いえ」
僕は慌ててしゃがむと500円玉を拾いながら頭上を見上げ、ハッとした。
そこには、今まで以上の冷酷な目で僕を見下している三波の姿があった。
(この男、わざとお金を・・・)
気がつくと僕も恐い顔で三波を睨み返していた。

「悪かったねお兄さん、ごめんごめん、はははは」
(何がごめんだ、こいつ!)
僕はお金を持って立ち上がると、ムッとした顔でたこ焼きをつかみ、三波の顔の前に差し出した。
「うん、いい匂いだ」
三波はふてぶてしく笑いながらそれを受け取ると、何事もなかった顔で春菜先生に振り返り、得意のさわやか笑顔に戻って微笑んだ。
「春菜先生ー、いやあ、本当においしそうなたこ焼きですよー、はははは」

(なんだこの男は!いったい何者なんだ?)
僕に対して見せたあの冷酷な顔など微塵も感じさせない、見事に作られた三波の笑い顔。 
(この男は、絶対にただの保父さんなんかじゃないぞ・・・)
そう気づいた時僕は、ハッと昨夜ハメリカンナイトでマライアさんが話していた言葉を思い出した。

(そういえば、マライアさんも昔は保母さんだったって・・・)

・・・・・・・・・

『お兄さん、私ね、実はこう見えても昔、保母さんだったんだよ』
『えー!?保母さん?』
『以外でしょ』
『は、はい』
『女子高を出て、その後資格とって、その彼と知り合うまで私男の人と手も握ったことなかったんだ』
『それで保育園に勤めたんだけど、そこでその男とであっちゃって、彼のうそのやさしさにすっかり参っちゃってね・・・、散々お金を騙し取られて借金だらけにされて、結局はこんな所で働くはめになっちゃったんだ』

・・・・・・・・・ 

(あの時、マライアさんは男のことを氷のような目と言ってた・・・)

(・・・この男!!) 
気がつくと僕は無意識のうちに、イケメン三波の背後に近づいていた。
「おい、お前!」
「え?」
「お前、マライアさんって知ってるだろ?」 
「マライア!?」 
僕の問いかけに、三波は表情を変えた。
「やっぱり知ってるんだな・・・」
「・・・なんでお前があいつのこと?」
三波は周りに聞こえないような小声でそう言うと、僕を冷めた目で睨んできた。
その瞬間僕は怒りで我を失い
「お前だったのかー!!」 
そう叫びながら、イケメン三波の胸ぐらをつかんでしまっていたのだった。

つづく

最後まで読んでいただきありがとうございます。
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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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