侠客鬼瓦興業65話「恐るべし!イケメン三波」
「やっぱり、お前だなー!!」
気がつくと僕は、イケメン三波の胸ぐらをつかんでしまっていた。
「な、何をするんですか!」
「何じゃない!、よくもマライアさんをー!」
「苦しいー!た、助けてー!、助けてー!!」
三波は大声で叫んだ。
「吉宗君!!」
突然の出来事に、めぐみちゃんがあわてて僕の腕にしがみついてきた。
「どうしたの吉宗君!急にこんなことして」
「えっ?・・・あっ!?」
僕は、めぐみちゃんの言葉に我にかえり、あわてて三波の胸ぐらにあった手を放した。
「なんで・・・、どうして、吉宗君?」
「いや、あの・・・」
三波はあわてて僕から離れると
「な、何なんですかーあなたは、それに、マライアさんっていったい誰のことですかー、そんな人知りませんよー僕は」
「知らないって、お前今!」
「吉宗君!!」
「!?」
「マライアさんって、さっきの綺麗な人でしょ、いったいあの人がどうしたのよ?」
「あ!」
「ねえ、いったい何なの?どうして吉宗君が、あのマライアさんという人の事でそんなに興奮してるの?」
「いや、あの・・・」
「答えて!」
「・・・・・・」
僕は青い顔で、あたりをキョロキョロ見渡した。そして銀二さんの姿を目にするとひっしに視線で助けをもとめた。銀二さんは一瞬動揺したのち即座に
「え、あーと、詐欺、結婚詐欺だ、なー吉宗」
そう言いながら僕たちの前に歩いてきた。
「夕べの飲み屋でマライアが言ってたんだよな、保育園の先生に結婚詐欺にあったって・・・、な、な、吉宗」
「え、あ、はい」
「結婚詐欺!三波先生が?」
めぐみちゃんはイケメン三波を見た。
「じょ、冗談じゃありませんよー、僕が結婚詐欺だなんて!ひどすぎますよー」
三波は目に涙を浮かべながら
「春菜先生、副園長助けて下さいよー、僕はそんな人間じゃないって、この人に言ってくださいよー」
二人に救いをもとめた。
「ハハハ、三波先生が結婚詐欺とは、それは絶対に間違いですよ、ねえ、春菜君」
「ええ、そんなわけありませんよ、きっと誤解ですよ吉宗さん」
春菜先生も微笑みながら僕を見た。
「吉宗君だめじゃない、そんな早とちりして」
「で、でも」
「でもじゃないでしょ、ちゃんと誤らなきゃ」
「ごめんなさい、三波先生」
めぐみちゃんは僕に代わって三波に頭をさげた。
「め、めぐみしゃーん!」
三波は涙顔で叫ぶと
「うわー!怖かったー、怖かったよー!」
子供のように大声で泣きながら、めぐみちゃんにへばりついてきた。
「ちょ、ちょっと三波先生!?」
「うえー、めぐみさーん、めぐみさーん」
(ぐおー!、あいつどさくさにまぎれて、めぐみちゃんに!)
僕はふたたび三波を睨んだ。
「吉宗君!またそんな怖い顔して!!」
「え!」
「吉宗君も三波先生に謝りなさい!ひどいことして、こんなに怖がらせてしまったんだから」
「で、でも・・・」
「でもじゃありません、謝りなさい!」
「す、すいま・・・せんでした」
僕はしぶしぶイケメン三波に頭をさげた。三波はめぐみちゃんにしがみついたまま、じーっと僕を見ていたが再び情けない顔をすると
「本気で謝ってないよー、まだあの人は後で僕に暴力をふるうつもりだよー」
めぐみちゃんの胸に顔をおしつけた。
(うあああー!あいつ、またしても!!)
「吉宗君!もう一度謝りなさい!!」
「うぐっ・・・」
めぐみちゃんに再び叱られた僕は、悔しさをかみしめながら、深々と三波に頭をさげた
「ご、ごめんなさい、すいませんでした!」
「三波先生、今度は真剣に謝ってるんで許してもらえませんか?吉宗君のこと」
「めぐみさん、あの人は真剣に謝ってなんかいませんよーー!真剣だったら手をついてあやまりますよー!」
「手をついて!?」
「そうですよー、手をついて謝ってもらえないと、僕には信じられませんよー!」
イケメン三波はめぐみちゃんに泣き顔で訴えたあと、冷めた目で僕を見据えた。
(こ、こいつ!やっぱり全部演技だ・・・)
「さあ、手をついて謝ってください」
「・・・うぐっ!」
「さあ、黙ってないで、さあ・・・」
僕は奥歯をきりきりとかみしめながら三波の氷のよう顔を睨んでいた。とその時だった
「三波先生!」
隣で様子を見ていた春菜先生が、三波に声をかけた。
「手をつけだなんて行き過ぎですよ、誤解は誰にでもあるんですから」
「でも、春菜先生、とても怖かったんですよー」
「それでも行き過ぎです」
「なぜ?どうして春菜先生は、あの人をかばうんですか?」
「別にかばっているわけじゃ・・・」
「やっぱり好きなんですか?あの人の事が好きなんですかー?」
イケメン三波はめぐみちゃんにしがみついたまま、春菜先生に訴えた。
「好きって?そんな・・・」
春菜先生は頬を染めながら無言で立ち尽くしていた。そんな春菜先生の様子を、めぐみちゃんも真剣に見つめていた。
「何も言えないなんて、やっぱりそうなんだー、春菜先生はあの人が好きなんだー!」
「な、何を言ってるんですか三波先生、思いっきり誤解です」
「誤解?」
「そう、誤解ですよ三波先生」
春菜先生はそう言うと、恥ずかしそうに微笑んだ。
「春菜せんせー!」
イケメン三波はぐしゃぐしゃの情けない顔で泣きだすと、めぐみちゃんから乗り換えるように春菜先生に抱きついた。
「まあ、三波先生ったら、どうしたんですか?」
「だって心配だったんですよー、春菜先生の心があの人に行ってるんじゃないかって、心配で心配で・・・」
「おかしな三波先生ですね、考え過ぎですよ」
「本当ですか?本当に本当ですか?」
三波は泣きながら春菜先生を見つめた。
「本当です。さあ、いい加減泣きやんでください、ほら子供たちも見てるんですよ」
「え?あー、しまった!!」
三波は隣でじーっとみている園児たちに気がつくと、あわてて春菜先生から離れた。そして恥ずかしそうに頭をかきながら、さわやかに笑い始めた。
「いやー、僕としたことが恥ずかしい」
「相変わらずあわてんぼですね、三波先生ったら、ふふふ」
春菜先生はやさしく微笑みながら、明らかに好意をもっているまなざしで、イケメン三波を見つめていた。
「三波先生って本当に純粋に春菜先生の事を・・・、私もちょっと誤解していたかも」
二人の様子を見ながら、楽しそうにめぐみちゃんがつぶやいた。そして静かに三波に近寄ると
「本当にごめんなさい、吉宗君には私からよーく言っておきますから、何も心配いりませんから」
ふかぶかと頭を下げた。
「いや、いいんです。僕の方こそ手をつけだなんて言いすぎちゃったから、はははは」
イケメン三波はめぐみちゃんの事を見つめながらさわやかな笑顔で微笑んだ。そして何時のまにかめぐみちゃんも、そのさわやかスマイルに吸い寄せられるように幸せそうに微笑み返していた。
(ち、違う!めぐみちゃんも春菜先生も、違う!その男は本当はそんなさわやかな男じゃない)
僕は必死に心で訴えていた。しかしその場の雰囲気から声を出す事が出来ず、じーっとイケメン三波と春菜先生、そしてめぐみちゃんの姿を見つめていた。
そんな最中
「ほれ、差し入れのジュースだぞ」
背中ごしから聞き覚えのあるどすの利いた声が響いてきた。
(こ、この声は、もしや!?)
僕はチラッと沢村研二を見たあと、おそるおそる聞き覚えのある声に向かって振り返った。
「やっぱり、お、追島さん!?」
そう、そこには、片手にジュースの袋をぶら下げたマウンテンゴリラ、追島さんが不思議そうに首をかしげながら立っていたのだった。
つづく
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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^
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