刊行記念イベント第2弾・蔵前「透明書店」でのスペシャル対談(2024年10月21日)
『牛乳から世界がかわる——酪農家になりたい君へ』(農文協)の刊行記念イベント第2弾が、10/21(月)に東京・蔵前の「透明書店」で開催されました。札幌での第1弾に引き続き、盛り上がりをみせた本イベントの様子を報告します。
スモールビジネスを応援する「透明書店」のこと
東京・蔵前にある透明書店は、2023年4月開店。スモールビジネスに関わる人がちょっとした刺激をもらえるような、「オープン(透明)な本屋」として、新刊書の取り扱いだけでなく、日々の売り上げを公開したり、店内に棚貸しスペースを設けたりするなど、さまざまな試みが話題を呼んでいる書店です。
書店の生命線ともいえる「棚づくり」にも特長があり、その選書を一手に引き受けているのが、店長である遠井大輔さん。ビジネスの業種別棚(「農」にまつわる本もあります)、現在のイチ押し本を集めた棚など、「独立したい系書店」である透明書店らしさがあふれる店内となっています。
酪農に正解はない
イベントでは遠井店長が司会・進行役となり、「知っているようで知らない酪農のこと」を、著者の小林国之先生(北海道大学准教授)と、対談ゲストの木村充慶さん(「武蔵野デーリー」3代目)に質問することから始まりました。
まず「今回の本ではどんなことを伝えたかったのでしょうか」と、遠井さん。
その問いに「“仕事”と“人生”を切り分けない生き方が世の中にはあり、酪農家になるとは、どんな人生を生きたいかを考えること」と、小林先生は言います。
こうした酪農家としての生き方は、本書の「実践編」によくあらわれています。
家族経営でしあわせに暮らすための効率性を追求する「ベイリッチランドファーム」、自然放牧で循環型農業を営む「石田牧場」、生乳生産から加工までを行う「ノースプレインファーム」と、登場する酪農家たちの生き方は三者三様。「酪農を営むことに正解はない」のです。
世界の酪農もさまざま
酪農家1人ひとりの生き方だけでなく、世界の酪農にもさまざまなスタイルがあります。その話題ならば……と応じたのが、ゲストの木村さん。吉祥寺で100年続く牛乳屋さんの3代目として、クラフトミルクスタンドを経営しながら、防災・復興、気候変動、SDGsなど、地球の課題解決をはかるプロジェクトを多数手がけています。
子どもの頃、本当は牛乳が苦手だったという木村さんが語るのは、実際に各国を訪れて味わった「世界の乳」エピソード。コクある美味しさに開眼したという水牛の乳にはじまり、「1万種類はある!」と現地の人が豪語するインドの乳製品事情、圧倒的に加工前が美味というラクダの乳、マサイ族にふるまってもらったスペシャルな(牛の血入り)生乳など、尽きることのない話題に、小林先生は「これまでよくお腹を壊しませんでしたね(笑)」と笑顔でこたえます。初めての顔合わせとは思えない、軽妙なやり取りが続きました。
酪農×スモールビジネス、酪農×環境
最後は、酪農から見えてくる世界とのかかわりについて。
酪農の価値を世の中にちゃんと伝えることが使命だと思っている、という木村さん。最近、能登半島地震で被災した、1軒の酪農家「寺西牧場」とのプロジェクトを立ち上げたといいます。地震で寺西牧場自体が被災しただけでなく、唯一の出荷先である輪島のレストランが倒壊してしまったのです。余った生乳をなくなく捨てるしかない現状に、岐阜の食品加工メーカーと木村さんが打開策を提案。
熱変性がなく、牛乳そのものの美味しさが伝わるフリーズドライ牛乳「ミルふり」を、クラウドファンディングの力を借りて製品開発し、来年には販売予定だそうです。
酪農のトレンドでいえば、環境問題への配慮も欠かせない、と小林先生。牛などの反芻動物のゲップに含まれるメタンガスが、地球温暖化の原因のひとつとして世界的な課題になっていますが、劇的に効果がある対策はみつかっていません(本書「座学編」Lecture4でも解説)。
酪農王国のヨーロッパ諸国と比べると、飼っている頭数は少ない日本ですが、牛のエサとなる穀物をこれほどまで輸入している国はないといいます。環境への負荷を考えて、自分たちのところでとれるエサを食べさせる、放牧酪農を広げていくなど、酪農=生産技術にとどまらず外の世界とつながることで打開策が見えてくるのではないか、との話にもなりました。
酪農×スモールビジネス、酪農×環境など、さまざまな切り口が見えてくる充実した対談となりました。
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農文協では、今後も『酪農から世界がかわる』を知っていただく機会をつくりたいとかんがえています。ご興味のある方はぜひ、お声がけください!
(文責:編集担当・阿久津)
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