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10年の傷が キラキラに

僕らはいつも

自信を持てなくて

謙遜ばかりしてしまう

「どうしたらあんなに自信を持てるのだろう」と羨ましく感じたり。
でも、そんなアノ人も実は、心のどこかで自分を信じようと必死になっていたりします。時には、他人からの心無い言葉につけられた傷が深過ぎて…立ち直るのも困難になる事もあります。

彼女と出会ったのは、今からおよそ2年前。同じ悩みを持つ人たちが集まるセラピーでした。仕事の悩みを打ち明けるケースが多くて、彼女もまた、そうでした。

私は何もできないんです。

そう言って再就職への不安を打ち明けてくれました。一般的に言う、理系の高学歴。でも話してみると、とても感じが良くて、優しく気遣いの出来るタイプ。高校時代は運動部で、大学自体はメディア関係の会社でバイトをしていて、臨機応変に活躍し頼りにされていたそうなんです。運動が出来て頭の回転が早い、大変頼りになる印象でした。あまりにも自信を無くしていたから、思わず大袈裟に、冗談混じりに言ってしまいました。「僕ならどんどん仕事をお願いしたくなるよ、もしかしたらこき使ってしまうかもしれないね笑」
それくらい、賢さを感じたんです。

キャリアの棚卸しは10年分

話の流れで、一緒に始めてみたんです。まさかセラピーに来てまで仕事みたいな事をするとは思わなかったけれども、見ているこっちが気になってしまって…横顔が切なくて。
律儀に紙に書いてきてくれました、大学時代から順番に何行も現在にいたるまで。その一行一行を読み上げる彼女の言葉がどれも、まるで自分で自分の自信を失わせるようなものばかり。読み進めるうちに表情がみるみる内に…。

実態ではなく投げつけられた言葉による傷

こんなに実績が有るのに…

誰も彼女を評価しなかったように、話を聞きながら感じました。だって、実際には出来ていたんですから。なのに、彼女の記憶の中では誰も、「上手くいってるよ」って伝えてくれなかったらしくて。思い出せるのは辛い記憶ばかり。

あんな事を言われた

こんな風に失敗した

上司の指示通りにしたのにプロジェクトは…


聞きながら「自分で自分を褒めてやれたら、どんなに人間は幸せになれるだろうか」と、思ってしまいました。だからこの時、どんなに小さな事でも客観的に評価してあげるように努めました。

「それって十分出来てると思うよ!」

「もしかしてそれって得意なんじゃない?」

「それは君のせいじゃ無いよね、上司の指示通りできたじゃない。」

正直、途中からは同じセリフの繰り返しになってしまったものだから、わざとらしく無いか心配になったくらい。それでも4時間近く話すうちに彼女の目には涙が、ほころんだ表情と共に。

本当はこんな働き方がしたかったんです

期待していた働き方と違い、だいぶ期待されてしまったそうなんです。彼女の望む働き方というのはとても地味で、ひたむきで…それこそ、日陰でコツコツと職人的にやっていきたかったみたいなんです。
一般的に、期待されれば表舞台にも出されますし、多岐にわたる職務や職場を経験させられて、変化に富んだエキサイティングな働き方に近づいていきます。そう考えると…彼女の希望とは正反対。そんなギャップが彼女を苦しめていたように感じました。

自分の”やりたい”に気づいた彼女は

すぐに仕事の探し方を聞いてきました。紹介したサービスやイベントにも参加し始めましたから、きっと今頃、どこかで元気にやっている事でしょう。少なくとも、同じ繰り返しはしていないはず。だって、やりたく無い事から離れる決意をできましたし、そして何よりも、誰かにつけられた傷に気づいて…その痛みを癒し始めたわけですから、自分で。

きっと次は、同じ様に傷つけられない様な…そんな職場についている事と思います。

そしてもう一つ、傷を負いながらも磨かれてきた自分のスキルに自信を持てて、、、いる事を願います。ほんの数時間でしたが、僕と一緒に話し見つけた”出来る”を生かしてくれていると、信じたい…。だって、それくらい彼女は魅力的だったのですから。

曇った表情がキラキラと輝きだすと

見ているこっちも幸せになります。
だからついつい、お節介もしたくなる。
時々「誰のためにやっているんだか」と、自分でツッコミしてしまいます。
それくらい、幸せな気持ちに、楽しみになるんです、僕自身が。
傷ついた表情がキラキラと輝きだす瞬間がいつも待ち遠しいわけなんです。
いつも、ね。


※このお話は、実話を元に作成したフィクションです。

※彼女のキラキラとした笑顔はノンフィクションです。

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