sudanobuhiro

sudanobuhiro

最近の記事

「正しい主張の反対は、ただの誤りだが、深い真実の反対は、もうひとつの真実である」 物理学者 Niels Bohr

「人は後ろ向きに未来に入っていく」ポール・ヴァレリー。 過去の成功体験を引きづられて意思決定をしてしまう私たちの習癖を端的に表しています。ちょうどボートを漕ぐように後ろ向きに進むかのように。 一方、「我々が歴史から学ぶことは、人間は決して歴史から学ばないということだ」とヘーゲル。  二つの相反する格言は、ボーアの言う「深い真実の反対は、もうひとつの真実」の好例でしょう。 証券市場の中心が、アムステルダム→ロンドン→ニューヨークと変遷したのは、経済の重心が移動したことにより

    • 貪欲さ愚かさの潮流に抵抗する

      「読書は体制をくつがえす行為であり、それによって、私たちを窒息させようと脅かす貧欲や愚かさの潮流に抵抗することができるのてす。洪水の脅威を前にして、一冊の本は一艘(いっそう)の方舟だと言えるでしょう。」 『読書の歴史』アルベルト マングェル著より 芝健介著『ヒトラー』では、ドイツ国民がナチ党による一党独裁を支持する過程が早送りの動画再生のように描かれています。辻野弥生著『福田村事件』では、関東大震災直後の集団殺人事件が歴史的事実としてつまびらかにされました。 これらを過

      • およそ〈怒りの陥穽(かんせい)〉は、〈怒らないことの陥穽〉の裏に他ならず 『まなざしの地獄』 見田宗介著より

        謝罪を当然とする風潮に「怒らないうことの陥穽」を憂う 陸上自衛隊射撃場での殺傷事件を受けての幕僚長による謝罪会見に違和感を超えた不安感を感じます。 「このような事案は、武器を扱う組織として決してあってはならない。今後このような事案が二度と発生しないよう、再発防止の徹底を図ってまいります。この度は国民の皆さまにご心配をおかけし、申し訳ありません。」 幕僚長による声明は、今の日本の社会が醸し出す行き過ぎた謝罪要求圧力を感じます。 「容疑者は他の指導官によって、その場で射殺され

        • 「大衆化した人間は、自分の宿命である不動の堅固な大地の上に足場を固めることをしない。むしろ、空中に宙吊りの虚構の生を営む。いまだかつてなかったように重量も根も持たぬこれらの生が、おのが運命から根こぎにされて最も軽薄な風潮の中を流されるままになっている。」 オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』より

          大衆は足場を固めることをしないと、オルテガは指摘しています。ただ、大衆は望んで足場を固めることをしないのだろうか、と疑問がわきます。実は、固めるべき足場を探してさまよっているのではないでしょうか。 高度経済成長を支えた大衆の「足場」として大いに機能した組織は、宗教(主に創価学会)、政治(共産党)、労組の三つでした。農村の村社会という足場に代えて、都市に集中する大衆の足場として、三つの組織が機能し、昭和の大衆社会を構成しました。 今、この三つの組織は、昭和世代の足場としては、

        「正しい主張の反対は、ただの誤りだが、深い真実の反対は、もうひとつの真実である」 物理学者 Niels Bohr

        • 貪欲さ愚かさの潮流に抵抗する

        • およそ〈怒りの陥穽(かんせい)〉は、〈怒らないことの陥穽〉の裏に他ならず 『まなざしの地獄』 見田宗介著より

        • 「大衆化した人間は、自分の宿命である不動の堅固な大地の上に足場を固めることをしない。むしろ、空中に宙吊りの虚構の生を営む。いまだかつてなかったように重量も根も持たぬこれらの生が、おのが運命から根こぎにされて最も軽薄な風潮の中を流されるままになっている。」 オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』より

          「自分の時代の問題、自分の時代の言葉の中でだけ考えるのでは、自己を開くに足る事柄が躍動しない。ゆえに古に学ぶのだ。」 伊藤仁斎

          荻生徂徠や山鹿素行に比べて、伊藤仁斎の名前は語られていないように思います。あらためて、その主著『童子門』を手がかりに、伊藤仁斎の人となりを空想してみました。 「卑きときは則ち自ずから実なり。高き時は則ち必ず虚なり。」この言葉に、仁斎の剛毅でありつつも、慈しみ深い人柄が滲み出ているように感じます。小難しく理屈だけをこねる思考を「虚」と退けます。天下国家を論じるよりも、もっと身近な、親に孝を尽くすことの大切さを説きます。人間本来の感覚に従い、一人ひとりが、その判断力磨いて思想的

          「自分の時代の問題、自分の時代の言葉の中でだけ考えるのでは、自己を開くに足る事柄が躍動しない。ゆえに古に学ぶのだ。」 伊藤仁斎

          自由への大いなる飛躍 「出離」のパラドックス マチウ・リカール著 『幸福の探究』より

          「出離」を禁欲主義や厳格な戒律と結びつけるべきではないと、「出離」のパラドックス(逆説)が明確にされることで、読者は自然と本章へ引き込まれていきます。そして、「利己主義、権力や所有の争奪戦、快楽への飽くなき欲求などの操り人形でいる自分に我慢するな」とも。 こうしたパラドックスの提示は、執行草舟氏の著書『生くる』にもあります。「無償」のパラドックスとして、「見返りを求める心を悪いと思うことはない」と。例えば、親が子を育てた恩義を押し売りすることは必然であるとしています。人間が

          自由への大いなる飛躍 「出離」のパラドックス マチウ・リカール著 『幸福の探究』より

          「予約された結果を思うのは卑しい。正しい原因に生きること、それのみが浄い。」 〜 理想と現実の間で 〜

          「予約された結果を思うのは卑しい。正しい原因に生きること、それのみが浄い。」高村光太郎 パーパス経営にも通じる高村光太郎の言葉は、経営者たらんとする者の背中を押してくれます。しかし、この高邁なる意思を堅持するには、あまりにも厳しい現実に私たちは直面します。一つの実例を紹介します。 健康寿命と寿命には10年程の差があります。この差を縮めたい、できれば「ピンピンころり」と天寿を全うしたいと、多くの人が願望しているのではないでしょか。そこで、私が取り組んだ事業は、多世代住宅の建

          「予約された結果を思うのは卑しい。正しい原因に生きること、それのみが浄い。」 〜 理想と現実の間で 〜

          組織の弱体化につながる360度評価

          部下が上司を評価する360度評価制度。部下からのフィードバックを得て、上司はリーダーシップスキルを磨くことが期待されています。響きだは良いです。しかし、組織の成熟度を考慮して、導入すべき施策です。未成熟な組織が、闇雲にこれを導入すれば、上司が部下に「サービスする」ことにもなりかねません。結果として、組織が弱体化することになります。 欧米の組織と異なり、日本の組織では常に「情」が絡み合います。部下は上司に不必要に気配りし、上司も部下に対して情けをかけているそぶりをして自己満足

          組織の弱体化につながる360度評価

          歴史の皮肉:「迷走5年、英国からの警告」

          「迷走5年、英国からの警告」と題する記事(2023年1月4日 日経朝刊より)に寄せて: ブレグジットを日本の攘夷に現代版とし、隣人(E U)に背を向けた結果の経済的・政治的迷走としています。ただ、この筋書きには違和感を覚えます。ブレグジットをE U嫌いの有権者の感情を煽った帰結として、あるいは、衆愚政治の結末として捉えるのは短絡的です。むしろ、なぜE U嫌いの国民が一定数存在するのかを考察してみます。 もともと英国は、第一次大戦後に、ルール地方の石炭と鉄鋼の国際管理を主張

          歴史の皮肉:「迷走5年、英国からの警告」

          もっと自由に中国古典を学ぶ アンラーニングによるインスピレーションの増幅

          受験勉強で砂をかむような思いで記憶した中国古典の読み下し文は、私の中国古典への興味を削り取っていったようです。ところが、ハーバート・フィンガレットの『孔子』を読み、著者の着想の新鮮さに背中を押され、中国古典を手に取ってみました。読み下し文とは決別し、英訳してみることにしました。漢文を英訳してみると、インスピレーションが膨らんでいく気がします。そして、他の格言と結びつける自由度も増します。 一例として、老子の「道可道也」の4文字を次のように英訳してみました。「We can b

          もっと自由に中国古典を学ぶ アンラーニングによるインスピレーションの増幅

          外資系サバイバル術 西洋思考 vs. 東洋思考

          将棋に定石があるように、外資系企業(特に欧米系外資)では、そこで「巧みに生き抜く技法」があります。定石を身につけた上で対局に臨むように、この技法をマスターして、自分の土俵へ勝負を持ち込もう。 日常業務に於ける本社との折衝には利害の不一致がつきものです。本社の方針を各国の商習慣や規制を無視して落とし込むことは、必ずしも最善の策ではないでしょう。唯々諾々と本社の指示に従うだけでは、現地法人の価値はありません。しかし、本社と衝突ばかりしていては、現地法人の戦略的価値を毀損します。

          外資系サバイバル術 西洋思考 vs. 東洋思考

          欲望や貪る心はイノベーションの源泉?

          「人間は、接触と比較の二つ思考パターンしかない」ローマ史の権威、本村凌二先生の言葉。仏陀の教えの眼鏡をかけて、本村先生の『ローマ史』を読んでみます。 覇権主義的思想を国家の傲慢とみなすのは、近代の思考。領土の拡大によって「接触」が生じ、戦いから奴隷を獲得すれば階級が生まれ、同時に、より優れた文明に「接触」し、これを獲得すればイノベーションが生まれる。より多くを私有しようとする貪る心(仏教で心の三毒、「貪・瞋・痴」)に突き動かされて、こうした「接触」を繰り返す。結果として、貧富

          欲望や貪る心はイノベーションの源泉?

          世界史からの学び

          『世界の歴史大図鑑』(河出書房新社)、この図鑑はお薦めです。重さ2キロ、4千円ちょっと。豚バラ肉程度のグラム単価で、これだけ充実した内容、と言ったら著者に叱られそうですが、パラパラと眺めているだけでも飽きません。 さて、古代史から中世・近現代史をページをめくりながら不思議に感じる点は、人々の残虐さが増していることです。 権力のやり取りを重ねつつ、政治体制は三つの形態を繰り返しています。独裁政治に嫌気をさして共和政(または貴族政)へ移行。共和政が成熟して民主政へ移行。しかし

          世界史からの学び

          『サピエンス全史』を読んで

          狩猟採集社会では、私たちホモサピエンスに階級も貧富の差も存在し得ません。ところが、農耕・牧畜によって、定住が始まり、私的所有が発生し、職業の分化(専門職化)や階級対立も生まれました。 古代において、一番大事な所有の対象は、人間(奴隷)です。奴隷を所有する支配者、所有される奴隷(農奴)が被支配階級。支配階級を、被支配階級の労働の成果を横取り(搾取)する行為が当然のように発生します。 古代から中世に時代が移ると、支配する対象が、人間(奴隷)から土地に変わりました。近現代では、

          『サピエンス全史』を読んで

          映画ファースト・マンを観て思うホモサピエンスの変質

          緊急事態宣言下のお盆休み、ファースト・マンを観ました。人類で初めて月面に足跡を残した宇宙飛行士ニール・アームストロングの半生を描いたドラマ。月面着陸計画の進捗が遅いとの投げかけに、「飛行機が発明されてまだ60年しかたっていません。そのことを思えば既に大きな進歩です。」と返すアームストロングの言葉は印象的。 ホモサピエンスが誕生して20万年。道具を使い、集団で狩猟をする技術を身につけ、更に社会的関係性と仲間との情報共有と協力を重ねて農耕技術を手に入れる。こうして、地球上の生物

          映画ファースト・マンを観て思うホモサピエンスの変質

          外資系企業処世術:お気楽Optimism

          欧米企業の専門家と話をしていると、悲壮感さえ漂う議論に進展しまうことがあります。マザー テレサとマハトマ ガンジーの言葉に触れた時、キリスト教の人間観がその背景にあるのかも、そんな気がしました。 マザーテレサいわく 思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから 言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから 行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから 習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから 性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから マハトマ

          外資系企業処世術:お気楽Optimism