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「予約された結果を思うのは卑しい。正しい原因に生きること、それのみが浄い。」 〜 理想と現実の間で 〜

「予約された結果を思うのは卑しい。正しい原因に生きること、それのみが浄い。」高村光太郎

パーパス経営にも通じる高村光太郎の言葉は、経営者たらんとする者の背中を押してくれます。しかし、この高邁なる意思を堅持するには、あまりにも厳しい現実に私たちは直面します。一つの実例を紹介します。

健康寿命と寿命には10年程の差があります。この差を縮めたい、できれば「ピンピンころり」と天寿を全うしたいと、多くの人が願望しているのではないでしょか。そこで、私が取り組んだ事業は、多世代住宅の建設でした。ここで言う、多世代住宅とは、次の通りです。

多世代住宅:一軒の家に大家族が居住する多世帯住宅ではなく、一棟の賃貸住宅を多世代が店子として賃借するものを指す。

老若男女が「スープの冷めない距離」(一棟の建物)で暮らすことで、お互いが世代をこえた知恵を共有し、日常生活で刺激と活気を分かち合えば、高齢者の健康寿命は自然な形で延びるはずと考えました。世に多世代住宅を送り出し、健康寿命を短縮する。私の「正しい原因に生きる」でした。

相応しい土地を探し、相応しい建物設計を行い、結果として数億円の銀行借入れを負いつつ、多世代住宅を完成させました。

ところが厳しい現実に直面します。当然ながら、借入金返済のために賃料収入を確保しなければなりません。毎月の返済に追われ、「この部屋は高齢者向けに割り当てたいので、若いかたの入居をお断りします」とは言えない状況に追い込まれました。更に、計画当初、想像さえできなかったコロナによる賃貸市場の変化。

「正しい原因に生きること、それのみが浄い」とは判っていても、キャッシュフローの重圧に負け、「正しい原因に生きること」を貫けないことも現実です。

高浜虚子の言葉を引けば、「去年今年、貫く棒の如きもの」と胸をはりつつ、「正しい原因に生きる」技法は未だ見出せていません。


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