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経営戦略総論(8):再興 THE KAISHA(1)

今回から、経営学者やコンサルタント、ビジネス界の多くの有識者から絶賛され、日本語版巻末に解説を書かれているIGPIの冨山和彦氏からは「すべての経営者の必修教養書」と称賛されているUCSD グローバル政策・戦略大学院教授 ウリケ・シューデさんによる「再興 THE KAISHA」を紹介したいと思います。

本書は米国在のドイツ人経営学者で、日本企業研究でトップを走るウリケ・シューデ教授の日本企業研究の集大成として、幅広いテーマ・課題それぞれについて歴史的変遷を踏まえて、冨山氏いわく「大河ドラマ型教養書」となっています。

ちなみに、ウリケ・シューデ教授は夫である米スタンフォード大学経営大学院教授のチャールズ・オライリー氏と加藤雅則氏との共著「両利きの組織をつくる」を2020年に出版しています。

今回から3回に分けて、本書「再興 THE KAISHA」という日本企業変革の大河ドラマを読み解く上で参考になる書籍やこれまで私がNoteに書いてきた内容を引用しながら、本書の章立てに沿って解説していきたいと思います。

第1章 〈イントロダクション〉ビジネス再興

第1章では本書の内容・構成をコンパクトにまとめられています。
失われた20~30年の間に、日本企業の再興(リインベンション)が進み、成果を出し始めていることを指摘しています。

そして、その特徴を以下のように分析しています。

重要なのは、このリインベンションは古いものを新しいものに置き換えるというよりも、DXで競争優位性をもたらす新しい組織能力を使って、過去に構築されたコンピテンシーを強化できる「新・日本株式会社」(New Japan corporation)を生み出していることだ。

本書「再興 THE KAISHA」より

第1章まではAmazonの試し読みやKindleのサンプルでも読むことができるので、時間のない方はここだけでも、ぜひ読んでみてください。

第2章 〈前提条件〉タイトな文化における企業刷新

まず始めに、シューデ教授は日本企業・組織の文化を分析するにあたって、米国の組織心理学者 ミシェル・ゲルファンド氏の「タイト・ルーズ理論」に基づくスコアを元に議論を進めています。

日本は先進国の中でも、社会規範に対する行動・コンセンサス・逸脱への許容度といった面で、「正しい」と思われている行動から外れることに眉を顰めがちな「タイトな文化」的特徴をもっています。

そして、タイトな文化の中で日本企業にイノベーションやチャレンジを促す(両利きの経営を目指す)ためには(自由度やルーズさを強要するのではなく)、「高度に体系化された方法論的アプローチ」が必要であること。

また、古いのルールや慣習、正しいと思われていた行動を変容させていくために「注意深いナッジ」が必要とされ、従業員に新しいビジョン・新しい行動規範をゆっくり段階的に受け入れさせることが重要であり、
しかも、いったん過半の従業員が納得すれば、みんなが全速力で(新しい方向に)突き進む可能性が高いだろうと分析されています。

この話は以前、ヨーロッパとのビジネスの話の中で、日本やドイツがコンセンサス重視で組織階層を重視する組織文化にある話ともつながっているかと思います。
*ちなみに国別タイト・スコアにおいて、日本のすぐ下が旧東ドイツでした


第3章 〈背景〉日本の経済発展―終身雇用を通じた安定

次に日本の経済発展を戦後の高度成長期とそれを支えた終身雇用制度バブル経済期、91年以降のバブル崩壊後に分けて解説しています。

日本独自の雇用制度については、以前、J・C・アベグレンによる『日本の経営』に書かれている「日本型経営の三種の神器」「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」にあることを紹介していますので、こちらも参考にしてください。

さて、バブル崩壊という痛手を長く引きずり、数多くの企業倒産・失業率上昇が起こり、失われた20年と言われても、また、2011年の東日本大震災を経ても、日本ではパニックや暴動、政治不安、過激なポピュリズムが起きなかったのは称賛に値するとシューデ教授は述べられています。

ここでも
・礼儀正しく思いやりをもつ
・適切であること
・迷惑をかけない

といった特徴をもつ日本のタイトな文化が役立ったのではないかと指摘しています。

そして、2000年代に入って以降、静かに「着実かつ慎重に熟慮された変革(transformation)」が起きていたと分析しています。

次回は、この変革のかなめとなる「集合ニッチ戦略」から話を進めたいと思います。



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