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イノベーション(3):ベンチャー企業

イノベーションを起こす組織・企業体として、今回はベンチャー企業について大手企業にいる側から考えてきたことを書いてみたいと思います。

ベンチャー起業は冒険?

もともとは英語のアドベンチャー(adventure)からadを省略することから生まれたと言われるベンチャー(venture)も、「冒険」や「危険を冒して行う行為」、暗に「賭け」や「投機」的なニュアンスも含んでいたようです。

起業ということであれば、伝統的な産業モデルの中小企業設立や一人で起業する個人事業主、ラーメン屋さんなど飲食店や小売店の開業も立派な起業だと思います。

ベンチャー起業がそれらの起業と何が違うかと言えば、「大手企業からは生まれづらい、事業性から展開しづらいイノベイティブな新技術・ビジネスモデルを軸に事業化を目指す起業」と定義しておけば良いのかと思います。

ベンチャー起業はバカ者?

新技術を軸にするにせよ、ビジネスモデルを軸にするにせよ、既存の大手企業や中堅・中小企業がこれまで様々な市場で技術と資本、厚い人材や協力会社ネットワークを持ち、自社製品・自社サービスの改善・改良を長年重ねて顧客から信頼を得ている事業環境下で、その間隙を縫うように新たな技術やアイデアを武器に千3つの事業化に挑むベンチャー起業家はまさに冒険者と言えるでしょう。

成功すれば偉大な冒険者という称賛を得られるかと思いますが、世の中に出ているベンチャー企業の経営者は千三つの世界を見事抜け出した成功者たちなのです。一方で起業当初や千分の997人は回りから見れば、なんと無謀な、バカじゃないの?と見られてきたことも事実だと思います。

私の世代(バブル世代前後)は大学卒業後は大手企業など伝統的な日本企業や官公庁に就職するのが普通でしたし、少しチャレンジしてみようと外資系企業に就職するあたりに留まり、卒業後すぐに起業する人は少なかったと思います。

しかし、その後、日本にもインターネットブームが来て、私の世代でもベンチャー起業に挑む人が少数派ではありますが出てきました。その当時の雰囲気を表す書籍が下記「ネット起業! あのバカにやらせてみよう」です。

いまはベンチャー企業の創業者として成功している方々、一時は飛ぶ鳥を落とす勢いで成功したものの、その後消えていった起業家たち それぞれの若き日のエネルギッシュな雰囲気が伝わってきて、ヒストリーとして読まれても非常に面白いかと思います。(この本もすでに絶版なのですが。。)

千3つの世界に挑むイノベーションの担い手は「バカ者」そして「若者」「よそ者」が多いという話は行動経済学の権威で現在、法政大学大学院政策創造研究科の真壁 昭教授が以前書かれた新書のタイトルにもなっています。

イノベーションの担い手は冒険者・挑戦者であるとともに、バカ者、若者(若気の至り)的な資質がないと耐えきれないかもしれません。
これはベンチャー起業だけでなく、研究開発の領域においても、ヒット商品や革新的製品を生む人はどこか常人とは異なるものをもっているのではないでしょうか? これは自分自身が大手企業グループの中で生きてきた凡人であるが故に常々感じてきたことです。

日本の大企業にベンチャー経営は難しい?

さて、一方の大手日本企業はこうしたベンチャー企業によるイノベーションの新たな動きをどう吸収し、イノベーションのジレンマを克服しようとしてきたのでしょうか。

ネット系ベンチャーの成功を見て、社内でエネルギッシュで(山っ気のある)若手社員も同じことをやってみたい、自ら起業したい、ベンチャー企業に転職したいという社員が多く出てきたのが、90年代後半から2000年代始めの頃です。

そこで、多くの大手企業で自社の中でベンチャーをやりたい社員に自ら手を上げさせ、事業構想の審査をし、無事合格したプランに対して事業化に向けて一定程度の資金援助・費用支出を認めるという社内ベンチャー制度を作りました。

私自身もベンチャー制度で子会社設立を果たした社員の処遇を人事部側で検討したり、事業責任者として社内ベンチャーで設立された子会社の育成・支援や事業管理をしてきました。経営企画スタッフとしてその中の一社の上場準備を手伝ったこともありますが、それは数少ないの成功事例の一つで、ほとんどの社内ベンチャー子会社はその後、事業がうまくいかずクローズしたり、成長が見込めないために他の子会社に吸収されることになりました。

最近、また社内ベンチャー制度が一部の企業で再考、復活されているようですが、シンクタンクの識者からは過去の反省を踏まえて、大手企業による社内ベンチャー制度は人材育成制度の一貫、福利厚生に過ぎないという厳しい意見も出されています。

では、いまの多くの大手日本企業はベンチャー企業とどう対峙・付き合っていこうとしているのでしょうか?

自社内のリソースだけで革新的なアイデア、イノベーションが出てくるのには限界がある。シリコンバレーや海外のベンチャー企業だけでなく、最近は国内でも将来有望な若手(バカ者?)が多くのベンチャー起業に挑むようになってきました。

であれば、彼ら・彼女らと一緒に新しいビジネスの事業化を考えていったらどうか? またベンチャーファンドのように資金面から彼ら・彼女らを援助し、緩い資本関係を結んで、ベンチャー企業の革新性を自社事業に少しでも結びつけていこうという動きになっています。

それがいま盛んな大手企業によるオープンイノベーションの場の主催やCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)設立の動きだと考えています。

オープンイノベーションやCVCについては、下記、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会で、これまで3回の白書に詳しくまとめられていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

最後に、このオープンイノベーション白書の第三版第一章「イノベーションの重要性と変遷」に、これまでのイノベーション論の変遷について、網羅的にわかりやすくまとまられていたベージを見つけました。

イノベーション論学術論の流れ

これまでイノベーションをテーマにした3回の記事で紹介した著者・書籍もいくつか含まれていますし、今回触れなかった、シュンペータードラッカーなどの古典、野中郁次郎教授のSECIモデルが書かれている「知識創造企業」など経営の世界では有名な理論や書籍の多くがカテゴリー分けされてわかりやすく載っていました。

さて、大手企業によるイノベーションの課題と発展形として、このチャートの右下にも載っている最近話題の「両利きの経営」について、次回以降で私の考えているところを書いてみたいと思います。





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