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【連載小説】母娘愛 (21)

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「ママ!やめんさいや!」裕子の場違いな突然の大声に、静かな展示場に居合わせた人々が、一瞬佐伯母娘さえき親子の方を注目した。「じゃけぇ、ゆうちゃん!言うたじゃないの!ええんじゃってば!」恵子は衆目を憚りはばかり、絞った声で応える。

 寄付することを止めさせようと、恵子を説得する裕子。壁に貼りつけるように展示された、パッチワークのベッドカバーを眺めて思案に暮れる裕子だった。

 背を向ける裕子に「ゆうちゃんなの?」年配の婦人が近寄ってきて呼び掛ける。「そうなんよ」その後ろから恵子が、被せるように応えた。「いらしてくれんさったの!忙しいじゃろうに!ありがとの・・・」「大盛況じゃねぇ!」「お陰さまで・・・」

「ゆうちゃん!高田さんよ!早苗ちゃんのお母さん!」裕子は恵子に促されるままに、高田早苗の母親に会釈した。マスク越しなのに、娘の幼なじみの顔が何十年経っても判る、母親の娘に対する愛情の深さに、裕子は強い嫉妬を覚えた。

「いま!サナエも、東京なんよ!」と言いかけた高田は、別の客に呼ばれ「ごゆっくり!チョット失礼ね・・・」と言い残して、離れて行った。

「一枚、一枚はいろんな色や、柄なんじゃけど・・・こうやって繋ぎ合わされて、一枚のベッドカバーになっとるんよね!」恵子は、いつか高田から聞いた話を始める。

「大袈裟な言い方をすりゃ、社会の縮図じゃなんて!いろんな人がおるじゃろ!ええ人もおりゃ、悪い人も、若い人もおりゃ、お年寄りも・・・」裕子は恵子の真剣な眼差しに、何を言いたいのかと、ただ逡巡しゅんじゅんすばかりだった。

「ママ!どしたん?」「マツモトさんって、生真面目でね!」「マツモトさんって?」「あのエヌポォー法人のマツモトさんのことよ!」「一生懸命なんじゃ!原爆死没者慰霊に対して・・・じゃけぇ!応援しちゃりてえのよ!」「・・・」裕子は、福田誠の二の舞にのまいになるような予感がした。

「ママ!・・・」続く言葉を裕子は切った。

「私って、学がないけぇ、お金で応援しちゃることしかできんじゃろ!」恵子の思いつめた顔に、裕子はこみ上げようとする涙を堪えるこらえる

「ママ!・・・だって!多額の現金を持ち込ませること自体怪しい!思わん?このキャッシュレスのご時世に・・・振り込みゃあ~済むことじゃけぇ!怪しい思わん方は変じゃろう?」

「じゃけぇ!今回の寄付はね!特別なんじゃって!高額な寄付をする人たちの会でね!その模様をテレビの特番や、ウーチュベなんかに流すんじゃって・・」「ママ!・・・」「とにかく、事業にお金がかかるんじゃけぇ・・・一人でも多いくの人の協力が必要なんじゃって・・・」

 高田が遠巻きに、母娘の会話を眺めているのに気づいた裕子。まるで、読唇術どくしんじゅつで聞ける素振りそぶりだ。でも、マスク越しではその心配は無用だけど、母に小声で会話を止めるように促し裕子は黙った。


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