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【連載小説】母娘愛 (10)

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 福田が、裕子の品川のマンションを訪れるのは、これが二度目だ。

 部屋へ向かうエレベーターで一緒になる住人の視線が、なんとなく気になる裕子である。特に女性から福田に注がれる視線に出会えば、優越感で身体が火照る。そんなとき、いつも心で得意の指パッチンを炸裂させていた。

 長椅子に腰を下ろすと、ほぼ同時に福田はボソッと言った。
「ゆうちゃん!お願いがあるんだけど・・」
「なによ!そんな深刻な顔して・・」
「・・・」福田は次の言葉が出ない。
「また、どうしても落としたいブツが大田区の鉄工所で出たんだ」
「それで、今回は、いくらなの?」
「270ほど」
「そんなの!無理だよ!・・・この間、用立てて、返してもらった100万と・・・あと50万ぐらいなら・・・なんとか・・・」
「じゃ~!・・・200ぐらいならどう?」
「・・・」
「この前よりは、早く返済できるから200ほど、助けてくれないか?月末には返せるから・・・凄く程度のいいNC旋盤なんで、買い手の心当たりがあるし、今回のように、850万では絶対に手に入らないんマシーンなんだよ・・・」

 裕子はベランダから見下ろす品川駅界隈の夜景を、眺めながら思案するばかりだった。650は福田が用意できるから、200を裕子に応援してくれとせがむ福田。それも、月末にはお客から回収できるからっていうのだが・・・。

 裕子は福田の顔をマジマジと覗き込んだ。

 福田は工作機械のブローカーだ。

 それも、程度のいい中古マシーンを、顧客に斡旋することで、生計を立てている。早いモンがちの世界だ、いい出物があれば、その場で手付としてゲンナマで決済する。
 だから、財布にはいつも、二、三百の現金を持ち歩いているわけだ。今回の大田区の鉄工所は、創業者が一代で大きくしたが、後継者がいないという致命傷に、長引くコ▢ナ禍。国の支援金や補助金も焼け石に水で、廃業に追い込まれたとのこと。程度のいい数台の工作機械が競売にかけられている。
 850万が即、1200万に化けるという、ウマい話に乗らない手はナイ!福田は仕事の話になれば、口角泡を飛ばしての議論を吹っかけてくる。
 裕子には異国の話のようで、話の内容にはついていけなかったが、福田を手中に引き留めておきたい潜在意識が、助けたいとう気持ちを、今回も高めるのだろう。

「いつまでに・・・」裕子は長い沈黙を破った。
「ありがたい!都合つけてくれるんだ・・・金曜日には、ほしい!」福田の輝く瞳に、裕子の心は震える。
「月末までね・・・」裕子は福田の歓ぶ顔に酔うばかりだ。
「愛してる!ゆうちゃん・・・」福田のキスの嵐を受けながら、福田の腕の中で、結婚の意思を固める裕子だった。


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