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異世界探索時の、わたしの魔導具について

 日常生活圏を離れ非日常を味わいに出かける旅行時は、異世界に一時的に転生するようなものだと思っています。
 異世界への扉が開かれた時の、私の携行品についてご紹介。

■トラベラーズノート
 ミドリ・デザインフィルから発売されている、トラベラーズノートです。主に、旅ログを記録しています。
 一言で言い表すならば、縦長サイズの糸綴じノートを、シンプルな革のカバーに挟んでゴムバンドで留めたもの。

■万年筆
 万年筆デビューする前はボールペンを持ち歩いていましたが、万年筆で書くことの魅力に取り憑かれてからは、複写用紙に書くとき以外は日常生活でも万年筆を愛用するようになりました。

●ノート選びについて
 旅の記録を残すためのツールをトラベラーズノートに決めるまでの間、自分が今後使い続けることができると思うもの(商品の品質、書き心地、価格帯)に辿り着くまで、実に様々なノートを試してきました。
 商品の背景に歴史やストーリー性があるものに惹かれがちで、装丁がしっかりしている3千円超えの高級ノートに手を出したこともあります。本棚に、ハードカバーで装丁が素敵な同サイズのノートがずらりと並んでいたら壮観だろうと夢見たものの、お財布が続きませんでした。

 ノートの大きさについても、出先で無理なく持ち歩けるサイズ感や重さを選ぶ必要がありました。旅先でストレスになること=イライラの原因の最たる原因は、旅程が思うように進まないアクシデントよりも「手荷物の重さ」だと思っています。トラベラーズノートは、この問題をクリアしていました。革カバーの重みは少しありますが、ノートは紙製の表紙のリフィル形式を取っているため、他のノートと比べるとかなり軽い。縦長サイズでスッキリしているから、よほど小さなバッグでなければ収納出来るし、革カバーを付けずにノートだけを持参すれば尚のこと荷物は軽く済みます。ハードカバーのノートは荷物軽量化の点でも、選考から漏れてしまいました。

 また、「万年筆で書きたい」という願望があったので、万年筆インクに適した紙(インクが裏抜けせず、裏写りが少ない紙で、万年筆で書いたときにペン先が引っかかりすぎず滑りすぎない書き心地)のノートを選ぶ必要がありました。
 選び抜いて購入したノートも、万年筆で試し書きしてみたらインクが裏ページにしっかり抜けてしまい、仕方ないので高級な雑記ノートとしてメモ的に使い切ったことは何度もあります。せっかく気に入って買ったのに、万年筆が向かないなんて残念!とガッカリすれども、そこは文房具の良いところ。万年筆以外にも書きやすいペンやシャープペンシル、懐かしい書き心地を楽しめる鉛筆など、書くための道具は山のようにあり、万年筆が使えないからといってノートとしての用途を満たさないわけではないから、ちゃんと使い切ることが出来ます。
 お試し購入を繰り返し、最終的にたどり着いた紙は、トモエリバー紙とMD用紙でした。どちらも、万年筆筆記に適していることで有名な紙です。常々、手荷物を軽くしたい私が選んだトラベラーズノートは、MD用紙を使用しています。これが、決定打でした。

●「万年筆で書く」ということ
 トラベラーズノートを革カバーごとセット購入した日に、同時購入したのが初心者向けの万年筆としてパイロット社から発売されていたkakunoです。
 万年筆でサラサラッと文字を書けたら、カッコいい!と憧れる反面、万年筆で書きこなせるか、飽きずに使い続けることができるのか、終始悩んでいました。当時は、kakunoがまだ1000円で売られており、手を出しやすい価格帯に後押しされて手に入れた万年筆。書き方に慣れず挫折しそうになりましたが、毎日毎日、雑記用にしたノートに文字を書き散らかしていたところ、ある時ふと、ゆっくり丁寧に書くことを心がければ、文字のトメ・はね・はらいが、とても美しく見えることに気が付きました。以前の私は、書きやすいボールペンを使い筆圧は強めで、だだくさに走り書きするので、文字の一部が崩れてしまったようなクセ字が身に付いていました。ペンで書く速度や角度と、万年筆で書く速度や角度は、同じにしてはならない。当たり前のことですが、ようやっと体で覚えた頃、万年筆での筆記に違和感が無くなり、万年筆で書いた自分の文字が大好きになりました。
 走り書きしなくなったことで自然と文字が整っていき、職場で封書の宛名書きが必要になったときに代筆をお願いされるレベルにまで到達しています。決して美文字ではないですが、文字面が整うだけで字の見た目ががアップグレードされることに驚きました。

 更に、予想外の副産物まで!万年筆にインクを入れる時、万年筆を洗浄する時。ちょっとした手間ひまをかけるひとときが、何よりの癒しと自己肯定感を高める時間になっています。

・1つの道具を大切に扱っていること。

・使い捨てに出来るペンはいくらでもあるのに、1本の万年筆にインクを何度も入れ替えて、書き続けることが出来ること。SDGs!

・ペン先を水に浸して洗浄するとき、ゆっくりとペン先からインクが溶け出てきて、水中で弧を描くように絶妙な形にほどけていく様子が美しいこと。

・それを眺める時間を楽しめている、自分。

 「面倒くさい!」と切り捨てられてしまいがちな手間が、なんと愛しい時間をもたらしてくれるのだろう!万年筆に恋に落ちた瞬間でした。

 万年筆で書くときの、インクのヌラヌラ感、ペン先と紙が接触する際の感触(紙質によっては、つるつるだったりザラついていたり)、筆記後にインクが乾くまでの間、文字がテラテラと光って見えるところが好きで、インクのゆらぎが文字の線の一部にわずかに出ていたりすると、手を止めて見惚れてしまうこともあります。
 ペンで書くような画一的な文字ではなく、その瞬間だけもたらされる、万年筆で書いた文字特有の「味」が出る。

 万年筆の魔力に引っ張られるように、文豪を気取って情感たっぷりの文章を書いてみたり、漫画家のように絵を描いてみたり、「書く」という行為自体が楽しいと思えるようになりました。
 こうして、初心者向け万年筆から3千円台の万年筆に買い替え、今ではペン先が金で出来ている万年筆も愛用しています。ペン先が硬い鋼材はカリカリ書けて、金はペン先が柔らかくしなるので、また違う書き味が楽しめる。新しい世界を知った私は、万年筆の沼のまだまだ浅瀬に足を突っ込んでいるだけですが、この浅瀬からズブズブと沼の奥底にいってしまうのだろうな、と先人の万年筆愛好家さん達が手がけるホームページやSNSで勉強させてもらいながら、沼の奥深さを予感しています。

【お気に入りの道具を、装備した!】
 自分で選び抜いて納得して手に入れた、お気に入りの道具を持つだけで、自身がバージョンアップされたような気持ちになれること。この、自己満足的な充足感が大事だと思うのです。人生を、とめどなく過ぎていく日常を少しだけ良いものに、楽しくするための、ほんの少しのエッセンス。
 ノートもペンも、企業努力のおかげで良い品質のものが100円でも買える時代。消費者を甘やかし過ぎているとも思える環境で、自分だけの厳しい要件を満たしたものだけを所有し、使用時の愉悦感。
 「この装備を携えて、いざ異世界へ飛び込まん!」
とばかりに、私は愛用品を鞄に詰めて旅支度を整えています。


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