第三章 バレバレな解禁!⑧
「オレらは、あのままだったら施設送りになってたけど……幸い、もう義務教育は終えてる。三人で、力を合わせて生きていこうって決めたんだ。少なくとも、大学進学するくらいの金もある。にゃんちが思っているようなやましい暮らしは、オレ達してないから。三人で支え合って生きてるんだ。オレらはもう家族も同然だから……ずっと、一緒に育ってきたんだ。オレと珀は男だから、千尋を守る義務がある。けど、それは家族としてだから。分かってあげられないかな……」
「そっか……辛い経験、してるんだな。それはよく分かったよ。けど、そんな辛い事こそ、オレには話してほしかったな。オレって、千尋にとってはそんなに頼りない男だったのかな」
「いや、学校中に口止めしてる事だし……千尋は、まだ中身は子どものままだから。あの時の事、思い出したくないんだと思う。千尋の中では、トラウマになってるから。千尋、傷ついてる。良かったらさ、うち来る?にゃんちなら、喜んで歓迎するよ。ただ、トップシークレットにはしておいてもらいたいんだけど。千尋、にゃんちに嫌われちゃったって、頭から布団被ったまま出てこないんだ……」
その後もしばらく話してから、電話を切った。
「千尋ー?にゃんちに話したよ。聞いてただろ?」
「……何だって?」
「オレが招待した」
「ここに来るって?!」
「千尋がショック受けて、布団から出てこないって言ってみた」
「……聞いてたわよ。枕投げつけようと思ったけど、間に合わなかったわね」
一時間後。
玄関のチャイムを鳴らす音が聞こえた。
やだ……。
にゃんちに、こんな姿見られたくなあい!
「よお」
「お邪魔します。へえ……ここに三人で?結構広いんだね」
「いや、広いのリビングとダイニングだけだけどね」
「……千尋は?」
「こっちが寝室」
ガラッ!
「千尋……?」
「ごめん……にゃんちに合わせる顔、ない。あたし、嘘ついてたんだもん。そりゃあ、理由がどうであれ怒るよね。ごめんなさい……」
「……顔、出してよ。何言ってるのか、よく聞こえないよ」
渋々、掛布団から頭をひょいっと出した。
「オレの方こそ、ごめんね。そんな辛い事があったなんて、何にも知らなくて……三人が、本当に家族のように支え合って暮らしている事は、よく分かったよ」
そこへ、何も知らない珀ちゃん帰宅。
「ただいま。あれ?いつから、知り合い連れてきても良くなったの?」
よっしいが、事情を最初から説明する。
「ああ、ヤキモチ?安心してよ。こいつがパンツ一枚でうろちょろしてても、オレら全く興奮しないから。女扱いしてないの。よく言えば、家族って事だけどな」
「ちょっと!あたしがいつパンツ一枚でうろちょろしてたのよ!キャミ着てたじゃない!」
「あんな透けるキャミー?」
「ねえ、もしかして、寝室って一つだけなの?」
あたし達の住むマンションは、いわゆる1LDKというヤツで……。
「あ、けど、珀の布団三つ分も間隔空けて、千尋の布団は敷いてあるし、オレは珀の向かいで寝てるし……」
「珀、遊び人だもん。オレ、やっぱそこまで信じられるほど、心広くない。それに。とてもじゃないけど、三人の絆の中に、オレは入っていけないよ」
「はあ?オレが遊び人って何の関係があるわけ?オレが千尋に手、出すとか思ってんの?絶対にないし!」
「ごめん……今は、考えられない。オレ、心狭いから……帰るよ」
「え、にゃんち!……もしかして、あたしと別れるの?!」
「……ごめん」
それだけ言って、にゃんちは部屋を出て行った。
「振られちゃった……」
「本当に心の狭いヤツだな!ここまで全部説明したのに、何が不満だっつうわけ?!」
「やっぱり……自分の彼女が他の男と住んでたら……いくら家族だからって言ったって、実際は血が繋がっていない以上、嫌なんじゃない?」
たった一ヶ月で、あたしとにゃんちの恋は、やけにあっさりと終わりを告げてしまったのだった。
あたしは、しばらく放心状態で……。
街へ繰り出してはっちゃけて遊びまくるか、寝室に引きこもりひたすら眠り続けて、何も考えないようにするのか……。
悩みに悩んでいるところだ。
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