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記憶の中のモーニング

小学生の夏休み、毎日と言っていい程
喫茶店に行って、モーニングを食べていた。

祖父母が農家だった為、いつも家に居て、10時前ぐらいになると祖母が呼びに来る。
「モーニングいく?」
何も予定がなければ喜んでついて行っていた。
なんなら、今日行かないの?って言いに行くこともしばしば。

おじいちゃんの運転する車に乗って、まず農協か無人販売の所に行って、今日の品を並べる。
十六ささげか、ナスか、トマトか、瓜か?
日によって品も変わる。たまに袋詰め手伝ってたなぁ。あと知り合いなのか分からないおばちゃんにお菓子もらったりもしてたな。

そんで、ようやく喫茶店。
どこに行くかはおじいちゃんの気分か、近さか、何時までやってるかとか。たまにおじいちゃんにどこがいい?って聞かれたりもする。
よく行く所にはおじいちゃんのコーヒー券があったけど、私が頼んでたのはだいたい券が使えないカルピスだった気がする。たまにアイスティーかな。
大人になった今、店名を覚えている店は無くて、暗号みたいな店の記憶。
『小学校の隣』
『おばさんが話しかけてくる折り鶴がある所』『おっきい所』
『うどんが出る所』
『サンドイッチが出る所』
『コナンが読める所』

母に聞くとあそこはもうやってないとか、それはあそこじゃない?と教えてくれた。意外と知っている。

私が好きなのはサンドイッチが出て、コナンが読める所。これが伝わらなくてぎゃん泣きしたことがあって店名を覚えた。

『亜里』

大人になった今、友達と行ってみることにした。

看板が見えた時、ここにあったんだ!思わず声が漏れた。もっと遠くにあった気もしていたから。

扉を開けて入店し、席に着いて、メニュー表を見ると350円の文字。
そういえば値段見た事なかったな。
あの頃と変わっているのかも分からないが、値上げはあまりしていなさそうな値段だった。

当時いつもおばあちゃんが頼んでいたレモンティーにした。

運ばれてきたモーニング


あの頃の私の記憶の中にあるモーニングが生きていた。サンドイッチと小鉢があって、茶碗蒸しが付いている。小鉢が透明なガラス容器なのもポイント。
名古屋のパンとゆで卵だけじゃなくて、こう、盛り盛りのなんでもありだなっていうモーニング。
昔はプリンとかヤクルトとかも付いていて持ち帰っていたあの感じ。

私がそう言っていると、友達が頭にはてなを沢山浮かべていた。
「え?こんなに付いてくるの?これが普通なの?」

数々の純喫茶を巡っている友達だったがこれはあまり見たことがなかったらしい。

私の食べ慣れたモーニングってかなり豪勢なものだったんだなって改めて知った。

味はあの頃のままで
目の前で新聞をめくって、ホット珈琲を飲むおじいちゃんと
隣で週刊女性をパラパラと見ながら砂糖たっぷりのレモンティーを飲むおばあちゃん。
こんなに鮮明に覚えているものなのかと驚くぐらいに蘇る記憶。
ドキリとするほどに止まったままの時間軸の喫茶店。

あぁ、消えないでほしい。

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私が入店する頃、偶然にもおじいちゃんも店に来ていた。
おばあちゃんが他界して1年。
杖をついて歩いて、静かに珈琲を飲みながら、新聞をめくる。まだここに居たおじいちゃん。
おじいちゃんの居場所があってよかった。


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