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石川龍樹&咲姫/いしかわ製茶

法人名/農園名:いしかわ製茶
農園所在地:愛知県豊田市
就農年数:20年
生産品目:農薬不使用オーガニック栽培の煎茶、抹茶、かぶせ茶と、茶葉を使ったふりかけ「食べるお茶」
HP:https://ishicha.boo-log.com/
SNS:ishikawa_tea_farm

no.214

農薬不使用のオーガニック茶葉で海外輸出に活路を見出す!欧米が注目

■プロフィール

 愛知県豊田市で祖父が開拓した茶園を守る茶農家の3代目。1970年代、2代目の父が農薬を一切使わない栽培を山間部で開始し、1995年には抹茶農家として日本で初めて民間のオーガニック認証を取得している。

 3代目の龍樹さんは、自動車産業が盛んな豊田市ということもあって、子供の頃から農業にコンプレックスを抱いて育つ。高校時代に、友人に誘われて始めたボクシングに夢中になり、愛知学院大学進学後にプロテストに合格。卒業後はプロボクサーとして練習とアルバイトを続ける日々を過ごしていたが、2003年に就農を決意する。

 同年には、スイスのオーガニック認証機関IMOによって欧州での有機認証を取得。2008年には、農薬不使用の有機栽培農法を地域に普及したことが評価され、内閣総理大臣賞を受賞。

 2010年には、米国の有機認証制度NOPを取得。2011年からいしかわ製茶のブログを開始し、妻のサポートにより、英文併記にも挑戦。

 2013年からは英ロンドンの茶葉専門店「Postcard Teas」との取引を開始。2018年に国の有機茶輸出プロモーションに参加し、積極的に渡航商談に臨むと次第に取引先や輸出量が拡大する。

 2020年には、ごく小規模な経営ながら輸出を成功させたことが高く評価されて「日本農業賞大賞」を受賞。

 2010年からは、豊田市の若手農家を集めた「夢農人(ゆめノート)とよた」を立ち上げ、「次世代の若者が農業に夢や誇りを持ち、子供が将来なりたい職業が“農家”と答える未来を目指そう」をスローガンに、食育活動や直売イベントなどに取り組んでいる。 

■農業を職業にした理由

 自動車産業が盛んな環境で生まれ育ったため、子供のころから実家が農家であることに強いコンプレックスを抱き、農家にはなりたくない」と感じながら育った。

 高校時代に始めたボクシングに夢中になり、大学在学中にプロテストに合格。就職せずにトレーニングとアルバイトに明け暮れる毎日を送っていた。

 何の気なしに実家の手伝いをしてみた24歳の頃、畑仕事から製茶、販売まで、自分がすべての工程に携わったお茶を飲んだお客さんから「美味しい」と喜んでもらったときに初めて、仕事の素晴らしさに気づき、就農を決意。

 父は有機農法が普及する以前の1970年代から、標高650mのしもやま高原で農薬を一切使わない栽培を続けていた。しかし日本茶の市場では、京都・宇治や静岡のブランドに太刀打ちできず、愛知・豊田産のお茶と売り込むだけで、小売業者や消費者が「排気ガスや油まみれのお茶なんじゃない?」と敬遠されることが何度もあった。

 そこで海外市場に活路を見出そうと、日本語・英語を表記したブログを開始。これを偶然見つけたのが、世界各地の小規模な農園から品質の良い茶葉の買い付けをしている英国人ティム・ドフェイ氏だった。

 彼が経営するロンドンの人気店「Postcard Teas」との取引開始を機に、自身でも欧米のカフェや食料品店に日本のオーガニックティーを売り込む活動を積極的に展開し、2013年当初は年間9kgだった直接取引輸出量が、2020年には800kgを超え、現在は生産量の8割以上を海外向けに輸出している。

 日本茶作りの名人と言われる父・母と妻の4人家族による小規模経営ながら、日本で最初に抹茶の有機JAS認証を取得して以来、欧米の有機認証も取得し、海外での日本茶の評価向上に結びつけた。

■農業の魅力とは

 小さい頃から手伝わされてきたのですが、農家の仕事は嫌で嫌で(笑)。でも姉と妹にはさまれた長男なので、どこかで「あととり」としての期待をされていたのだと思います。

 大学を卒業した後に実家の手伝いをしていた際、栽培から製茶まで初めて自分が携わったお茶を飲んでもらったお客さんから褒められたことは、すごく嬉しかったことを今でもよく覚えています。

 その頃までにはボクシングの世界で、上を目指すのは厳しいことを自覚していたので、なんとなく気が向いて、軽い気持ちでお茶の仕事に一歩踏み出したというのが本当のところ。

 父は「仕事は見て覚えろ」というタイプなので、師匠の背を見ながら仕事を覚えましたが、そうしたなかで、ウチで作るお茶はこんなに素晴らしいのに、どうしてお客さんにわかってもらえないんだろうと焦燥感を抱いたのが海外に目を向けるようになったきっかけです。

 日本茶といえば国内には有名な産地がありますから、自動車産業のお膝元である豊田で作っているというだけで正当な評価をいただけない悩みがあります。

 ただでさえ日本の若い世代の間では、急須やティーポットを持っておらず、自宅でお茶を淹れない人たちが増えています。そこで英語が堪能な妻・咲姫に手伝ってもらって、いしかわ製茶のお茶を紹介するブログを始めたところ、紅茶業界の権威であるティムさんの目に留まったわけです。

 自社で作るお茶の品質には自信がありましたが、僕自身は英語もできません。でも、この仕事を継ぐと決めて以来、日本茶インストラクターの資格を取ったり、茶道の勉強を始めました。着物を着て海外でお茶を点(た)てた経験もあります。

 僕らが輸出しているのは年間800kg程度で、大手商社に比べれば多くはありませんが、大手に卸したら他の農園の茶葉とブレンドされてしまいます。だから、最初から「いしかわ製茶」の名前で、海外で勝負するつもりでした。海外で正当な評価を受けて、日本に逆輸入されるのが僕の夢なのです。

■今後の展望

 輸出は好調ですが、国内向けの販売は、さまざまな要因で低迷しています。しかし、物流に伴って排出される二酸化炭素量などを考えると、やはり国内で買っていただくのが一番ですから、日本の消費者に振り向いてもらえるよう「食べるお茶」など、商品のラインナップを増やしています。

 これまで国内向けのパッケージは既製品を使う一方、海外輸出向けには元グラフィックデザイナーの妻・咲姫が手がけた和のテイストを全面に押し出したオシャレなデザインにしていましたが、今後は国内向けのパッケージデザインにも力を入れていきます。

 ここ数年間、海外にばかり気持ちが向いていたのですが、やはり日本の人たちにも、伝統的な日本茶の魅力、良質なお茶の価値を知ってもらいたいし、それが僕が考える持続可能な農業だと思っています。

 同時にお茶に限らず、同じ豊田市で農業経営している若手農家同士のグループ「夢農人」の活動にも力を入れています。

 彼らは、農業の未来を何とかしようと危機感を抱いて立ち上がった頼もしい仲間たちで、20代や30代の若手もいます。2023年現在、僕の子供は5歳と3歳ですが、次世代の若者が、胸を張って農家になりたいと答えてくれる未来を作るために、さまざまな企画に取り組んでいます。

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