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才木 祥子/まこっこ農園

法人名/農園名:まこっこ農園
農園所在地:山口県宇部市
就農年数:14年
生産品目:白ネギ、ミニトマト(赤・黄・オレンジ3色6品目)、キュウリ、ほうれん草、スナップエンドウ
SNS:https://www.facebook.com/Macocconouen/

no.137

新規就農者の二人を受け入れてくれた地域で農業ができる幸せを未来につなげたい

■プロフィール

 奈良女子大学生活環境学部の学生時代、農家レストランでのアルバイトがきっかけで農業に関心を持つようになる。卒業後、「農文協(農山漁村文化協会)」に入社し、営業職として全国各地のさまざまな農家に出会ったことで就農への意欲が高まる。

 同期入社の誠さん(画像左)と結婚後、2008年に退職。故郷の山口県宇部市に戻って、小野地区で茶とミニトマトの栽培を開始。

 就農から5年が経った2014年、自宅前の圃場を借り受けることができ、ハウス2棟を新設し3年かけて6棟に増設。これを契機に、この先も小野地区で農業を続ける決意を固めて、自宅を建設。

 2016年、宇部市と山陽小野田市の若手農家5軒が野菜を共同販売するグループ「情熱農家プロジェクト toppin」を立ち上げ、地元量販店内に、自分たちで直接出荷する常設コーナーを展開。一般的なスーパーには並ばない規格やカラフルな野菜が人気を呼び、消費者との交流の機会が増える。

 2022年には、地元小野小学校の児童を増やすために、学校や地域の魅力を伝えて若い世代に移住を働きかける「おのっこ未来応援隊」を立ち上げたり、日本茶インストラクターの資格を活かした市内の小学校への茶育活動など、地域活性化のためのさまざまな活動に力を入れている。

■農業を職業にした理由

 大学時代のアルバイト先で、ジャガイモの収穫を手伝ったときに、土の中の温かさに感動して、農業に関心を持つようになる。

 卒業後は農業系出版社に就職して、同期入社の誠さん(のちに結婚)と同じチームで全国の農家を訪問して本を手売りしながら、自分たちに合ったスタイルの農業を模索。

 27歳になった2009年、故郷・山口県宇部市で就農しようと、夫に続いて退職し、特産の「山口茶」の栽培を開始。茶畑やトラクター、ビニールハウスなどは借りて初期投資を抑え、自分たちで用意したのは軽トラと管理機くらいからのスタートだった。

 2人とも知識はあるものの、実作業は未経験だったため、わからないことがあれば、すぐにベテラン農家に尋ねたり、夫の母校・東京農業大学の知人に相談しながら独学で技術を習得。

 山口県の農業従事者の平均年齢は72歳と全国平均よりも高いうえ、山々に囲まれた中山間地域での就農ということもあって、当初は「若い人が農業を始めるなんて」と好奇の目で見られていた。しかし、周囲の人たちはとても好意的で、就農年数を重ねるうちに規模拡大を相談すると、好条件の農地を貸してくれるようになった。

 地元量販店から野菜の出荷を打診されたのがきっかけで、2016年には近隣の若手農家5戸7人で共同出荷グループ「情熱農家プロジェクトtoppin」を結成。全員が子育て世代で、異業種から新規就農したという共通点を持ち、販売力を強化したいという課題を抱えていた。

 カラフルなミニトマトや緑の葉先まで美味しく食べられる白ネギ、珍しい西洋野菜など一般的なスーパーには並ばないような野菜を、自分たち専用の常設コーナーで年間約40品販売したり、美味しい食べ方のレシピの提供や、買い物が楽しくなる売り場づくりなどにも力を入れている。

■農業の魅力とは

 小野地区はお茶どころとして長い歴史がある地域ですが、中山間地域への移住・就農と聞いて、一般的にイメージされるような閉鎖性はありません。

 移住した当初は「若い人が農業したいなんて」「すぐに辞めて都会に帰ってしまうんじゃないの?」と思われていましたが、一方で、若い人が入ってきてくれて嬉しいと歓迎されました。

 残念ながら茶の栽培は経営上の問題から断念しましたが、それでも魅力は伝えていきたいと、日本茶インストラクターの資格をとって、茶育活動を続けています。

 お茶の栽培をやめた後、年間を通じて収益を上げるために白ネギ畑を広げようと、地域の方に相談した時も、好条件の土地を紹介していただけました。

 地域社会から本当に認められたと実感したのは、34歳で家を建てたことも大きいと思います。

 「一生ここで頑張っていくんだね」と周囲の人からの信用に結びつきましたし、「これからの人に土地を託さないと、この地域は続かないから」と、先祖代々大切にされてきた土地を貸してくださいました。

 その期待に応えるためにも、この地域で農業ができる幸せを未来につなげていきたいと、農業経営と同じように、地域活性化の活動にも力を入れています。

 農業は、自らの手で人が喜ぶものを作り出せるという意味で、幸せを五感で感じられる職業だと思います。これまでは、新規就農者である私たちを受け入れてくださった周りの人のおかげで農業ができましたが、中山間地域では水路や農地を管理する人がいなくなってしまったら、農業そのものを続けることができなくなります。

 この場所で農業できる幸せを、次世代の未来につなげるためにも、人が不可欠です。

 私たち夫婦は、私が販売など人と関わる仕事をし、夫が栽培など農産物を作る仕事と役割分担しています。私たちの農業はまだまだ伸び代があります。畑の規模からすると、収穫量は現状の1.5倍に引き上げられると思っています。そのための効率化や経営改善にも着手しています。

■今後の展望

 生産量の増加に伴ってパートの雇用も増えたことで、雇用や会計、販売管理などの作業が増えました。3人の子育てや地域活動もあるので、自分の時間がなくなって、心身ともに疲労困憊でした。

 そんなときに、県農林水産政策課のサポートにより、農業コンサルタントの佐川友彦さんに経営改善の指導を受ける機会に恵まれました。佐川さんが農家の経営改善について書かれた『東大卒、農家の右腕になる。』は夫婦で読んでおりましたが、農業は第三者に見てもらう機会がほとんどないので、客観的に経営課題を整理していただいたのはとても良い機会でした。

 具体的に何をやったかというと、整理収納アドバイザーに依頼して、作業場の整理整頓を進めたり、長年自己流でやっていた会計管理を、税理士と顧問契約して確定申告を外注することにしたほか、就業規則を設けたり、作業マニュアルなどを導入するなど、さまざまな改善を実施しました。

 その結果、作業が効率化して時間的余裕も生まれたことで、ストレスも軽減されましたし、夫と二人で農園の外郭がはっきり見えるようになりました。

 例えば、毎日の出荷量を記録することで、情報の可視化と共有ができるようになったので、作物ごとに評価できるようになりましたし、現在の生産規模から見て、どれくらい伸び代があるかを検討できるようになったのは大きな成果です。

 2023年は、さらに経営改善を進めるとともに、中長期的には法人化を見据えて雇用体制の整備や環境整備、資金運用などに注力したいと考えています。

 栽培面においても肥料会社からの技術指導を受けています。きっかけは、6万本分の白ネギが軟腐病で3割しか残らなかった痛い経験です。それまでは自己流に頼っていた部分もありますが、あの失敗以降、しっかり栽培して、しっかり売り切ることで、確実に利益を残す農業を目標にしています。

 地域農業を維持するには、生産者を増やす必要がありますし、私たちも次世代に繋がる農業経営体になりたいと思っています。

 また農業以外の事業にも興味を持っていて、今はシロアリの駆除にも挑戦したいと考えています(笑)。小野は山に囲まれているし、たいていどの家も5年に1度はシロアリ対策をする必要があるので、地域に必要とされる事業展開をしていきたいと思っているのです。

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