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2024年7月の記事一覧
【400字小説】デュワデュワ
目覚まし時計が鳴り止まない。仕事は7時から。500食の弁当が待っている。降り積もる雪にハマってしまった軽自動車のように、脱出困難。スマホのアラームが追い打ちをかける。起きないわけにはいかない。もう6時半を過ぎているじゃないか。
モッサリとふとんを抜け出て、勢いを出して洗顔、歯磨き。ヨーグルトも食べている暇がない。救いはハゲているからヘアスタイルをキメる必要がないこと。玄関の鍵を閉めて、チャリにま
【400字小説】別れの曲が、聞こえている。
雨の日に猫が逃げた。わたしはグレープフルーツ食べてた。網戸の隙間から脱走したおしりを認めて、追いかけようと立ち上がったついでに、グレープフルーツを落とした。白砂糖が散らばる。でも、それどころじゃなくて、猫の名前を叫んだ。路地を小学生の集団が傘差して歩いていた。わたしの絶叫を聞いて笑っていた。必死な姿って笑えるんだろうな。テレビはNHKの地方ニュースが終わったばかり。笑福亭鶴瓶が散歩する映像の音が部
もっとみる【400字小説】boy meets boy of boy
あの夏だけ交錯。
若里公園の芝生が青かった。子どもらがボールを追いかけていた。コンサートホールのガラス張りの壁に向かって踊る若者たちがいた。太極拳をする集団は怪しさはなく、爽やかなくらい。コーラがベンチの下で倒れていた。シュワシュワしてたからまだこぼしたて。きみのTシャツに脇汗。パープルカラーの半ズボン。
顎に少しだけ髭を生やしているから、からかったんだ。すると怒るどころか嬉しそうに笑っていた
【400字小説】ミステリー・ラブ・ファンタスティック
鬱になって3ヶ月、家を出ていない。毎晩あの人が夢に出てくる。結婚したかった、あの人と。職場の同僚だった、でも、結婚して退職するんだ。ついでにオメデタだそうで。
それを小耳に挟んでから出社していない。今夜はあの人の送別会だった。その模様の写真が同僚から送られて来て、あの人が花束を抱いて、顔が涙で化粧崩れしているのに、泣き笑っているのが、美しかった。別れは一人一人にハグしてサヨナラしたそう。だったら
【400字小説】超*サマーヌード
明るいのに堂々と下着姿になったあなたは強かった。「早く脱ぎなよ」と急かされて、いもっぽかったな、おれ。さすが3コ年上は違うなって、制服を脱いだんだ。
「チラチラ見てたでしょう」と愛撫している最中に言われた。バイト先の先輩、それが彼女。忙しいってのに、にこにこ接客するその姿に惚れていたんだ。でも、おれにだけ見せてほしい、笑顔。「誰にでもやさしんスね」と胸を掴んでいた手を休めた。「手を動かせ」ってお
【400字小説】生クリームの湖にダイブ
あなたと抱き合うのは体がベッタベタになるから好まない。裸になればあの3万円の腕時計を思いきって買えるはず。30万円のサングラスしてるあなたの気が知れない。お金持ちなのは正直魅力だけれど、言い寄られるこっちの身にもなってほしいな、拒否感。
ユーガッタマネーで構わない、アイガッタソウルしたい。わたしは幸せにはならない。お金とかセックスとか二の次で、わたしは絵を描き続けるの。《楽しいから描く》がわたし
【400字小説】きみがわるい
貴美は顔面蒼白で「あなたは気が狂ってる」って震えながら言うから、わたしは傷つかなかった。飲めないジャック・ダニエルを気取ってさ、痛々しい。
「あなたの書いているのは小説じゃない」って突き放されたこともあったっけ。あの時は怒鳴ってしまったけれど、今になると大バカだったなって反省してるよ。頭に血が上ったことにじゃなくて、貴美のセリフは貴美の主観だから、わたしの主観とは何も関係ないってこと。わたしはわ
【400字小説】地球じゃない
あの世界の終わりはあなたと迎える。もう終焉に向かっている! もしかして、もうエンドロール? あなたと惑星の果てまで逃げよう。
音楽だけが世界を救うんだって信じていた。ギターを鳴らしながら眠ってしまった。気がついたらギターを抱き締めて寝ていた。浮気! あなたは知らん顔?
プルーデンス・ファローに会えたのは夢の中で。そこから戻ってきても戦争は終わっていなかった。ジョン・レノンがいたらって嘆く。ボブ
【400字小説】精神科病棟に入院したきみ
好きだったよ、繊細なきみが。だから、わたしは入院したって聞いた直後に、駆け足で見舞いに行った。「やあ」でも「こんにちは」でもなく、「ダウンしちゃった」と第一声に、きみが笑った。弱々しくて泣いてしまった。「どうしたの?」って、頭をよしよししてくれたきみ、逆じゃん。
面会所の窓ガラスの越しに見える中庭が爽やかで、様々な人が笑い合っていた。ほがらかに活気があって、でも全員病んでいるんだなって偏見のある