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本を開いて、自由な世界へ。 #小暑「しゃばけ」

こんにちは。広報室の下滝です。
日増しに冷房がないと耐えられない日が多くなり、とはいえ強い冷気には身体も冷えてしまうので、設定温度は高めにすると今度は暑い…というジレンマに苦しむ今日この頃。

気晴らしにテレビでも…とスイッチを入れると、夏の風物詩、怪談話の特集が組まれる季節ですね…。よく足を運ぶ書店でも「書店員が選んだ怖い本」など、特集コーナーが設置されていました。

暑さを忘れたり涼しくなるのはいいけど、ゾッとする怖い話はちょっと…という方に、今回は暑い夏でも夢中で読めてしまう、可愛い妖怪や付喪神(つくもがみ)が出てくる小説「しゃばけ」をご紹介します。

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夏にぴったりな日本のファンタジー

舞台は江戸。主人公は、商船を対象として運送の取次や取扱の役目をしていた「廻船問屋(かいせんどんや)」の大事なひとり息子「一太郎」。

お金持ちの若だんなといった羨ましい役どころですが、あいにく彼はとても身体が弱く、何かある度に寝込んでしまってなかなか外出もままなりません。本人もそのことに強いコンプレックスを抱いています。

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そんな一太郎ですが、物心ついた時からなぜか他の人には見ることのできない妖怪たちに囲まれて暮らしています。中でも身近なのが、人に化けていつもそばにいてくれる二人組。

一人は犬神(いぬがみ)という妖怪で、人に化けてもごつくて背が高く、力自慢の「佐助」。そしてもう一人は、切れ長の目をした色男で、白沢(はくたく)という妖怪の「仁吉(にきち)」。
二人とは幼い頃から一緒に過ごしてきたため、一太郎にとっては兄のようでもあり、すぐに寝込む彼の世話を焼いてくれる、頼もしい付き人のような存在です。

そして、部屋に現れるのはきゅわきゅわと鳴く手乗りサイズの妖怪たち。
家のきしむ音を立てる原因ともいわれる「家鳴り」。
その他にも人に長く使われるうちに妖力を宿し、付喪神といわれる存在になった屏風の「屏風のぞき」など様々な妖怪が顔を出します。

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物語は、一太郎が夜分にこっそり家を抜け出して外出し、偶然人殺しに出くわしてしまったことからはじまります。

顔は見られなかったものの、その後も続く殺人事件に、当時の警察のような存在「岡っ引き」の「日限(ひぎり)の親分」から話を聞きだした一太郎は、独自の推理をしながら巻き込まれていきます。

すると、犯人にはある意外な狙いがあったことが明らかになり…

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次々に事件に巻き込まれていく人々と、明らかになっていく一太郎と妖怪との隠された関係など。
身体は寝込んでいても、一太郎が妖怪に調査を依頼して推理力を働かせ、謎を解いていく様子はファンタジーでありながらちょっぴり怖くもあり、推理物としても楽しめます。

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多彩なキャラクターの個性を楽しんで

愉快な妖怪たちの他にも、知らず知らずのうちに事件の情報を提供してしまう、推理の下手な岡っ引きの「日限の親分」。
一太郎の幼なじみで、和菓子屋の跡継ぎなのに菓子作りがものすごく下手な「栄吉(えいきち)」。
雪でできた花に例えられていたほど美しく、頑固で勘が鋭い一太郎の母「おたえ」など。
登場人物たちの持ち味も豊かで可愛らしく、面白く物語を盛り立ててくれます。

特に栄吉の餡作りの失敗話などは本当に可哀想なのですが、その一方で、読んでいるうちに和菓子を食べたくなってしまってあなどれません。

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時代をこえた想像に触れて「本の旅」をしませんか?

こうしてご紹介してきましたが、「江戸時代の設定かぁ、難しそう」「専門用語がたくさん出てきて読みにくいんじゃないかな?」と不安になったり、最初から時代物は読む候補から外す…といった方もいらっしゃるかもしれません。

もちろん本は自由に選べるものですので、お好みに合わせて探すのが一番です。
ですが、江戸時代には今の私たちの生活のもとになった文化が広がっていて、その中で、各々の悩みを抱えながら生活する登場人物たちを見ていると、不思議と彼らがすごく身近に感じられてきます。

そして、一太郎の部屋や、江戸の町並みの中に入り込んで一緒に世界を眺めているような気分にさせてくれるのは、本が与えてくれる一番の楽しみではないかなと思うのです。

時代を遡ったり、別の世界を見るという不可能な経験を、想像上で可能にしてくれるなんて、あらためて考えるとすごいことではないでしょうか。

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人気のしゃばけシリーズは、現在では15作品が出版されています。
どれもとても読みやすく、本作と同様に主人公の一太郎やお馴染みの妖怪たちが顔を覗かせます。場面を上手く利用して会話や回想で物語をつくっていく、アニメのような親しみやすさを感じさせてくれる作品たち。

今までは時代物や、妖怪が出てくる本なんて読んだことなかった、という方にこそオススメです。
江戸の、まだ妖怪と人間が共存していたような時代の雰囲気を感じさせてくれる物語。よろしければ、自分の世界を広げるきっかけにと思って、ページをめくってみてください。
もちろんこの作品に限らず、自分の世界を広げる本の旅には表紙という名のドアを開くと、いつでも気軽に出かけられます。

どうかこれから皆さんの開く本の扉が、この作品に登場する活き活きとしたキャラクターたちのように、楽しくてわくわくする気持ちをたくさん連れてきてくれますように。

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-今回のここに注目!-
「妖が返した情味のあるいらえは、夜の中未練げにとけていった。」
楽しく可愛い印象が強い本作ですが、その文章の中に時折見える表現が独特で美しいのも見どころのひとつです。

存在しない妖怪を描くからこそ、その特徴や様子の描き方は工夫が凝らされていますが、こんな形容詞を使うんだ、こんな状況かな、などと想像を膨らませて、優しい日本のファンタジーを隅々まで楽しんでみてください。

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■しゃばけ

著者: 畠中 恵
出版社:新潮社
定価:本体590円(税別)
文庫本:342ページ
ISBN:9784101461212

■なついろブックカバー 小暑

サイズ:152×385mm
130×32mm(しおり)
枚数:各1枚
素材:紙

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