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SNSの「世論」で政治は動きますか?|西田亮介さんが教える民主主義とメディアの授業

2022年3月25日、日本実業出版社から西田亮介著ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』が刊行されます。

5916誰が国を動かして


「テレビやネットを見ていると、なんとなく日本の政治はダメな気がする」

現代の日本を生きていると、少なからずこう感じる瞬間があるのではないでしょうか? 特に若い世代の人たちは、幼い頃から「不景気」や「年金がもらえないかもしれない」と言われ続け、何となく政治に対して不安や不信感を抱いているかもしれません。

しかし、日常のなかで生活と政治のつながりはほとんど見えてきません。テレビやネットで流れる政策の話も難しく、そもそも信頼していい情報かもわからない。それなのに、選挙のときだけ「選挙に行くべきだ」と偉そうなコメンテーターにお説教されてどうも腹落ちしない……。

そんなモヤモヤを抱えた人たちに向けて、社会学者の西田亮介さんが政治と生活のつながりをわかりやすく解説した一冊ができました。「誰が、どのように、国を動かしているのだろう?」という問いを軸に、選挙、民主主義、メディアなどの本質を読み解いていきます。

本連載では特別に本の中身を少しずつ公開していきます。第1回は「SNSの世論と政治のつながり」について。

※本稿は、『17歳からの民主主義とメディアの授業 ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』の一部を抜粋し、再編集しています

それは本当にTwitterの力だったのか?

インターネットの普及率が高くなって明らかにメディアの中心がネットになってきています。それはたぶん不可逆なトレンドでしょう。もう勝敗はついていて、マクロではあらがっても仕方ないレベルです。ただしTwitterやネットで政治が動くべきかどうかということに関して言うなら、そうも言えません。

ピエール・ブルデューという有名な社会学者が「世論なんてない」という短いエッセイを書いていますが「世論」はつねに計測者が計測したいように計測される、いま風に言えば可視化される懸念があるからです。

民意と政治が直結する、リーダーを直接選挙で選ぶような政治のあり方を「直接民主制」と言います。たとえば大統領制や首相公選制はその代表例です。直接民主制は考えてみればある種、多くの人たちが納得しやすいような言説を中心とするポピュリスティックな政治になりがちでもあり、注意が必要です。なので、必ずブレーキとなる仕組みがセットになっています。

しかし、ネットがメディアの中心になってくるにつれて、そのネットの「かっこつき世論」に耳を傾けるような政治家や政党が増えてきています。ぼくはネットや情報番組の論調など、統計的な裏づけがあるわけではない一方で、なんとなく世の中の代表的意見のように見える「声」に耳を傾けるフリをしながら、その実、自分たちの政治的影響力を確保するような政治のことを「耳を傾け過ぎる政治」などと呼んで、論じてきました(『コロナ危機の社会学』など)。

「保育園落ちた日本死ね」ブログも、山尾志桜里(姓は当時)さんが国会で取り上げて保育環境の変更、改革をやるようなトレンドができたこと自体はよかったと思います。しかし、そもそも少子化も、保育環境拡充の必要性もずいぶん昔から指摘されてきたのに、匿名ブログがきっかけで改革が前に進むとかおかしいですよね。理性的と言えるでしょうか。

選挙活動とSNS

他にも枚挙にいとまがありません。#ハッシュタグを使った異議申し立て運動もそうですし、山本太郎さんとか、いまは政治活動からは撤退したようですが三宅洋平さんなど、2010年代前半頃から、日本でもネットメディアをうまく使う人たちが登場します。三宅さんは一時期山本さんを応援していましたね。その後2013年に公職選挙法という法律が改正されてインターネット選挙運動が認められるようになりました。つまり、2013年以前は、選挙期間であっても、立候補者や政党が「この人に投票してください」とメールしたりすることは禁止されていました。

でもその後、ブログやTwitterが出てきましたが、そもそも日本では原則として、直接投票を呼びかける「選挙運動」は禁止されていて、例外的に選挙運動期間にのみ選挙運動が認められています。政党や立候補者がSNSで直接投票を呼びかけることも禁止されています。つまり、投票を呼びかけたりする日本のネット選挙運動はかなり狭く運用されています。

その一方で、一般的な政治活動や表現、意見表明といった政治活動の自由は広く認められています。そのため、形式的には選挙とは関係のない政治家個人の政治活動として、でも実質には選挙でも参照されているかもしれない発信が増えました。このあたりはネット中心の時代を見据えた再整理が必要にも思えますが、いまのところ兆しはあまり見えません。

SNSで政治の窓をひらく

ネット利用が認められてから、政治家にもいろんな動きが出てきています。たとえば橋下徹さんなんかは大阪府知事、大阪市長時代にTwitterを使って影響力を持つようになり、最近でも自民党の河野太郎さんは多くのフォロワーがいて受け答えが人気を集めたり、一般人をブロックしたりして物議を醸しました。

それからコロナ禍でも、芸能人の人たちがハッシュタグを使った反対運動に参加したりして話題になりましたね。安倍政権下での2020年の夏ごろの検察庁法改正反対問題では、「ネットが政治を変えた」なんて言われました。ただどれも本当にTwitterが政治を変えたのかということに関しては、丁寧に検証する必要があります。

すでに言及した「保育園落ちた日本死ね」ブログにしても単にブログを書いたということで政治が動いたわけではなくて、それを山尾さんという、少し語弊がありますが、注目されていた女性国会議員が国会の場で取り上げたことも無関係ではなかったでしょう。「ネット発」をマスコミが関心を持って取り上げ、それがまた権威性を付与されネットでも話題になる。その繰り返しです。

検察庁法改正の問題にしてもそうですね。女性の笛美さんという方が最初にはじめて、大きなうねりとなり、それまであまり政治的発言をしなかった多くの芸能人がそれに賛同して、小泉今日子さんなど有名芸能人も賛同して、マスメディアも関心を示すという流れです。さらに菅政権の政治日程がかなり厳しくなってきた中で、検察庁法改正もそうだし、実はそれだけじゃなくて放送法の改正とか、本当はNHKの料金を引き下げるための勘定費目創設などのいろいろな議論があったのですが、それらは流れて翌年に持ち越しとなりました。本当に国民益に沿うものだったのでしょうか。

いろんなものが重なって機会の窓が開いたというふうに考えるといいんじゃないかと思います。耳目をひく出来事も、本当にTwitterで政治が動いたのかということのみならず、ネットの流れに身をまかせず、一呼吸置いて考えるべきです。


文喫六本木にてイベント開催

西田さんに答えてほしい政治とメディアの「素朴な疑問」募集中!
『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』発売記念+先行販売イベント
日時:3月24日19:00~
場所:「文喫六本木」会場参加+オンライン参加
イベント詳細はこちら

「ぶっちゃけ国は誰が動かしているの?」「日本の政治は大丈夫?」
政治とメディアが専門の社会学者・西田亮介先生が、そんな素朴な疑問に真剣に答えます。どんなことでも構いません、お気軽にお送りください!

質問の送り先:日本実業出版社のTwitter(DM)
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文喫六本木イベントで西田先生に答えてほしい質問です
質問事項:

↑ コピペしてお使いください。
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もちろんイベント参加・視聴のみも大歓迎です!
たくさんの方のご参加をお待ちしております。

※今回のイベント売上金の一部を戦争被害・難民・戦争孤児・医療に対する、 支援活動を行っている団体に寄付致します。

著者紹介

西田亮介(にしだ・りょうすけ)
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。専門は社会学。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。著書に『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』(朝日新聞出版)、『不寛容の本質 なぜ若者を理解できないのか、なぜ年長者を許せないのか』(経済界)、『メディアと自民党』(角川新書、2016年度社会情報学会優秀文献賞)、など多数。


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