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読書ノート④ 6月上旬に読んだ本

就活の合間に読んだ本シリーズの4つ目だ。今回も何冊かまとめて紹介していく。

1.ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ

日本語で社会関係資本と訳される、人と人とのつながりに関する概念を説明した本だ。かなり骨太な概念で、私は修論にこの概念の視点を取り入れたいと言ったら指導教官に「最低でも数ヵ月は勉強に費やさないといけない」と窘められた(結局断念したが、まだ少し迷っている)。 

社会関係資本とは、本書では「心の外部性を伴った信頼・規範・ネットワーク」と定義されている。「わかりやすく言えば、人々が他人に対して抱く『信頼』、それに『情けは人の為ならず』『お互い様』『持ちつ持たれつ』といった言葉に象徴される『互酬性の規範』、人や組織の間の『ネットワーク(絆)』」である。

社会関係資本は、企業を中心とした経済活動、地域社会、福祉・健康、教育といったいくつかの分野で議論されてきた。各分野における理論を概論的に整理してあり、わかりやすかった。著者の研究に関する章もあり興味深い。2011年の出版と言うだけあって、引用されている論文やデータはどれも少し古いけれど、入門としては十分だろう。
巻末に、学びを深めたい人向けの文献リストがあるのも親切だ。

2.またの名をグレイス

1800年代のカナダで実際に起こった事件を題材にした物語だ。主人公のグレイスは自らが勤めていた屋敷の女中頭と主人の殺人に加担した罪で逮捕されたが、本当に彼女が加担していたのか怪しい部分がある。真相を探るため、精神科医のサイモンがグレイスと面談を繰り返していく。

文体はグレイスによる事件当時の回想と、第三者視点からのサイモンの描写が交互に行われていくスタイルで物語が進んでいく。グレイスの語りは口語体で、丁寧だが賢いとは言えない語り口だ。話が核心に近づいたかと思えば離れ、洗いざらい喋るかと思えば隠され、ページを捲る手が止まらなくなった。「それは本当なの?」、「それはなんなの?」とグレイスの語りに翻弄されてしまう。

グレイスは、ある人から見れば無理やり巻き込まれた被害者に見える。またある人から見れば加害者を唆した悪質な人間に見える。
置かれた状況によって人の見え方が変わる現象は私にも覚えがあり、思い出してぞくぞくした。

余談だが、私はトロントに行ったことがある。オンタリオ湖の描写や当時の生活様式の描写も興味深かった。カナダって、高校でやるような世界史にはあまり登場しない。19世紀北米の歴史や社会について知識があれば、もっと面白く読めたかもしれない。

3.これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

家にある「買ったけど読んでない本」を解消しようと思い立ち手に取った。随分前に流行った本だ。アリストテレス、ロック、カント、ベンサム、ミル、ロールズといった哲学者の思想を紹介しながら、「正義とは、平等とは何か?」について議論を展開していく。

志願兵制、代理出産、アファーマティブ・アクション、同性婚など、アメリカで議論が活発であろうトピックがたくさん登場する。この本についてはいろいろと考えることがあったので、あとでまたnoteにまとめようと思う。

4.月と六ペンス

作家である語り手と、芸術に取りつかれた画家の物語だ。語り手と画家のストリックランドはロンドンで出会い、腐れ縁のような関係性を築いていく。

ストリックランドはロンドンで仕事や家庭に恵まれ、しあわせに見える生活をしていた。しかし、ある時「絵を描くため」、妻の元を飛び出してパリに行ってしまう。ストリックランドは「描かなければならない」という妄執とも言える情熱に憑りつかれ、貧しい暮らしをしながらひたすらに絵を描き続ける。語り手とストリックランドの共通の友人夫妻を巻き込みながら、物語は進んでいく。

いくつか痺れるフレーズがあったので引用しておく。

作家の喜びは、書くという行為そのものにあり、(中略)ほかには、なにも期待してはいけない。(pp.15)
義憤には必ず自己満足がふくまれていて、ユーモアのセンスがある人間ならだれでもきまり悪さを感じるものだ。(pp.199)
作家は断罪しようなどとは思わない。ただ知りたいと思う。(pp.241)

小気味よい文体に乗って読み進めていくと、ああ、聞いたことはあったけれど、やはり芸術とは恐ろしいものなんだなと思わされる。1人の人生だけでなく、そこに関わる人々の人生もまた狂わせる。

私はストリックランドに、これまでに出会ってきた研究者たちを重ねてしまう。新たな知を創造することに夢中になり、それ以外の様々なものが欠落している(ように見える)人たち。

ストリックランドにはまるで常識が通用しない。芸術以外には冷淡とも言える無頓着さを発揮する。研究者の中にも、いや、研究者なら誰しも、人間の心が搭載されていないのではと思わせる一面がある。0から1を創り出す行為は、そうでないと続けられないのだろう。

長くなったので明日に続ける。

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