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読書紹介 そういえば読んだことない 編Part2 『フランケンシュタイン』

 どうも、こぞるです。
 今回ご紹介するのは、なぜか創元推理文庫から出版されている、メアリ・シェリー作、森下弓子訳の『フランケンシュタイン』です。本作の名前を耳にしたことがない人はいないのではないでしょうか。

-作品内容-
11月も雨のわびしい夜、消えかかる蝋燭の薄明かりの下でそれは誕生した。解剖室などから各器官を寄せ集め、つぎはぎされた身体。血管や筋のひとつひとつが透けて見える黄色い皮膚。そして、茶色くうるんだ目。若き天才科学者フランケンシュタインが生命の真理を窮めて創りあげたもの、それがこの見るもおぞましい怪物だったとは! 無生物に生を与える実験の、しかしあまりに醜悪な結果に、彼はこの生き物を見捨てて逃げ去るのだが……。いくたの映画やドラマ、小説等を通じ、あまりに有名な不朽の名作。


 ちなみに、このフランケンシュタインは原文初版発行がなんと、1818年だそうです。約200年前!日本は江戸時代!この本の中では、科学が動き、電気が扱われ、船で北極を目指していると言うのに!と思いきや、日本も日本で、同時期に南総里見八犬伝とか書いてました。むしろ、ヨーロッパではロマン文学!ゴシップ文学!とかって時期にバリバリの娯楽小説が流行ってるの、日本っぽくていいですね。


 さて、なぜか毎度最初に脱線してしまいますが、みなさんはこの記事の最上部にある見出し画像のキャラクターの名前はご存知ですか?
 私が思うに、おそらく、フランケンシュタインと答える人と、いやフランケンんシュタインってのはこいつを作った博士の名前で、こいつは名前のない怪物なんだよと言う人に分かれるでしょう。・・・正解は後者です。上にヒントがありますね。
 もしかすると、昨今は情報社会の真っ只中となって久しい時代ですから、むしろ、正解を知っている人の方が多いのかもしれませんね。 
 では、ここでさらに問いたいのは、その正解を知っているのって、どうしてでしょうかということです。 クイズ番組で聞いたとか、ドラマのインテリキャラがうんちく語ってたとか、友達に同じ問題を出されたことがあるなどなど、理由は様々でしょうが、それっていうのは、ほとんどの場合、人から得た知識であり、自分で確かめたことはないのではないでしょうか。つまり、そこまでは知っていても、じゃあフランケンシュタイン博士って、どんな人で、愚鈍で凶悪な怪物はどんな風におそろしくって、物語のあらすじはどうなってるの?ってことはほとんどの方が知らないでしょう(あとがきの解説にも、欧米圏の方でもほとんど読んでないとありました)。 
 人が早急を”そうきゅう”と読んだり、的を得るなんて発言をするたびに、(ははーん、おやおや)という感想が頭を過ぎる性格の悪い私も、そんな知ったかフランケンの1人でした。しかし、こういうテーマでノートを書き始めたわけだし、さらには貰い物のこの本が積み上げられているし、というチャンスを掴んで、自分の知識を増やす旅へと出かけることにし、今非常に有意義な読後感に満たされています。 この物語の主人公の1人である、フランケンシュタインさんも、同じように知識を求めた旅をはじめるのですが、その果ては決して幸せなものではありませんでした。

 まず、そもそもフランケンシュタイン博士と前述しましたが、原作では 白髪交えたマッドサイエンティストな博士ではなく、科学の情熱に燃えた天才大学生です。 そして、怪物は知恵がなく目についた人を次々と殺戮する凶暴な化け物ではなく、過剰なほどの知性と感情(愛や優しさも)と凶暴にもなりうる身体性という二面性を合わせ持つ、悲しい存在として描かれています。
 私としては、この2人の設定だけで衝撃的でした。え!思ってたんとぜんぜんちゃう!ってなりました。なんだったら、フランケンシュタイン博士地怪物はどちらも悪役で主人公を襲うものかと・・・。 加えてその物語も、なぜかわかりませんが、孤島のようなところに建っている館の中で、ある嵐の日にどこからともなく現れた怪物に次々と襲われていく、どこかで見たことある感じのホラーかと思っていました・・・。なんの記憶だろうか・・・。

 物語の構成としては、3人の主人公が語り部として入れ替わり進みます。 まずは、北極を目指す冒険家のウォルトンさんが姉に手紙を書いているところから始まります。それから、その手紙の中に登場するフランケンシュタインさんの回顧録へと移り、合間に知性を得た怪物の回想が入り、また反転して最後にはウォルトンさんの元へと話が帰ってきます。
 この3人は全員がまったく違う背景を持ちながらも、同じ二面性を持った人物として描かれているように思います。そして、それはほとんどの人間が持つ二面性でもあるため、読者はウォルトンさんを通して、相反する2人の自分がだした悲劇を見た上で、その結果に対する自分の考えをまとめる時間を与えられます。

 内容にはできるだけ触れないというルールでやっているので、そこは割愛しますが、この物語は多くのテーマをはらんでいます。それについて少し書きますと、その中の一つは、人が人を作り出していいのか?という倫理的な問題です。これは、当時科学技術が急速に発展していたキリスト教圏だからこそ、いち早くこれだけの作品として生み出せたのでしょうが、AIや人型ロボットが現実味を帯びている21世紀においても、フランケンシュタイン的問題として上り続けるでしょう。最古のSF作品にあげられることもあるこの作品を楽しむ視点の1つだと言えるでしょう。
 それから、もう一つの大きなテーマは前述している二面性でしょう。ぞれは善と悪といった人の根本的な部分から、行動や感情までにも描かれています。こういったテーマを200年前に・・・と考えると、人類の精神的な変わらなさに驚くとともに、だというのにも関わらず、世界では毎年おもしろい小説や映画、演劇が生まれるのだから、表現の力っておもしろいなあと胸打たれたりします。

 それから、文庫版では最後に、新藤純子さんが「『フランケンシュタイン』の過去・現在・未来」というあとがき兼解説のようなものを25ページほどにわたって書かれていますが、これがまた、とても面白いです。原題の直訳である『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス※1』を引き合いに、電気というものを手にした人間(フランケンシュタイン)が人造人間(怪物)を生み出した話をしたり、当時の小説の時代背景や、その後のフランケンシュタインの舞台化や映画化、今のフランケンシュタインのイメージの原点にブレードランナーへの影響まで述べてくださっており、明日にでも言いふらしたい内容となっています。 反対に始めには、筆者によるなぜこの作品が生まれたのかという前書き(筆者は蛇足と認める)や、筆者の夫による序文があって、それもまた違った楽しみ方ができます。

※1プロメテウスは、ギリシャ神話で、ゼウスが人間から没収した”火”を人に与えたことで、その後の戦争などのまさしく火種を作ってしまった神の名前。

 本文は全体を通して非常に改行が少なく、ページが文字で埋め尽くされていたり、超古典の名作叙事詩などの引用が入る古典具合に、普段あまり活字に手を伸ばさない方には易しくない読書かもしれませんが、SF小説の最古の一つと捉えられることも少なくないこの作品は、まちがいなく一読の価値があります。

では、このあたりで。


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