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読書紹介 ミステリー 編Part9 『すべてがFになる』 The Perfect Insider

 どうも、こぞるです。今回ご紹介するのは、森博嗣先生のデビュー作でもある『すべてがFになる』です。2014年にノイタミナでアニメ化、2015年に同じくフジテレビでドラマ化されていますから、タイトルは聞いたことがある人も多いのでは無いでしょうか。

-作品内容-
 孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む。

 S&Mシリーズの第1作であるこの作品なのですが、実は中学生の時に序盤で挫折しちゃったんですよね。当時何で読みきれなかったのかわかりませんが、最初のエピローグ的な面会シーンで止まってしまって、それきりでした。
 ただそれから十数年。大人になったからなのか、ただタイミングの問題なのか、今回はさらさら読めちゃいました。おもしろいものですね。

かわいいかよ

 N大助教授・犀川について。主人公の一人で、今作における探偵役を務めてくれます。作者の森博嗣先生が元名古屋大助教授ですので、伏せてはいますがN大のモチーフは完全に名大でしょう。作中の地理的にも。
 この犀川さんなのですが、32歳で助教授ですから、結構なエリート路線を辿っており、彼自身が理想とする環境などは世間一般とは一線を画しています。また、その思考は非常に理系で論理的。一般ピープルの私からすると、ある種天才のようにも見えるのですが、妙に俗っぽいところがあります。
 たとえば、今作を読んだ限りでは、犀川助教授は、恋愛経験がないのですが、もう一人の主人公である西之園萌絵と二人きりになると意識しちゃったり、好きな食べものは卵焼きなどの子供が好きなもの全般だったりします。かわいいかよ。
 こんな役を綾野剛さんがやっちゃったらファンは大変なんじゃ無いかと変な心配をしてしまいました。

作品と倫理観

じゃあ、そんなかわいいキャラクターたちを読者があっさりと受け入れやすいかというと、それはちょっと違う気がします。
 今作に出てくる登場人物の一番の特徴はその倫理観にあるように思います。彼ら彼女らの多くは、殺人への恐怖や、それがタブーであるという認識が薄い人と言えます。特にこの話の舞台になっているのが、小島にある窓もなく外界との触れ合いもほぼ無い特殊な研究室であり、そこを理想としている人たちが集まっているという設定ですので、それも理由の1つでしょう。
 なので、「こんな場所にいられるか!俺は一人で〜」的なキャラクターはいませんし、死体を見てショックを受けることは受けますが、割とすぐにみんな立ち直ります。強い。いや、彼らにとっては強さって感覚でも無いのかも。
 しかし、そんな、我々が生きる一般社会ではありえない倫理観の世界だからこそ、論理的なこの物語が生きるし、後半に出てくる警察たちのようなアプローチではその内的な真相には決してたどり着かないだろうという面白さがあります。

ABC予想

 話変わって、今年の春先に、ABC予想が日本人の学者によって証明されたというニュースがありました。ご存知ですか?ABC予想っていうのは、スーパーウルトラハイパー簡単にいうと、解いたら100万ドルがもらえる数学の問題です。
 これが話題になったときに、いろいろなサイトでABC予想ってどんな問題?っていう記事や動画が上がっていたのですが、そのどこでも取り上げられていたテーマが「これって何の役に立つの?」というものでした。
 結論から言うと、現状とくに社会には役立ちません。しかし、何かしらの意味をつけるのであれば、将来IT技術が発達したときに役に立つかもね?というぐらいだそうです。その役立ち度合いも、まだわかりません。100年後には、この証明によってIT産業が回っている可能性も0じゃないけど、何の役にもたってない可能性もあります。 
 今作で犀川助教授も、こういった研究の意味みたいなことに触れており、そこで「研究は役に立たない。だからこそ楽しいのだ」という名言を残しています。これはきっと、実際に研究者でもある森博嗣先生の心からの言葉では無いかと思っているのですが、研究者の卵の駆け出しのひよっこである私にとっては、けっこうな至言だなと感じさせられました。そして、これは研究だけでなく、小説もアートも何にでも言える、けど、忘れられがちな核な気がします。また、さきほど触れた倫理観が一見薄く見える登場人物たちの、行動理念になっているように思います。

Fの魅力

 『すべてがFになる』とあるように、タイトルにもなっているF。このタイトルは作中にも丸々文として登場し、非常に重要なものなのですが、Fってなんか魅力的なアルファベットな気がします。
 数字で言うと、日本人は3が好きだそうですが、このFは結構いろいろな業界で愛されています。音楽だと”強く”のフォルテやファの音。エレベーターで見ればフロア、個人情報に書いてあれば女性の意味だろうし、英語でFワードといえば、非常に下品な言語類です。あと、漫画家でいえばドラえもんの作者です。
 しかし、個人的にこのFという文字、やたら出てくるなと思ったのは、高校時代の理系科目です。化学でFといえば、フッ素の元素記号だったり華氏の°F。物理で出たら力のFで、焦点距離のf。数学においても関数のf(x)に登場します。英語以外の時間に一番出てくるアルファベットランキングで、FがXと1位の座を争っているのでは無いかと思っているのですが、いかがでしょう。
 そして、そんなFが今作においては何を表しているのか、ぜひ読んで確かめてみてください。

さいごに

 理系だったり、理系というものに憧れがあったり、理系の人たちの会話や、ちょっと変わった教授の話が好きであれば、間違いなくハマるでしょう。そうでなくても、事件が解決に向かうロジカル思考はミステリー好きにはたまらないものになっています。
 あと、以前紹介した『クラインの壺』同様、これにもVRの存在が出てきます。90年代中頃におけるVRという存在の大きさを感じさせられますね。
 また、今作(今シリーズ)は前述のドラマ、アニメの他に2種類の漫画やゲームにまでメディアミックスされていますので、文庫版で500ページ強の小説の文量に疲れてしまう方は、そういったものから入るのもいいかもしれません。


ちょっと長くなってしまいましたが、このへんで










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