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この国のかたち 〜時代に生きる人々の体温を感じる歴史エッセイ〜

日本全国(一部海外)を巡る「街道をゆく」でエッセイの評価を高めた司馬遼太郎の、日本という国の成り立ち、変遷と未来への展望を描いた、歴史の教科書というよりサブテキスト的長編シリーズ。
時系列は必ずしも教科書的ではなく、時に前後に飛び記述が重複するので、読書をしているというよりやや脱線した講義を聞いている心地になるが、これほど歴史を題材にした著作で人間愛に溢れ、臨場感と人の体温を感じる作品は無いと思う。

渡来文化の影響を多大に受けて形成されたこの国が、島国という事で鎖国的進化を遂げ、良くも悪くも我が国こそがアジアの覇者であるという観念が秀吉時代から昭和初期、そして戦争へ至るまで通奏低音のように流れてゆく、その大きな流れを感じられるのが興味深い。また国が形作られた古代は多様性に溢れていた筈なのに、現代日本は均一的、画一的な方向へ急速に向かっている事への警笛を鳴らしており、司馬氏の急逝により本作が未完に終わり、そして四半世紀経過した今、その結果の中に生きていて思わず身震いをする次第である。(全6巻)

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