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ハチ公バスに乗った


毎日note更新79日目。

先日家に帰る時にふとあるバス停が目に入った。

ハチ公バスと書いてある。

東京の色々な所を巡って最終的に渋谷のハチ公前に着くらしい。

これは良さそう、と僕は思った。

東京に来てからあまりの暑さで色んな場所に行けていないのでバスが巡ってくれるならちょうどいいんじゃないかと思ったからだ。

僕はハチ公バスに乗る事にした。


その日の19時。

僕はハチ公バスに乗り込んだ。

バスの中の乗客は僕以外にはおじさん1人。

バスはすぐ動き出した。

窓から東京の景色を眺める。

暗い。

僕は思った。


これ乗る時間、間違えてる。


観光を兼ねてこのバスに乗るのなら昼乗るべきだった。

19時に乗っても暗くてあまり何があるのか見えない。

これだと代々木ー渋谷間をただただ遠回りして移動しているだけである。

ちなみに代々木ー渋谷間は電車だと5分ぐらいである。

かなり近い。

僕は一体何をしているのか。

バスに乗ってすぐ、早くも疑問がわいてきた。


2つほどバス停を通過して次のバス停でおじさんが降りた。

いよいよ乗客は僕1人である。

そしてこのぐらいのタイミングである事に気付いた。


このバス、別に観光用のバスじゃない。


おそらく駅からちょっと離れていたりする微妙な場所に行く時に便利なバスなのではないか。

というかバスってそもそもそういうものだ。

僕は勘違いして観光バスとしてこのバスに乗り込んでしまった。

このバスの乗客に代々木から乗ってハチ公前まで東京の景色を楽しむという使い方をする人はたぶんいない。

少なくとも19時という時間にこの使い方をする人はいないはず。

まずい。

このままだと変な客になってしまう。

ここから何停留所あるのか知らないが、ず〜とスルーし続けて終点のハチ公まで耐えないといけない。

途中で降りるという選択肢はない。

なぜなら僕は方向音痴だからだ。

途中のバス停で降りて家に帰れる自信は全くない。

これはもう耐えるしかない。

僕は覚悟を決めた。


バスはどんどん進んでいく。

その間いくつものバス停をスルーして行った。

誰も乗ってこない。

ずっと乗客は僕1人である。

もちろん口には出さないが運転手さんの

「え、この人いつ降りるの?」

という疑問が背中から感じられる。

残念ながら僕はハチ公まで降りない。

運転手さんも覚悟を決めてくれ、と言いたかった。

ちなみにこの時点で約20分。

さっきも書いたが電車なら5分。

僕はここで確信した。

今、僕は

わけのわからない遠回りをしている。


こうなると最初に目に入った家の近くのバス停に描いてあったハチ公の顔に腹が立ってきた。

そのハチ公は舌を出してニカっと笑っていた。

いや、あの顔は観光バスやと思うやん。

普通の路線バス的なもんやったらあんな楽しそうな顔せんといてや。

真顔でいいやん。

ハチ公の顔にハメられた。

あの顔で観光バスやと思い込まされた。


そう思ってる間にもバスはどんどん進んでいく。

まあ進むというか周辺をぐるぐる周っているだけなのだが。

とりあえず僕は運転手さんに「この人間違えてる」て思われるのが嫌だったので、動揺してるフリは見せず出来るだけどっしり構えた。

なるべく動かないようにした。

キョロキョロしてると焦ってると捉えられるからだ。

バスを走らせる運転手さん。

動かない僕。

それから5分ほど経過した頃、信号で止まっている時に運転手さんがチラッとこっちを確認した。

ん?何や急に?

さっきからずっと乗ってるのに何で急に確認したんやろ?

どこで降りるんやろ?と思ったんかな。

いや。

たぶん違う。

あれは


運転手さんちょっと怖くなってる。


微動だにしない男が後ろにずっと座っているのである。

しかも夜。

不気味である。

このバス普段この時間はあまり客は乗ってこないのだろう。

ましてや僕はバス停をスルーし続け長時間乗っている。

もしかしたら

幽霊的なものに思われているのかもしれない。


もし僕が髪の長い白い服を着た女の人だったら幽霊確定だっただろう。

しかし僕は髪の短い半ズボンのデブである。

運転手さん安心して欲しい。

僕は幽霊ではない。

勘違いして遠回りをしているただのデブだ。


バスに乗って30分。

代々木公園の近くに来た。

代々木公園て。

まじでこれ何してんねん。

ほんまにぐるぐる周ってるだけやないか。

僕はめちゃくちゃ恥ずかしくなった。

運転手さんからはまだ怯えた雰囲気が伝わってくる。


そこから約10分。

ようやくハチ公前に到着した。

代々木を出発して約40分。

長い闘いだった。

僕と運転手さんは車内の気まずい空気を耐え抜いたのである。

バスを降りた瞬間、凄まじい解放感を感じた。

あんな清々しいバスの降車は初めてである。

振り返ると運転手さんも解放された顔をしているように感じる。

何はともあれ渋谷に着いた。

長い道のりの末、ようやく渋谷にたどり着いたのだ。

よし行くぞ!と歩き始めようとした瞬間、僕は思った。


何しに渋谷に来たんやったっけ??


そう。

僕は渋谷でやる事はなかった。

ハチ公バスのバス停が目に入り、勢いで乗ったものの渋谷に特に用はなかったのである。

僕はしばらくスクランブル交差点を眺めた後、電車で帰った。

5分で帰れた。





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