もう夜行バスなんて乗らない
毎日更新83日目。
昨日書いた通り、僕は大阪から東京へ帰る際、夜行バスを選択してしまった。
新幹線の方がいいのは分かっている。
だけど少しでも節約したかったのだ。
貧乏デブおじさんの悲哀ここに極まれり、である。
ちなみに夜行バスの値段はお盆料金+三列シート(席がそれぞれ独立してるちょっといいやつ)なので8000円と少し。
新幹線は自由席なら13000円と少し。
その差、5000円。
出せよ。
そんぐらい出してくれ、にっしゃんさんよ。
何を考えてるんですか、あなた。
あなたもうすぐ38歳ですよ。
しっかりしてくださいよ。。
と、今となってはどちらを選んだらよかったのか、火を見るより明らかだったのだが
あの時の僕には5000円の節約が魅力的に見えてしまったのだ。
昔、ゲーム機のドリームキャストとPlayStation2をどっち買うか迷ってドリームキャストを買った時を彷彿とさせる。
あんなもんどう考えたってプレステ2の方だったのだ。
結局ドリームキャストは買って1、2年で製造終了になってしまった。
あの時の選択ミスを僕は「ドリキャスの変」と呼んでいる。
そんな僕が今また「令和版ドリキャスの変」とも言える選択をしてしまった。
帰省の日が近づくにつれ「これはもしかしてとんでもない事が起こるんじゃ、、、」と、金田一少年ばりに惨劇の予感を感じていたのである。
とはいえ買ってしまったものはどうしようもない。
昨日の深夜、僕は夜行バスに乗り込んだ。
夜行バス。
みなさん乗った事はあるだろうか?
一度乗ってみたら分かる、あのしんどさ。
人にもよるが、かなり辛いものがある。
僕自身20代の頃、何回も乗っていて、乗るたびにフラフラになっていた。
先程ちょっと書いた様に、夜行バスには四列シート(席が2つずつくっついている言わば普通の形のバス)と三列シートがある。
四列シートは基本狭く、横に他人がくるためこれはもう激烈にしんどい。
あれははっきり言って忍耐力増強マシーンである。
それに比べて三列シートはまだマシである。
独立した席なので、多少はゆったり出来る。
また席のクッション性や足置きなど、快適に過ごすための工夫が施されている。
最後に僕が夜行バスに乗ったのは10年前なのだが、その時はそういう三列シートだったので、そんなにしんどくなかった記憶があるのだ。
なので「いい三列シートならいけるかな」と僕は思った。
今回僕が選んだバスは会社名は伏せておくが、その会社の夜行バスの中でもいいものを選んだ。
ちょっと他より値段は張るが、高級な夜行バスを選んだのである。
ここで誰もが思うだろう。
それするんなら新幹線選べよ。
バスに乗り込んだ僕は二階に上がる。
三列シートの夜行バスは大半が二階建てで、大部分の席は二階にあるのだ。
二階に上がった瞬間僕は「え?」となった。
思っていたより天井が低く、そして座席が多いのだ。
要はキッツキツなのである。
三列の間の二つの通路にはカーテンが引かれている。
なかなか異様な光景である。
とにかく天井が低い。
僕は思った。
え、何これ?
何か凄い事なってんねんけど。
天井、ルパン三世の五ェ門に一回斬られた?
半分に斬られてからもう一回天井だけ貼った?
えげつない低さやねんけど。
めちゃくちゃ屈まんと移動出来ひんねんけど。
僕は低く腰を落としながらゆっくり前に移動した。
前傾姿勢になり、前だけ見据えて一歩一歩前に進める。
前にいる乗客の複数のおじさん達も同じ姿勢をとっている。
再び僕は思った。
いや、訓練か!
自衛隊の訓練にでも参加してんのか、ワシは!
みんなで腰落としてゾロゾロゾロゾロと!
何やこのヘンテコおじさん部隊!
この絵、何かカイジとかの作者、福本伸行先生の作品に出てきそうやな!
いい歳したおじさんらがこんな屈む事あるかね!
もう逆にほふく前進したいわ!
何かそっちの方が楽そうやわ!
僕の座席は2A。
前から二番目の窓側の席である。
横の席、2Bの人がまだ来ていなかったので、横の移動は比較的楽に行けた。
席にたどり着き、とりあえず座ってみる。
すると席の座り心地は抜群に良かった。
横幅はちょっと狭いが、まあそれは僕が太っているので仕方がない。
頭の部分には枕も付いていて、これは快適である。
さすが高級。
さっきは失礼な事言ってすいませんでした。
僕が座ってから、続々と乗客のおじさん達が到着する。
夜行バスは実はおじさん率がかなり高い。
旅行の学生や就活生などもいるが、基本はおじさんなのである。
そして僕も含めてみんなどこか冴えない。
冴えてるおじさんは新幹線に乗るからだ。
身も蓋もない書き方になるが
夜行バスというものは冴えないおじさん達を詰め込んで遠くまで運ぶ乗り物なのである。
全員がバスに乗り、ようやく出発する。
ここから長い旅の始まりである。
運転手がアナウンスする。
「え〜この度は、、、ら、、、が、、、い、、、」
声ちっちゃ。
何も聞こえへん。
音漏れレベルやん。
イキッた大学生のイヤホンから聞こえる音漏れレベルやん。
何言うてんのか全然分からへん。
これ運転手さんの声量かスピーカー悪いんか、どっちや?
それでも頑張って聞き取ると、どうやら休憩は二回ある事、もうすぐ消灯する事、座席倒す時は後ろに一言かける事、そんな感じの内容を言っていた。
早速、僕の前に座っている比較的若い男性が座席について声をかけてきた。
「ちょっと後で倒すのですが、よろしいでしょうか?」
僕は「どうぞどうぞ」と答えた。
なかなか礼儀正しい好青年である。
そして僕も後ろのおじさんに席を倒す旨を伝えた。
「席ちょっと倒しますね」と言いながら僕は思った。
何や、この伝言ゲームみたいなやり取り。
これずっとやってるやん。
十数年前からずっとこの伝言ゲームやってるやん。
いい加減、何か改善されへんもんかね。
それもこれも座席倒されて怒ったやつがおるのが悪いねん。
怒るなや。
どんだけ短気やねん。
そんな短気なやつが夜行バス乗るなや。
そんな事を考えているとバスが動き出した。
いよいよ出発である。
さらば、大阪。
また近いうちに会いましょう。
座席と座席はカーテンで仕切られているため、他の乗客の様子は一切分からない。
まあ変に周りが見えるより、こっちの方がいいかもしれない。
僕は疲れていたため、早くも眠ろうとした。
体を伸ばして、頭を枕に埋め、目を閉じる。
何だかすぐに寝れそうである。
ボリボリボリボリ
ボリボリボリボリ
僕はゆっくり目を開けた。
そして心の中でこう呟いた。
誰かじゃがりこ食うとる。
近くの誰かがじゃがりこを食べているのである。
音の出方からほぼ間違いなく横のおじさんだろう。
いや、別にいいのである。
車内は飲食禁止ではないし、何を食おうがいいのである。
いいのだが!
何でおっさんが夜行バスでわざわざじゃがりこ食うねん!
家帰ってから食えや!
わざわざ夜行バスで食わなあかん理由は何や!
そもそも何でじゃがりこやねん!
じゃがりこはスナック菓子の中でも群を抜いてボリボリ鳴るお菓子やろ!
チョイス考えろよ!
ボリボリボリボリ!
何を楽しんどんねん!
あんたは修学旅行生か!
こっちが無茶苦茶言うてんのは承知で言うけど
おっさんが夜行バス楽しむな!
そんな心の叫びが届くはずもなく、おっさんはボリボリ食べ続ける。
そして二つめのお菓子の袋を開ける。
さらにプシューと何かの缶を開けた。
僕は再び心の中で叫んだ。
おっさんゴキゲンやのう!!!
と、その瞬間
前の席がいきなりグググっと倒れてきた。
さっき好青年が予告していた席倒しである。
僕も承知してたので、全然いいのだが
いいのだが!
兄ちゃんいきなり全倒しかえ!!!
やるやないか、兄ちゃん!
まさかいきなりフルパワーでくるとは思わんかったわ!
おかげで足挟まりそうなったわ!
いや、別にいいねんけどな!
ただ次からは声かけた時にもう倒してほしいな!
いきなりフルで倒れたらビックリするからな!
前が全倒しした事で僕の席が狭くなったので、僕ももう少し席を倒した。
こうして席倒しの連鎖は起こっていくのである。
さあ、寝なければ。
こんな事もあろうかとイヤホンを持ってきた。
これでボリボリを遮断するのである。
僕はイヤホンをつけ音楽を流し、ウトウトし始めた。
すると、バスがどこかに止まった。
そして電気が付く。
「、、、休憩、、、です、、、」
消えそうなか細い声の運転手さんのアナウンスが聞こえる。
どうやら一回目の休憩のようである。
めっちゃ早い。
さっき出発したばっかりなのに。
まあサービスエリアの場所の関係もあるのだろうが。
僕は一応外に行く事にした。
何を隠そう、私にっしゃん。
深夜に行くサービスエリアが結構好きなのだ。
10年前、夜行バスに乗って東京から大阪に帰っている時。
途中のサービスエリアで僕は一服していた。
その頃の僕はよく大して用事もないのに東京に行っていた。
どこか心の中で東京に憧れていたのである。
タバコを吸いながら夜空を見上げる。
「ああ、やっぱ東京行きたいなあ」
そんな事を思いながら一服したサービスエリアは妙に思い出深くて、心に残っているのである。
久しぶりにあの感じを味わいに行こう。
そう思いながら通路に出ようとした僕。
!?
出れない。
体が引っかかって通路に出れないのである。
必死に体をぐりぐり捻る。
しかし出れない。
120キロの巨体が引っかかっているのである。
ふと前を見る。
席が全倒しされたままである。
さっき運転手さんが小さい声で言っていた。
休憩の際は座席を元に戻すようにと。
しかし青年は寝てしまって、全く動かない。
おい、兄ちゃんよ!
起きてくれ!
デブが出れてない!
引っかかってデブが出れてないねん!
焦った僕はさらに体をグリグリする。
しかし、肉がまとわりついて離れない。
うおおおお!!!
そして。
断念。
太ったおじさんは静かに腰を下ろした。
汗がダラダラ流れている。
ハアハアと息切れしながら、目を閉じる。
デブが体が引っかかって休憩に行けない。
こんな悲劇があるだろうか。
ギリシャ神話に新たに追加して欲しい。
出ようとしたが席に引っかかってもがくデブ。
側から見れば凄まじく滑稽である。
まさか高級な夜行バスでこんな屈辱を味わうとは。
ていうか、席と席の間、狭すぎるやろ。
次の休憩までは約4時間半。
長い。
休憩入るバランスどうなってんねん。
そして4時間半後。
再びサービスエリアにバスが止まった。
僕は気合いに満ち溢れていた。
リベンジマッチの始まりである。
この4時間半はちょくちょく仮眠をして凌げた。
座席は確かに快適で、よく寝れる。
しかしその快適な座席のデカさが仇となり、席と席の間がとにかく狭い。
僕は前回の反省を踏まえ、この4時間半で対策を立てていた。
さっきは焦ってしまい、足置きを収納するのを忘れていた。
これが無ければ前の席が倒れたままでも通路に出れるスペースが出来る。
そして出る際に猫をイメージするのだ。
猫はよくめちゃくちゃ狭い場所を通り抜ける。
猫は液体なんて言われてたりする。
あの感じを僕も出すのである。
頭にイメージを浮かべてそれを具現化するのだ。
刃牙がよくやってるやつである。
よし!と気合いを入れ
僕は足置きを動かし収納した。
史上最大のリベンジマッチの開幕である。
僕は体を捻りこむ。
イメージは猫である。
猫になったんだよな〜君は、と小さく口ずさむ。
そして自分を自分で鼓舞する。
いけるいける!
俺はいける!
デブは液体!
デブは液体なんや!
ムギュウウウウ〜
肉を滑り込ませ
何とか僕は通路に出た。
そして顔を上げる。
その視線の先には
極細の通路が広がっていた。
何、この通路。。
極細やん。。
一風堂の麺やん。。
誰がこんな博多ラーメンみたいな通路通れんのよ。。
そして。
再び断念。
太ったおじさんは静かに腰を下ろした。
汗がダラダラ流れている。
ハアハアと息切れしながら、目を閉じる。
デブが体が引っかかって休憩に行けない。
まさかの同じ結果。
まさかのコピー&ペースト。
目を閉じながら僕は絶望していた。
無理ゲーやん。
あんなんどうやってクリアすんのよ。
天外魔境やん、あんなもん。
通路、細すぎるやろ。
むしろどうやって入ってきたんやろ。
結局、休憩に行けず終いの僕は座席でグッタリしていた。
何故わりと高い金額を払ってこんな思いをしなければいけないのか。
大人しく新幹線に乗っとけばよかった。
しかし、問題は終わっていない。
最大の問題が一つ残っている。
「最後降りれるのか」という事だ。
僕はバスタ新宿で降りる事になっている。
しかしバスタ新宿は終点ではない。
終点なら心配はいらないが、途中だとそのまま降りられず、変なとこに連れていかれる可能性がある。
デブが体が引っかかって遠くに連れていかれる。
この悲劇だけは避けなければいけない。
そんな切ない事、他にない。
何とかしなければ。
唯一の希望としてあるのは、
バスタ新宿で大半が降りる、という可能性だ。
何と言っても新宿である。
みんな降りるはず。
みんな降りてしまえばスペースが出来る。
そうなったら、さすがに降りられるはずである。
僕はこの可能性に賭ける事にした。
1時間後。
バスがバスタ新宿に近づいてきた。
僕は出る準備をし、息を整える。
バスが止まる。
「、、、新宿、、、くだ、、、ます、、、」
相変わらず声が小さい。
はっきりしゃべれや。
何をボソボソ言うとんねん。
僕は2回休憩を逃してイライラしていた。
一階で扉が開き、降車が開始された。
前の席の兄ちゃんも降りるようで席のスペースが空いた。
これで通路に出るのは楽勝である。
後は他のみんなが降りてくれれば。
僕は後ろの通路を見渡した。
!?
座っている。
後ろのおじさん達が座っているのである。
新宿に着いてもおじさん達は微動だにしていないのである。
みんな揃って無表情な顔をしているのである。
僕は焦りに焦った。
誰も降りひんやん!
おっさんらどこに行くねん!
何や、その表情は!
何ちゅう顔してんねん!
僕は焦って通路を移動しようとする。
しかし僕がいる窓側の通路が博多ラーメン過ぎて全く通れない。
いくら猫をイメージしようがDISH//を口ずさもうが通れないのだ。
肉がまとまりつき離れない。
おそらくもう一本奥の通路に行かなければいけないのである。
思い返せば、最初入ってきた時は奥の通路を通っていた。
たぶん奥の通路の方が広いのである。
ただ、横にじゃがりこのおじさんがいるため奥の通路に行けない。
早くしないとバスが次の場所に行ってしまう。
いや、てか、何で次の場所行くねん!
色々おかしいやろ!
降車ぐらい何か確認のしようがあるやろ!
令和の時代にどんだけ旧式やねん!
そもそも通路狭すぎるねん!
何やねん、これ!
ああ〜もう腹立つ!
僕は怒りに任せ、動き出した。
このまま遠くにつれていかれるわけにはいかない。
横のカーテンを開け、じゃがりこ親父ごと奥の通路に行こうとする。
驚くじゃがりこ親父。
僕は「デブどうしろ言うねん!」と吐き捨てながら、突進する。
鬼気迫るデブを見て、じゃがりこ親父は固まる。
僕はそのままじゃがりこ親父を巻き込みながら奥の通路に出ようとする。
肉がまとわりついて離れない。
てか、この肉まとわりつくくだり何やねん!
僕はラグビー部で培った突進力を活かして、奥の通路を目指す。
潰されかけるじゃがりこ親父。
うおおおおおおおお!!!
僕はさらに力を込め、奥に進んだ。
スポンッ。
僕の体は奥の通路に出た。
じゃがりこ親父は怯えた表情でこちらを見ている。
「すみません」僕はじゃがりこ親父に詫びてから、ようやく出れた奥の通路を進む。
様々なおじさんの肩や腕に体当たりしながら出口に向かう。
もう無茶苦茶である。
ただ、どうしようもないのだ。
デブとこの夜行バスの相性が悪すぎるのだ。
そして。
ようやく僕はバスの外に出た。
7時間ぶりに吸うシャバの空気。
気分は大脱獄犯である。
預けた荷物を受け取る。
この新宿地点で残っているのは僕の荷物だけだった。
本当に危なかった。
僕は荷物を持ってフラフラと歩き出した。
めちゃくちゃ疲れた。
まさか夜行バスでここまでの目に合うとは。
もう次の帰省の時は行きも帰りも新幹線にしよう。
絶対そうしよう。
僕は新宿の空を見上げながら、口ずさんだ。
「もう〜夜行バスに乗らないなんて〜言わないよ、絶対〜♪」
言わんのかい。
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