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書評「カルロ・アンチェロッティ"戦術としての監督"」

ヨーロッパサッカーが好きな人は、リバプール、マンチェスター・シティといったクラブをチェックしている人が多い。リバプールにはユルゲン・クロップ、マンチェスター・シティにはペップ・グアルディオラという監督がいて、最新の戦術を高いクオリティで披露している。最新のサッカーを把握したかったら、この2チームの戦いに注目するのは当然だと思うし、2人の監督に注目が集まるのも当然だと思う。

でも、僕はこの2チームの監督より注目している監督がいる。僕が最近気になっているのは、アンチェロッティだ。何を今更と思うかもしれないけど、僕はアンチェロッティのことが気になっている。

結果を残せても人として信頼される監督は少ない

アンチェロッティは、パルマ、ユベントス、ACミラン、チェルシー、パリ・サンジェルマン、レアル・マドリー、バイエルン・ミュンヘンといった各国のビッグクラブで監督を務め、現在はセリエAのナポリで監督を務めている。

僕が考えるアンチェロッティの凄さは、どのクラブである程度の結果を残し、選手に信頼されていることだ。結果を残すことは簡単じゃないけど、結果"だけ"残している監督ならたくさんいる。でも選手に信頼されている監督はほどんどいない。サッカーの監督には、結果を追い求めれば追い求めるほど、選手との関係に一線を引く人が多いし、結果的に選手との関係が上手くいかないケースをたくさん聞く。

でも、アンチェロッティは違う。スタッフ、選手とも良好な関係を築き(バイエルン・ミュンヘンでは上手くいかなかったが)、彼の下で働いた人の多くが「彼とまた一緒に仕事したい」と口にする。こういう監督は珍しい。

それでいて、アンチェロッティはACミランで2回、レアル・マドリーで1回チャンピオンズリーグに優勝しており、きちんと結果を残している。僕はその理由が知りたくて、アンチェロッティの本を読み漁っていたのですが、本書を読み終えて「ようやく自分が求めていた情報にたどり着いた」と感じました。

リーダーシップも戦術の一つ

本書の原題は「QUIET LEADERSHIP -Winning hearts, minds and matches-」というのだそうだ。「QUIET LEADERSHIP」というのが、とてもアンチェロッティらしいと思う。

大げさなアクションでサポーターを煽ることもしないし、自分のことを大きく誇示しようともしない。「人が良すぎるのが弱点」という言葉が何度も出てくる。でも一癖も二癖もある一流選手たちが、アンチェロッティへの信頼を隠そうとしない。

本書には、クリスティアーノ・ロナウド、ズラタン・イブラヒモビッチ、デビッド・ベッカム、ジョン・テリー、パオロ・マルディーニ、アレッサンドロ・ネスタといった超一流選手のインタビューが掲載されている。特にイブラヒモビッチのインタビューは、グアルディオラとの比較も書かれていてとても興味深いので、ぜひ読んで欲しい。

本書を読みながら考えたのは、モウリーニョのことだった。

モウリーニョの本来の強みは、戦術ではなく、選手との関係づくりが上手いところだったと、僕は考えている。しかし、モウリーニョはインテル・ミラノからレアル・マドリーに移籍したあたりから、選手との関係作りが上手いという自らの強みを捨ててしまう。モウリーニョが結果を出せなくなるのは、ここからだ。

僕は選手との信頼関係を作るのが上手い、というのは、立派な戦術だと思う。システムをいじったりすることだけが、監督が使う戦術ではないのだ。アンチェロッティは「人間」という戦術の使い手であり、本書はそのことを教えてくれる1冊。


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