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書評「読みたいことを、書けばいい。」(田中泰延)

Twitterで多くの人がシェアしているので、買う予定じゃないのに手にとってしまいました。

「人は3回違う場所で目にしたら、その商品が欲しくなる」という話を聞いたことがあるのですが、僕はTwitter、Facebook、書店と3回目にしてしまったので、まんまとその法則にハマってしまいました。

でも、読み終えた今はこう言えます。買ってよかった。人に自信をもっておすすめできる本です。

本書「読みたいことを、書けばいい。」は、電通で24年間コピーライターとして働いていた著者が、「文章を書く」というテーマについて書いた書籍です。

自分が読みたいものを書く

本書で深く掘り下げて書かれているのは、書く「技術」ではなく、「動機」についてです。

インターネット上にはたくさんの文章が日々公開され、読み切れない程の文章があるにもかかわらず、文章を書くのはなぜか。人が書いた文章ではなく、自分の文章を書くのはなぜか。書かなくてよい理由が山程あるにもかかわらず、書きたいものがある人や、書かざるをえない人に向けて、著者は何を書いたらよいか提案しています。それが「読みたいものを、書けばよい」なのです。

「自分が読みたいものを書けばよい」という考え方は、全ての物事に通じる話だと思います。人が作ったサービスに満足できず、自分が使いたいサービスを作りたい人が起業するのだろうし、スポーツ選手も観るより自分で楽しみたいからプロのスポーツ選手を目指すのだと思います。

PayPalの初期メンバーで、YouTubeに投資したことでも知られているピーター・ディールは、自身の著書「ZERO to ONE」にこう書いています。

「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」

ピーター・ディールが語っていることと、本書のタイトル「自分が読みたいものを、書けばいい。」は、同じような意味で使われている言葉だと思います。

他の人は賛成しないかもしれないし、現時点では味方は自分だけかもしれないけど、それでもやりたいことは何か。書きたいことは何か。そんな強い動機に導かれた文章だからこそ人に読んでもらえるのだということを、本書は丁寧に説明しています。そして、何より自分が読みたいものであれば、自分も納得できるし、何より誰も読まなくても、自分が読みます。自分が読まないものは、誰も読まないのです。

世界を変えたかったら、まずは自分を変えることから始めてみる

僕が本書で最も印象に残ったのは、Michael Jacksonの「Man in the Mirror」のフレーズが引用されていた箇所です。「Man in the Mirror」は大好きな曲なのですが、特にサビの部分の歌詞が好きなのです。だから、本書で紹介されているのはとても嬉しかったです。

If you want to make the world a better placeTake a look at yourself, and then make a change.

日本語に意訳すると、「もしあなたが世界を変えたいなら、まず自分自身を見つめ直し、変えていくんだ」でしょうか。曲のタイトルが「Man in the Mirror」なので、「世界を変えたければ、まず鏡に映る自分を変えなきゃだめだ」とも言いかえられます。

僕は「自分の周りを変えたければ、まず自分を変えなければならない」という発想が好きです。

大河ドラマ「龍馬伝」で描かれた坂本龍馬は、元々大志を抱いていたわけではなく、自分が生まれた土佐に生きづらさを感じ、土佐を変えるために日本を変えようと奔走する若者として描かれています。

「世界を変える」ことが目的ではなく、目の前の現実、鏡に映る自分を変えようとした結果、世界が変わった。こういうストーリーが僕は好きですし、それが真実だと思うのです。

自分が読みたいものを書いて、人生が変わったという体験

本書に共感するのは、僕が「自分が読みたいものを書いて、人生が変わった」ということを体感しているからだと思います。

僕がサッカーに関する文章を書くようになったのは、僕が読みたいサッカーに関する文章が世の中になかったからでした。読みたい文章がないから、自分で書くしかない。半ば仕方なく書いたのが、2013年に公開したこの文章でした。

当時解任を求める声があった風間八宏監督のことについて肯定的に書いた文章は、公開直後から賛否両論を受けました。ただ、この記事を公開した後に、「自分で読みたい記事がないなら自分で書くしかない」と決意し、僕は2014年シーズンから5年シーズン連続で、ほぼ全試合の分析記事を書くことになります。

書き続けた結果、多くの人々との出会いがありましたが、ほとんどの人々は書き続けてなければ出会えなかった人々だと思います。

いまだに僕の書いている文章の何が良いのか、自分ではさっぱり分かりません。でも、僕の文章は「自分が書きたいし、読みたい」と思って書いています。本書を読み終えて、ようやく自分の取り組みを肯定できたような気がします。

まずは「自分が読みたい文章」を書いてみよう

本書に興味をもって手に取った人は、まずは「自分が読みたい文章」を書いてみることをおすすめします。

上手く書けなくてもいいんです。自分の言葉で、自分の読みたいことを書くことでしか出会えない自分もいます。自分の知らない自分に出会う。自分のことを深く理解する。そして、自分が知らなかった、これまで表に出してこなかった自分を、文章を通じて他者に理解してもらえる。そんな体験ができるはずです。


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