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書評「コービー・ブライアント 失う勇気 最高の男(ザ・マン)になるためさ!」

1997年5月12日、ウェスタン・カンファレンス準決勝ロサンゼルス・レイカーズ対ユタ・ジャズ第5戦。1勝3敗とすでに王手をかけられていたレイカーズにとって、負ければシーズンが終わる瀬戸際の一戦でのコービー・ブライアントのプレーを、僕は忘れることができません。

第4Q残り11秒で、89対89の同点。

エース、シャキール・オニールがファウルアウトし、ベテランシューター、バイロン・スコットが故障で欠場、中堅シューターのロバート・オーリーは相手選手との喧嘩で退場という苦しい状況で、レイカーズの当時のヘッドコーチ、デル・ハリスは勝負をルーキーのコービーに勝敗を託すことを選択します。

しかしコービーから放たれたシュートは、リングに当たることなくエアボール。試合はオーバータイムに突入します。オーバータイムに突入してもコービーのシュートは入らないどころか、3連続のエアボール。残り11秒のシュートと合わせると、4連続のエアボール。レイカーズはこの試合に敗れ、プレーオフ敗退を余儀なくされます。

しかし、僕は当時19歳のルーキーが、プレッシャーのかかる場面で責任を引き受け、失敗しても失敗してもチャレンジし続ける姿に、強烈な印象を抱きました。

その後、2016-17年シーズン限りで引退したコービー・ブライアントは、レギュラーシーズン通算33,643得点を挙げ、NBA歴代第3位という素晴らしい記録を残して20年のキャリアを終えました。しかし、コービー・ブライアントのキャリアは、賞賛ばかりされていたわけではありません。本書の表紙には「NBAで最も好き嫌いが別れた男」と書かれていますが、コービーのファンもいれば、アンチコービーも同じくらいいる。そんな選手でした。

本書「コービー・ブライアント 失う勇気 最高の男(ザ・マン)になるためさ!」は、コービー・ブライアントの半生を丹念に描いた作品です。

膨大な取材から得た事実を元に丹念に描く

本書の著者は、マイケル・ジョーダンの事を知りたかったらこれを読めば良い、と自信をもっておすすめできる評伝「マイケル・ジョーダン 父さん。僕の人生をどう思う?」の作者でもあります。

ローランド・レイゼンビーの書く評伝は、何か1つのトピックに対して暑苦しく語ったり、持論をとうとうと述べるのではなく、膨大な取材から集められた事実と関係者の声を編集してまとめていくことで描かれています。

「これでもか」というほど丁寧にひとつずつ出来事を説明していくので、文章量は多く(本書は704ページあります)、読み進めるには時間がかかりますが、とても読み応えがあります。僕は1週間かけて読み終えましたが、飽きずに読み進めることができました。

成功に取り憑かれた男の光と影

本書から伝わってくるのは、コービー・ブライアントの目標に対して真っ直ぐすぎるくらい突き進む姿勢です。その姿勢は覚悟という言葉で表現するのも軽すぎるくらいで、何かに取り憑かれているのではないかとすら思います。狂気の世界です。

コービー・ブライアントは練習の虫、いや鬼でした。コービー・ブライアントの練習がいかにすごかったかは、こちらの記事を読んで頂ければ分かります。

コービーは、朝4時半にコンディショニングを始め、6時までジョギングと走り込み、7時までウェイトトレーニング、その後11時まで800本のジャンプ・シュートの練習をこなしていました。
そして、それからアメリカ代表チームは合同練習を行ったのです。

ただ、あまりにも成功することに取り憑かれるあまり、数多くのトラブルを巻き起こします。チームメイトのシャキール・オニールとの関係、性的暴行疑惑、両親との仲違い、そして妻との離婚騒動など、コービー・ブライアントが成功に向けて努力を続ければ続けるほど、周囲の人を巻き込んでいきました。

明るい光は、暗い影を伴っている。その事を本書は読者に突きつけます。

スーパースターのありのままの姿を伝えてくれる貴重な1冊です。ぜひ読んでみてください。



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