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2018年5月福島、富岡駅前

<続き>

駅へ向かって県道112号を歩く。車は通り過ぎるが、人とすれ違うことはない。ひたすら野鳥のさえずりが響き渡る。

時折エアカウンターを引っ張り出して線量をチェックするが、概ね0.6〜1.0μSv/hを行き来している。首都圏からすれば考えられない線量だが、富岡駅で降りてからずっと“高線量”(あえてそう言う)に晒されており、何も感じなくなっている。「目に見えない」とはそういうことだ。

場所によっては大量の雑草によって歩道が覆われている場所もあり、しかもしっかりと根を張っているため、足を引っ掛けて転倒しそうになることもあった。

のどかだ。しかし放射線量は0.8μSv/h前後。

税金が未来の笑顔の社会を作りましたか。

さくらモールとみおかが近づくにつれ、住宅や店舗も増えてくる。そのどれもが空き家のままだ。2020年東京五輪に向け、国道6号周辺の廃墟、家屋をとっとと撤去しろ、解体しろと一部の復興に浮かれる連中が騒いでいるが、そもそも持ち主がどこへ避難したのか、生きているか死んでいるかもわからない家屋も多く、そう簡単に撤去など出来るものではない。

グループホームの廃墟を見つけた。震災時の混乱が手に取るようにわかる。低賃金で雇われながら高い倫理観が求められ、専門性も高い。震災時、もし自分がそこで働いていたら。低賃金だからと利用者を見捨て家族の元に帰るだろうか。時給800円の仕事に命をかけられるだろうか。

中はもぬけの空。
今、ここに入居していた人の何人が生きているだろう。

戻ってきた。

さくらモールとみおかにてしばし休憩する。周囲の放射線量は0.2μSv/h前後。除染の効果があって、内陸部より線量は低い。しかしそれでも首都圏の4倍以上だ。

日本政府は1日8時間屋外、16時間を屋内で過ごすと仮定し、被曝量年間1mSvを超えない数値として毎時0.23μSvを基準としている。福島県外で空間線量0.23μSv/hを超える場所を見つけた場合、立入禁止にした上で除染となるが、福島県内のみその基準は3.8μSv/hとなる(年間20mSv)。つまり、福島県内のみ法が正しく適用されていない。

さくらモールとみおかでは、まだ幼稚園にも行ってないであろう女の子を連れた家族などもいた。頭が混乱する。

低線量被曝による健康被害は「今のところ」確認されていない。しかしそれは因果関係がわかっていないだけで、健康被害がないということではない。安全であるという証明は為されていない。今ここにある“ファクト”は、除染されたエリアでも放射線量は首都圏の3倍以上はあるということだ。

富岡駅前の復興公営住宅(?)。

10km余りの行程を予定よりも早く終え、いわきの宿へと向かうことにする。

富岡駅ホームからは、今もフレコンバッグの山が見える。

劣化したフレコンから雑草が飛び出す。放射性物質も溢れ出す。

さらば富岡駅。

いわきに着きホテルへチェックインを済ませ、少しの休憩の後、いわきの街へ繰り出し呑み屋を物色していると、駅前で大きな声で呼び止められた。誰かと思い道の向こうを見ると、半年前に双葉町へ入域した際にお世話になったOさんだった。日曜日に、奥さんとともにお墓まいり、その後、昨年Nさんの写真展で知り合った僕の知人に双葉町を案内するという。なんという偶然!

夫婦水入らずの場に、よせばいいのに遠慮なく同席し、美味しい福島のお酒をいただきました。ありがとうございました。

宿に戻り、明日の浪江行きに備え、0時には床に就いた。浪江はもっと線量が高い。

<続く>


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