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2020年6月福島取材⑦/本来は降りてはいけない駅

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前日、6月6日の双葉では、さほど暑くもなかったものの、この時期の紫外線はかなり強く、僕は全身真っ赤に日焼けしてしまった。双葉郡は日差しを遮るものがほとんどなく、全身に紫外線が降り注ぐ。僕は生まれつき皮膚が弱く、ホテルでシャワーを浴びたときは強烈に沁みたものだ。

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2日目は、そんな人が驚くほど全身真っ赤な姿で、いつもより1時間遅く、7:11いわき発の電車で大野駅に向かった。常磐線全通について、聖火リレーへの間に合わせだの復興の演出だのといろいろと書いてきたが、その恩恵を僕がかなり受けて取材するという皮肉。

いわき〜大野駅間は1時間弱で着く。早朝の電車のため、僕が乗った車両には僕以外乗客がいなかった。僕は何のためらいもなくカメラを望遠レンズに変え、木戸駅からフレコン置き場にレンズを向けた。

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木戸駅前のフレコン置き場は、一時期よりは圧倒的に数が減ったが、今もまだ木戸川の傍にいくらか残っている。17年3月に初めて黒い袋の山を見て以来、中間貯蔵施設への移動は始まったが、今もまだなくならない。施設の建設が追いついてないのだろう。

広野や富岡駅の周辺にはビジネスホテルが出来ている。富岡には、駅前だけでなく総合スポーツセンターの近くにも出来ている。宿泊費は、はっきり言って高い。周辺に繁華街があるわけでもなく、僕のイメージとしては、さくらモール富岡で食事を買い込んで一人部屋で晩酌する感じか。広野に至っては1階のデイリーヤマザキで買うしかない。そんなホテルに、6000円払って宿泊する気は僕にはない。正直言って、このままの値段ではいずれ経営が行き詰まるように思う。

富岡駅より先は帰還困難区域を通過するため、線量計をカバンの中から取り出す。スイッチはいわきを発射した時点で既にONだ。写真も撮っていないので、いくつまで上がったかは憶えていないが、毎時1.0μSvは超えたと記憶している。ただし、線量計が最も高い値を示すのは、夜ノ森〜大野駅間よりも大野〜双葉駅間の方だ。

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(熊川)

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大野駅へ着いた後、線量計を見ながら改札行きの階段へ向かって歩く。すぐに毎時0.6μSvは超えてしまう。つまり、このホームは放射線管理区域だ。本来なら、このような形で「誰でも歩ける」状態でいい場所ではない。

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無人の改札口を出て、まずは駅構内に設置されている線量計の数値を見る。0.293μSv/h。前回の0.31よりは下がっている。しかし福島県外では除染対象となる0.23μSv/hは既に超えている。ここはそういう駅だ。福島でなければ「立ち入り禁止」の駅だ。これは煽っているのでも何でもなく、客観的な「事実」だ。

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駅から澄み切った空を眺める。とにかく綺麗だが、ほとんど雲のないこの空は、2日目も容赦無く紫外線が降り注ぐことの証でもあった。…少し気が重い。

前回、3月にここ大野駅に来た時は、その記録を見てみると、歩いてはいけない道を結構歩いている。警告看板が非常に不親切で、僕も勘違いして歩いてしまったし、多くの人が4〜6μSv/hもあるような場所を何も知らずに歩いていた。常磐線車内で偶然出会った、僕のファンだという少年は、6国の中央台交差点のほんの200m手前まで歩いて行ってしまった。その時は感度の悪いエアカウンターSで7μSv/hを超えたという。

3月の大野駅訪問後、案内看板の不親切さに問題があると思った僕は大熊町役場に電話をした。環境対策課放射線対策係の方が出てくれたが、最初に電話した時の失礼な態度は今も忘れない。二度目の電話の際、名を名乗るように言ってからは態度が急変し、きちんと話を聞いてくれた。案内看板を増やし、バリケードの位置も検討すると話してくれた。そんな大野駅前の状況がどのように改善されたか、今回の取材はその確認の意味もあった。

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大野駅から東口へ出ると、パッと見てすぐに駅前しか歩けないことがわかった。3月の、TVカメラを抱えたメディアでさえ歩いて行ってしまった「車のみ通行可」の道は、歩行者が通行禁止だとすぐわかるように案内看板が是正されていた。

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(駅前の警告看板やバリケードは、3月よりも明らかに改善された。)

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悪印象しか残さなかった役場の対応だが、これについてはとても良かったと思っている。尤も、これは僕が電話をしたからではなく、初めから五輪に向けてやる予定だったのだろう。後に警官から職質を受けた際に聞いたが、4月中旬に改善されたという。

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駅前ロータリーしか歩けない大野駅東口には、大野児童公園がある。ここにもしっかりとバリケードが築かれ、中に入ることは出来ない。

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入り口付近に立つと、手元の線量計は1.90μSv/hまで上がった。中はどれほど高いのか。

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遮るものも何もなく、向こうとこちらはつながっているのに、帰還困難区域と特定復興再生拠点区域として分けられている。この奇妙な感覚は、行った者にしかわからない。ここを飛び越えて中の線量を測ろうと思うが、自分の中のおかしな「規範」がそれを止めた。考えてみれば、チェルノブイリなら立入禁止であろう場所に自由に出入りしながら、規範もクソもないと思うのだが。やはりこの国はどこか壊れている。

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駅東口を見た後、西口へ移動する。西口には積算線量計の貸出ステーションがあり、前日双葉で借りた時は、「大野駅でもぜひ!」と言われていた。まあ言ってしまえば内閣府の意向を受けた人体実験なのだが、それに乗ってみようと心の中では考えていた。しかし貸出ステーションの営業時間は9:00〜16:00。まだ誰も来ていなかった。

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(ここからさくらモール、富岡駅まで行くことも出来る。)

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西口を出てから、大熊町役場に向かって歩き出す。「立入規制緩和」と言っても、駅前のエリアは線量が高すぎて道路上しか歩けない。

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(この先は一体どれだけの高線量地帯なのか。)

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(バリケードの外でさえこの線量。)

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(放置されたままの商店街。)

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規制緩和の前に大熊町議の木幡ますみ議員が10μSv/hを超えるホットスポットを発見しており、駅前商店街は通行不能となった。このエピソードは大手メディアではろくに報道されていない。福島県浜通りの実際の空間線量については、あくまでもローカルニュースであり、全国区ではタブーなのだ。

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(大野病院の脇のこの道は、車のみ通行可。3月に歩いた時は、常に1.0〜2.0μSv/hあった上、その先の交差点付近では6.0μSv/hも超えた。)

大野病院の手前で、前回6.0μSv/hを記録した道路を撮影しようと足をそちらへ向けたところ、帰還困難区域ゲート付近に立っていた警備員から「そちらは行けません」と呼び止められた。3月時点ではゲートに立つ警備員でさえ、どこが立入可能でどこが禁止なのかもわかってなかった。だから僕は警備員に呼び止められることもなく超高線量の場所に行けてしまったわけだが、今回はそれも是正されていた。自由が利かなくなり残念ではあるが、本来はこうあるべきだと思う。世間には僕みたいな世捨て人ばかりいるわけではないのだから。

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(駅前の歩ける道も、コンスタントに線量は高い。今時線量計を持ってここを歩く人などほとんどいないが、はっきり言ってここは歩いていい場所ではない。)

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(大野病院。)

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解放されているようで、実は左折しか出来ない交差点を抜け、まずは大熊町保育園を目指す。

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<続く>

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