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緊急連載・第2回「基準看護だけでなく『基準介護』『基準リハビリ』を新設するべきだ」

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*****令和4年8月1日(月)第148号*****

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緊急連載・第2回「基準看護だけでなく『基準介護』『基準リハビリ』を新設するべきだ」
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 今回の「緊急連載」は、第1回の「はじめに」で書いたように、日本慢性期医療協会が6月30日、第47回通常総会後に開催した「武久洋三先生・会長ご退任記念講演会」の内容で、日慢協が「BLOG」に掲載した内容を、弊紙向けに抜粋して構成しています。

 元々は日慢協の会員向けの講演であるため、医学用語等がたびたび登場します。可能な限り本紙でも注釈を加えましたが、その部分は読み飛ばして頂いても十分、武久前会長の主張はご理解頂けると思います。どうか気軽にお読み頂ければ幸いです。

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 【緊急連載・第1回「キチンと自分でご飯を食べ、自分で排泄できれば病院から帰宅できる」から続く】

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「入院中は、看護師や介護士等の多職種によるチームリハが行われるのは、当然のこと」
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 リハビリテーションは、医師と療法士だけで行うものではない。特に入院中は、看護師や介護士も含めた、多職種によるチームリハビリテーションが行われるのは当然のことである。

 療法士と患者が1対1で行う「個別リハビリテーションでなければ、診療報酬の算定が全く認められない」という、おかしなシステムを(厚労省は)いつまで続けるつもりなのだろうか?

 リハビリテーションは、必要なときに必要な治療を時間に関係なく提供し、病態の改善を第一に考えるべきではないだろうか? 脳卒中発作後、1ヶ月目も6ヶ月後も、1日あたり9単位と決まっている。それ以上はできない。

 急性期にリハビリをたくさんやって、6ヶ月後は半分にしてもいいと思うが、実態はそうなっていない。脳卒中リハビリテーションは、弛緩性麻痺の間に集中的にリハビリテーションを行うことが重要である。

 脳血管障害が起こったら、1ヶ月以内の弛緩性麻痺の期間でないと、その後は強直性麻痺になるから、弛緩性麻痺の間に集中的にリハビリテーションを行うことは学問的に当然である。

 発症後2週間が経過し、症状が落ち着けば、毎日6時間以上のリハビリを集中的に行うほうがいいのではないか? 疾患別リハビリテーションを廃止して、出来高から包括報酬への全面転換をするべきだと、私は思う。

 地域包括ケア病棟では、2014年の新設当初から入院基本料にリハビリ2単位が包括されている。単位を取るために汲々とした「20分間絶対主義」のリハビリから、時間を気にせず、一人ひとりの患者のためのリハビリを実施する方が良い。

 また、短時間リハビリや多職種による集団リハビリ等、さまざまなリハビリが実施できるほうが良いのではないか? 疾患別リハビリテーションの出来高払い方式は、リハビリ療法士の出勤日数が多いほど収益が増大する仕組みとなっている。

 このため、職員の労働環境改善を行う上で弊害となっている。週休2日制になかなかならない。医療費削減のためにも、出来高から包括報酬への全面転換をすべき時期が来ている。リハビリテーションは変わらなければいけない。

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「手術の前後にも、リハビリをすべき。そうすれば早く動けて、早く帰宅できる」
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 オムツをして、鼻から経管栄養のチューブをつって、がに股で歩行訓練をするというのは、いかがなものだろうか? 医療費や介護費を効率化するには、リハビリテーションは必須である。

 いまやリハビリテーションは特別な分野ではない。回復期に行うべきことでもない。国民にとっては、それぞれに必要な医療が提供されて障害が改善し、身体能力が高まり、日常生活が快適に送れるようにする技術である。

 それがすなわちリハビリテーションである。だから、どんな病棟でも必須の技術である。手術の前後にもリハビリを必ず入れるべきである。そうすれば、早く動けて早く帰れるようになる。

 患者は短期間の入院で病状を改善してくれて、リハビリで日常に戻る確率の高い病院に集中する。リハビリテーション力のない病院は評価されない。

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「急性期病院から紹介された患者には、低栄養や脱水症状で送られてくる場合が多い」
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 低栄養や脱水改善の重要性について述べる。慢性期病院には急性期治療後の患者が紹介される場合が多い。そして、これらの患者の半数以上がアルブミン3.8未満の低栄養状態である。

 (武久前会長が経営する)関連病院における、入院時の血液検査結果のデータを示す。急性期病院から入院してきた患者さんの多くが、脱水や低栄養・電解質異常・高血糖などの異常を多数抱えて、慢性期病院に来ている。

 平成22年から令和4年3月までに(武久前会長が経営する)当院を含む、計22病院に入院した患者8万5,909名についてみてみると、平均年齢80歳の異常値割合がみてとれる。入院時に尿素窒素が高い人が40.0%で最高は291.4。

 ナトリウムが低い人が43.9%で最低値が89.3。アルブミン4未満は80.1%で、最も低いアルブミンが1.1。このような状態で紹介されてきた。これが、10何年間ずっと同じである。変わらない。今でも全然良くなっていない。

 急性期病院での、治療に伴う低栄養や脱水は今も延々と続いている。それは、紹介状を見ればわかる。病名に脱水や低栄養状態であることを示していた病院は、たった7%。また血液検査結果が異常であることを示し、注意を促していた病院はわずか1%だった。

 お医者さんでなくても、常識でわかると思う。何もしないで普通にしているときに必要なカロリーは1,107kcalだが、熱が36度から38度や39度になった途端に、エネルギーの必要度は1,100から1,600、時には1,700程度は必要になる。

 それだけのカロリーがなければ、どんどん痩せていくことが学問的にわかっている。こんなことは、お医者さんならみんな知っている。人間は栄養・水分が不足すると生きていけない。犬でも猫でもそうだが、人は好みの違いが大きい。

 偏食の人もたくさんいる。病気にかかって入院すると給食が出るが、同じ献立である。食欲が落ちている状態で自分の嫌いな食べ物を中心に出されると、ますます食欲が落ちる。やがて低栄養になり、体重が減少し、体力や免疫力も低下してくる。

 医学的治療はとても重要だが、栄養と水分が体内に入らないと、治療に逆らって病状がどんどん悪化してしまう。投薬による胃腸障害も表れる。どのような病気でも免疫力、体力は最低限必要である。

 その補充のための栄養と水分の適切な投与は、治療のための第一歩として考えるべき対策である。急性期病院では、臓器別専門医による主病名の治療に傾注するあまり、特に高齢患者に多い合併症状まで治療する余裕が十分でないことが原因であると思われている。

 そこで慢性期病院では、急性期治療後の患者を受け入れ、低栄養や脱水をはじめとする医原性身体環境破壊の症状に対し、医学的治療だけでなく、十分なリハビリテーションを行い、早期の在宅復帰を目指している。

 2014年度(診療報酬)改定で、療養病床に「在宅復帰機能強化加算」が認められた。療養病床における在宅復帰率は半年間で46%で、退院先は老健や特養など、さまざまである。

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「病気しか診られない、病人を診られない医師が増えている。総合診療医の育成が必要」
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 これからの医療・介護をどうすべきか? 私は「総合診療医の育成を進めなければいけない」と訴え続けている。患者の年次推移を見ればわかるように、高齢患者の増え方が極端である。

 高齢者の入院増加に対して十分に対応できているか? きちんと高齢者の病気を治せているか? 医療現場では、この課題を解決するどころか「病気しか診られない、病人を診られない医師」が増えている。

 残念なことだが、80歳の年寄りが来たら急性期の臓器別専門医は「もうええやないか」と思っているかもしれない。医師の(大学の医学部等での)卒後臨床研修は、戦後の1946年にインターン制度が創設されたことから始まった。

 しかし、インターン闘争や国試ボイコットなどにより1968年(昭和43年)にインターン制度は廃止された。私は昭和41年(1966年)の卒業だから、ちょうどこの時期のど真ん中にいた。

 卒後臨床研修は1968年(昭和43年)から2003年(平成15年)まで、一切行われていなかった。平成15年に新しい研修制度が始まった。この新しい研修制度に初めて参加したのが私の息子である。

 1968年から2003年までの35年間は卒後臨床研修はなく、したがって現在79歳頃から42歳頃の医師は、原則として卒後臨床研修を受けていない。新医師臨床研修制度はいわゆる「前期研修」「後期研修」と呼ばれる。

 「後期研修」が医局所属の専門医の年数に加えることができるので、ほとんどの医師が臓器別専門医を目指して4年以上の「後期臨床研修」を受けている。「前期研修」は基本的な医師としての研修で、リスクの高い医療行為などは避けるように教育されている。

 さらに「後期研修」とは名ばかりで、医局に入る者が少なくて、教授はみんな困っていた。各病院で医師活動をしているのが実態で、本来の後期研修は専門医研修になっている。そして2018年から、新専門医制度が始まった。

 もう4年になる。日本専門医機構の報告によると、2022年から始まる専攻医は9,500人で、このうち総合診療専門医を目指す医師はたった250人しかいない。総合診療医講座のある医学部がとても少ない。
 
 医師の卒後研修制度の抜本的な見直しをしないと、大変なことになる。総合的高齢者対策は喫緊の問題。そこでこのようにしてはどうだろうか? 医師国家試験合格後、2年間の「前期研修」「後期研修」の初めの2年間を総合診療機能を学ぶための研修期間とする。

 この4年間の研修を経て、はじめて臓器別診療医の研修を行う医師養成制度にするべきだ。2年間の「前期研修」を終えたら、その後の2年間は臓器別専門医としての技術を磨くとともに、総合診療医としての知識とスキルを習得する研修期間としてはどうか?

 このような見直しによって、総合診療的に人間の体の全体を診ることができる。医師は、自らの臓器別専門医としての技術を磨くとともに、総合診療医としての知識とスキルを習得しなければ患者を助けられない。

 これからの医師は、総合診療医の訓練を受けた臓器別専門医でなければいけない。全体も見られるし、非常に細かいとこもきちんと見ている、こういう医者が欲しい。要介護者は急性期医療の治療中と治療後の、継続入院中に主につくられる。

 急性期病院の先生にこう言うと「そんなことない、私はキチンと診ている」と言うが、本当だろうか? 高齢者が急性期病院に入院したら、何の病気でも絶対安静とし、リハビリテーションをほとんど実施しないことが多い。

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「現在の基準看護だけでなく『基準介護』『基準リハビリ』を新設するべきだ」
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 入院中、高齢者でも夜中にトイレに行く。だが、途中で転倒して骨折したら病院の責任になるから、当直看護師がトイレに行かせないようにする。抑制するか、バルーンを入れる。それで2週間から3週間いれば、オシッコが出なくなる。

 すぐには出ない。そして動けなくなる。もう少し長くいると寝たきりになってしまう。要介護者をつくらないために私は、急性期からの早期リハビリテーションの重要性と、栄養管理の重要性をずっと訴え続けてきている。

 しかし、歴代の(厚労省の)保険局医療課長はやはり、全くわかっていない。「どうしたら、患者が助かるか?」ということがわかっていない。どんどん悪くする。それで死んでしまう。

 急性期病院に入院中に発生する「寝たきり患者」を減らしていくために、病棟内に配置すべきスタッフは看護師だけではない。介護職員をきちんと置く。リハビリスタッフも配置する。基準看護だけでなく、「基準介護」「基準リハビリ」を追加すべきである。

 急性期病院の入院費は、主に看護師の数で決まる。その看護師は優秀だろうか? 25歳か80歳かは不問である。70歳以上の看護師を40人そろえても通る。こんな馬鹿な話がどこにあるのか? 病院である。医療機関である。どれだけの手術をしたのか?

 それからすると、今回の(診療報酬)改定は見事である。具体的に2,000例以上など「これだけのことができる病棟だから、急性期病棟である」とした。看護師の数で急性期病棟の入院費が決まる? こんなおかしなことが、日本では今まで続いてきた。

 私は2019年8月に「基準介護」の新設を提案した=画像・日慢協BLOGより。黄色のラインマーカーは、弊紙による加工。日本看護協会も看護補助者の増員を要望してくれた。ところが、国家資格である「介護福祉士」という名前がありながら、看護師さんは絶対に彼らを介護福祉士とは呼ばず、「看護補助者」としか言わない。

 「(介護福祉士は)看護師の補助者なのか?」と言って、介護福祉士は誰も急性期病院に来ない。介護施設には来る。だから、とても困っている。病院に介護職員が少ない。補助金もくれない。えらい目に遭っている。

 入院患者は急性期であろうと、7~8割が高齢者である。「手間がかかる」「夜中にトイレに行く」。だから元から断たねばならない。急性期の病棟でキチンとしたら、あとはずっと楽になる。

 結果的に、要介護者は現状の半分になる。急性期病院に「基準介護」と「基準リハビリ」を入れるべきである。高齢で入院したら「もう80歳だから、ええやないか」というのではなく、キチンと治療できると思ったら、治療して改善させる。

 急性期病院での栄養や水分摂取、リハビリの軽視、そして身体拘束をなくせば、要介護者は確実に減るだろう。治療とともに栄養管理、リハビリを行い、患者の全身状態を管理し、患者が寝たきりにならないように、看護・介護スタッフに指導すべきである。

 【緊急連載・第3回「医療人は患者の『もっと生きたい』を受け止め、全力を尽くすべき」へ続く】

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