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首里城火災の夜に

 私には台湾に住む台湾人の友達がいる。
名前はマギーさん。
きっかけは沖縄県那覇市の栄市場近くにある串焼きがおいしい居酒屋「あだん」で相席になった。
2年前、首里城火災があった日の出来事である。

モデル体型に栗色のロングヘアーが印象的な女性だ。英語が話せないくせに話しかけたい衝動にかられた私は後先も考えず、外国人にインタビューするテレビ番組で連呼していたフレーズを彼女にそのまま投げかけた。

「why did you come to japan?」

彼女は笑って「ひとり旅をしているの」っと答えてくれた。笑顔になった時の目が三日月の形に似ていて可愛らしい。
当然、その後の怒涛に押し寄せた彼女の英語での質問は私にはチンプンカンプンであり、それ以降の会話のほとんどを夫が通訳した。

マギーさんは行動的で、車だと那覇市内から高速道路で約1時間40分ほどの離れた本部町にある備瀬のフクギ並木に路線バスで移動していた。
「あだん」のカウンターで串焼きを注文する時も堂々としていて、ずらっと並んだ串焼きを目の前に腕を組んで悩む眼差しはカッコ良かった。

ひとり旅とは言え、マギーさんはアンパンマンとバイキンマンのぬいぐると共に旅をしていると嬉しそうに教えてくれた。本当はメロンパンナちゃんが好きなのだが、まだ手に入れられていないという。
子どもの頃から慣れ親しんだキャラクターが日本を飛び出し、そしてまた日本に舞い戻りマギーさんと日本を旅する。地球はなかなか面白い世界だ。

この夜、私たち夫婦は「あだん」で3件目。1時間で帰るつもりだったが、たどたどしい私の英語とそれをフォローする夫の通訳でアタフタする場面も楽しみしながら那覇の夜はどんどん深くなる。
マギーさんは私が三線を始めたこと、ケアマネージャーの仕事をしていることなど、私の日常に関心と驚きの表情をしてくれて、私のことをチャーミングだと言ってくれた。
私は照れながらも考える。
果たして私は異国でこんなに胸を張って旅が出来るだろうか。たった一人、見知らぬ国で自信を持った笑顔ができるだろうか。

マギーさんは英語が苦手な私へ「間違っていても良いの、どんどん話すことが大事よ」とアドバイスをくれた。マギーさんは英語に限らず何事もそうだよと言っているように聞こえる。
彼女がどんな人生を歩んできたかは分からないが、「あだん」での巡り合わせは強い縁を感じずにはいられなかった。

この夜、私は人生で素晴らしい出会いをしたのである。

私は酔った勢いで一度会ったら兄弟同然という意味を表すうちなーぐち(沖縄の方言)の「いちゃりばちょーでー」をマギーさんに教え、2人で連呼し大笑いをした。

首里城火災があったあの日、栄町市場の片隅にある居酒屋「あだん」では日本と台湾の熱い友情が生まれていた。

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