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【読んだ】夜が明ける

おすすめ度 ★★★☆☆

西加奈子さんの小説、3〜4作目。
かなり、重くて暗い小説だった。一気に読めなくて、どこかに希望はあることを期待してなんとか読み切った。
気持ちが安定して余裕があるときに読むのがおすすめ。

貧困、虐待、ブラック労働、社会の闇みたいなところを、西さんならではの表現力でガツンと描いているので、読んでる側もしんどくなる。うぅ。


主人公と、高校時代に出会った親友のアキの話が交互に進んでいく。
アキは、主人公が好きなマイナー俳優アキ・マケライネンにソックリで、おそらくこの表紙のちょっと怖い人物がそれだ。
マケラインネンの説明があまりにリアルなので、どんな顔なのかググった(多分読んだ人みんなやる)けど、架空の人物だった。
名前が妙に覚えにくいのも、西さんの狙いなのか。マネライケン?ライネマン?何度も出てくる名前なのに上手く読めない。

アキは、貧困と母親の虐待を受けているのだけど、おそらく母親が統合失調症などの精神疾患がありそうで、母親が悪いと切り捨てられない。
精神的虐待に近い環境で、認知の歪みを植え付けられていく。
じわじわそうなっていく描写が怖い。

主人公は、もともと普通の高校生だったけど、父の死をきっかけに相対的貧困に近い状況になる。
なんとか大学を卒業してテレビ制作会社にはいるけど、絵に書いたようなブラック企業で、肉体も精神も蝕まれていく。
この蝕まれっぷりも省略なし、怒号もハラスメントも、嘔吐も不眠も余すところなく描かれている。

ノンフィクションで貧困や虐待、知的障害、ブラック労働などの本を散々読んできたので、フィクションの世界でまで読みたくないよ〜と思ってしまった。
西さんの表現力がしんどい。


どうしてこんなにしんどい話を書いたんだろう?と考えた。

「夜が明ける」というタイトルなのに、小説の中で、はっきりと夜が明けることはない。(タイトル自体には美しい種明かしがあるが)
どうか、夜が明けますようにと祈る気持ちで最後まで読んだけど、希望の光がかすかに差し込む程度で終わってしまう。

どうして夜が明けるところまで描かなかったんだろう?
読後、あまりにモヤモヤするので考えていた。

はっと、「この小説を書いたのが主人公だとしたら、ちょっとは夜が明けたんじゃないか?」と思いついた。

小説は、主人公の一人称で進む。アキの章も、アキの残した日記(のちに主人公の手元に渡る)をベースにしている。
この物語を書いたのは、主人公なのか。
この物語を発表することが、アキと主人公の実態が世の中に明らかになることが、「夜が明ける」ことに繋がるのかもしれない。
こういう世界を知らない人に、リアルな状態を知らしめるという意味で、何か変わることを期待したのかもしれない。
主人公が、嫌な奴に復讐したいと感じた気持ち(めっちゃ共感した)をこういう形で実現したのかも。

うーん、わからん。解釈は人それぞれ。
とにかくモヤモヤを払拭したいので、私はこの解釈でいく。


西加奈子さんの作品、気持ちよく読める順でいうとこんな感じ。(個人の感想です)↓


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