建築・都市×メディアの可能性を探る|メディアの変遷からの考察
堤 遼
日建設計総合研究所 環境部門
研究員
メディアと建築都市空間の相互活用を目指して
建築都市のシンクタンクである日建設計総合研究所とコンテンツクリエイターであるTBSテレビは、IPコンテンツ・空間・ICTの相互活用を目指して共同研究を実施しています。
近年のメディア(注)は、お茶の間中心から都市のあらゆる場所に分散することで多方向化しており、エンタメに留まらない利便性や社会課題の解決など多様な価値を生み出しています。特にインタラクティブなメディアの代表であるゲームでは、例えばポケモンGOはゲームと身体活動を融合することで、エンタメを楽しみながら歩数が増え、健康増進や地域活性化に繋がるといったポジティブな影響をもたらしています。(出典1)
共同研究の目的は、こうした建築・都市空間におけるメディアへの洞察を深め、仮説の検証を重ね、都市とメディア双方の魅力向上やエンタメを超えた社会課題解決の一助とすることにあります。今回のnoteでは、都市におけるメディアのあり方について可能性を考察します。
都市生活にメディアが溶け込むまでの変遷
国内メディア視聴体験の大まかな変遷を(図1)に示します。1950年頃は駅前などに設置された街頭テレビに多くの市民が集まり、視聴体験を共有していました。3種の神器のひとつとして家庭に急速に普及すると、テレビを囲み食事と会話を家族で楽しむお茶の間が生まれ、さらに普及が進み家庭に複数のテレビが置かれると視聴体験の個別化が進みました。そしてスマートフォンの普及した現代では、場所に縛られないメディア視聴が一般化しYouTubeやNetflixなどメディアの多様化も進んでいます。
このようにメディア視聴のフィールドは、地域の共同体験から一家団欒、個別視聴へと、公共から私的な空間へ変化し、現在はモバイル化されて都市の至る所に分散しています。お茶の間に代表される住空間とメディアの固定的な関連は薄まる一方で、都市生活とメディアは切り離せないほど深い関係となりました。
視聴場所が自由になることで、視聴時間が増加する
メディア視聴の変化について、まず時間の観点から整理します。(図2)に示すように、メディアの総利用時間はスマホの普及と共に増加し続け、2009年から2021年の12年間で、132.7分/日も増加しています。
特に視聴時間の大半を占めるテレビとインターネットの利用時間帯を比較すると(図3)、テレビは朝食と夕食の時間帯に集中的に利用され、インターネットは職場等での昼食時を含め1日を通して利用されています。
テレビは「食事×家」に強みのあるメディアです。一方、インターネットメディアは場所に縛られないことに特徴があり、テレビとは異なる生活場面に視聴体験を創り出したことで、大きく視聴時間を延伸したと考えられます。つまりインターネットメディアの普及によって、メディアは視聴の場として固定された場所を必要としなくなったのです。
これからメディアはどう発展するのか
図4に示すように、利用時間×利用頻度の観点では、次の3つの生活場面に大分類されます。
① 長時間×低頻度でその場限定の視聴
② 中時間×中頻度で自宅での視聴
③ 短時間×高頻度で場所が限定されない隙間時間での視聴
また(図1)でのメディアの変遷を踏まえると①→②→③の順に、あらゆる生活の場面・隙間時間を埋めるようにメディアが生まれてきたことが分かります。
また(図5)に示すように平均的な一日の生活行動をメディア消費できない「拘束時間」、“ながら消費”できる「隙間時間」及びメディア消費可能な「自由時間」に便宜上分類すると、うち6割は拘束時間となっています。一方、残り4割の10.2時間/日は隙間時間・自由時間であり、メディア活用の可能性がある生活場面だと言えます。
これまでメディアは短時間×高頻度化しながら、場所に縛られず、都市生活の中に溶け込むように発展してきました。さらにその先を建築・都市の視点からみると、(図5)で隙間時間に分類した「移動」は、メディアにおいても重要な要素のひとつです。例えば、移動経路の中に複数のメディアを連続的に配置することで移動ルートごとに異なるナラティブな体験を生んだり、あるいはメディアが備える抽象的な価値や効果を人の移動から定量化することでより魅力的なメディア作りに繋げたり、といったことが考えられます。
メディアやコンテンツ単体ではなく、メディアとその周囲の空間を一体で考え、空間やその場にいる人に着目することで新たな価値が生まれています。例に挙げた「移動」に限らず、メディアがより深く都市生活と融合することで、新たな視聴の時間や体験が生まれ、それと同時に建築・都市空間のあり方やその使い方までも変化させています。
今後に向けて
メディアの変遷を分析し建築・都市の視点を重ねることで、生活のあらゆる場面を通してメディアはより深く建築・都市と繋がり、双方向に影響し合いながら発展していくことが示唆されました。建築・都市×メディアの可能性に対して、共同研究では様々な検討や実証実験を進めています。NSRIはその実現を支える検証(データ分析、可視化など)の担い手として、今後も様々な取組みを通じて発信・提案を続けたいと考えています。
堤 遼(執筆者)
日建設計総合研究所 環境部門
研究員
建物や地域の省エネ・脱炭素領域が専門。エネルギー分野に加え、建築の環境価値や行動変容、メディア活用など、建築・都市の環境について、データに基づいたプロジェクトを推進しています。
杉原 礼子
日建設計総合研究所 都市部門
研究員
都市・地域政策や交通計画、次世代モビリティに関するプロジェクトに従事。住民参加のワークショップ運営やデータに基づくビジョン・計画策定など、幅広くまちづくりに関わっています。
河野 匡志
日建設計総合研究所 環境部門
執行役員
カーボンニュートラル化に向けた様々なニーズに対して、ビジョン策定、データ分析・評価、可視化など、社内外の知見を活かしながら、新たなアイデア等も添えながら業務を進めています。
永井 雅人(共同研究者)
TBSテレビ メディアテクノロジー局ICTセキュリティ戦略部
AVOD配信基盤・公式Webサイト配信基盤・新規オウンドメディア構築・個人情報保護など、ICT分野において幅広くプロジェクトマネジメントに従事。キーワードは『デジタル時代のお茶の間』。
注:このnoteにおけるメディアとは、放送、新聞等のマスメディアに限らず、携帯インターネット等のパーソナルメディアを広く含みます。総務省情報通信政策研究所「メディア・ソフトの制作及び流通の実態に関する調査」における定義を参照。
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